スピーキング指導ハンドブック第11章
「ディベートの指導」
11.1 ディベートの種類
ディベート…1つの論題に対し、2チームの話し手が肯定する立場と否定する立場に分かれ、自分たちの議論の優位性を聞き手に理解してもらうことを意図した上で、客観的な証拠資料に基づいて議論を進めるコミュニケーション形態。
ポリシーディベート(policy debate)…“should”を含んだ議題(proposition)に対して事前に十分な調査をして、論証の証拠となるデータを数多く集め、集めたデータを一つ一つ吟味しながら主張を論理立てた上で協議に臨む。
パーラメンタリーディベート(parliamentary debate)…イギリスの国会形式を模したディベートである。それぞれ2人のディベーターで構成される与党側と野党側に分かれ、議題(motion)はディベート開始20分前に発表される。これは専門家でなくとも一般の人にもわかりやすく説明できることが要求されているためであり、ディベーターは日頃から社会問題に関心を持って資料を集めて置く必要がある。さらに、その場で質問に答えることや議論の論理性だけでなく、発表のスタイルやユーモアも判定の要素になるため、スピーキングの即興性が問われる。
11.2 ディベートで育成される資質・能力
1.
自分の意見を理由・根拠を持って話すことができる(論理的思考力)
2.
議題について様々な角度から検討することができる(批判的・多面的思考力)
3.
議題への具体的解決策を提示することができる(問題解決能力、創造・想像力)
4.
人をどのように説得するのかの戦略を立てることができるか(メタ認知能力)
これらの能力には「客観性があり、人と共有できる考え方・話し方」が必要である。
例:「修学旅行はどこがいいですか?」という質問に対して「何となく」という理由は客観的でも論理的でもない。
11.3 暗誦によるディベートの流れのイメージ化
いきなりディベートを授業で行っても、生徒の英語力・アイディアの不足により上手くいかない場合が多い。そこで生徒とアイディアを出し合いながら英文を作り、その英文を暗誦してディベートのイメージを持たせることから始める。話題は生徒にとって身近なものが良い。
身近な話題【Our School】
1.
良い点・悪い点について生徒に質問(日本語でも英語でもよい)
2.
生徒から出てきた意見を1語から数語のキーワードで板書(すべて英語で)
3.
生徒を指名し、板書のキーワードを英文にする(できない場合は教師が英文を言う)
4.
板書されたキーワードを指しながら英文をリピートさせる
5.
英文をノートに書く(教師が作成した英文を配布してもよい)
6.
書き取った英文をread and look upさせる(宿題としてノートを見ないでスラスラ言えるよう練習させる)
7.
起立させ英文を5つ(できる限り多く)素早く言わせ、できたら座る(制限時間を設けるとよい)
8.
ペアになり、交互に英文を言う(時間制限を設けるとよい)
9.
今まで出てきたキーワードの具体例を考えノートに書く(教師が例を示す。日本語でもよい。)
10.
項目ごとに発表する
11.
チャンクごとにリピートさせる
12.
宿題(教師が作成した理由とその具体例が書かれた英文を配布し、スラスラ言えるまで練習)を課す(英文に誤りがないかを確認しておく)
13.
First,
Second,…を入れて5つの理由とその具体例を言う(制限時間を設けるとよい)
14.
ペアになり、交互に英文を言う(制限時間を設けるとよい)
15.
反論を考える。この時、以下のフレーズを紹介した後でキーワードの板書を使いながら具体例を考える。(「事実と異なる」「一部事実と異なる」「事実だが重要性や関連性が低い」などのポイントから考えてノートに書いていく)
@
That’s
true, but →一部事実と異なる
A
That’s
not true, because →事実と異なる
B
That’s
not always true, because →一部事実と異なる
C
That’s
not relevant, because →事実だが重要性や関連性が低い
D
That’s
not important, because →事実だが重要性や関連性が低い
16.
反論を発表する
17.
宿題(教師が作成した反対理由とその具体例が書かれた英文を配布し、スラスラ言えるまで練習)を課す(英文に誤りがないかを確認しておく)
18.
15で挙げた5つの項目について、You said that?に続けて言わせる。起立させ、言い終わったら座る。(はじめに全員でまとめて練習した後、起立→個人活動→着席がよい)
19.
ペアになり、交互に英文を言う
20.
ペア対抗戦をする
o ペア対抗で肯定・否定の意見を交互に言う方法や役割を交代せずに肯定・否定側からのみ発言するなどのアレンジが可能である。
o 実際にペア対抗を行う前に作戦タイムを設け、既習のものだけでなく、新しい内容を考えさせることも大切である。
o 発展として否定側の意見に肯定側が再反論を試みることも当然可能であるが、正確な英文がある程度産出される段階以前では、日本語による再反論を行なってもよいこととする。
11.4 帯単位で行うミニ・ディベート
(1)
宿題を課す
授業中にディベートの手法を使ってスピーキング能力を育成するためには授業のはじめの10分間を使った練習が有効である。身近な話題を中心に行う。帯活動で行う場合、前もってgood pointsとbad pointsの例を示しておくと生徒は家庭で練習しやすく、他のアイディアも出やすい。
[価値判断例](好きか嫌いかなどの個人的価値を議論するもの)
[政策論題例](「?すべきである」を議論する論題)
表を参考に英文を作成することを宿題として課し、肯定側と否定側の両方を考えさせるか、一方側だけを考えさせるかは生徒の実情に合わせて決める。
以下のフレーズと合わせて書いてくることを指示する。
@
That’s
true, but →一部事実と異なる
A
That’s
not true, because →事実と異なる
B
That’s
not always true, because →一部事実と異なる
C
That’s
not relevant, because →事実だが重要性や関連性が低い
D
That’s
not important, because →事実だが重要性や関連性が低い
未習の単語を使う場合は事前に教師に発音を確認してもらうことを指示する。
(2)
帯単元
帯単元は短時間で同じ活動をある程度繰り返すことによって、言語の自動化を目指すものである。ディベートの手法を使った帯単元は、スムーズに立論(理由とその具体例)ができること、素早く反論(quick response)できることが目標である。
形態:4人グループ
役割:A…肯定、B…否定、C…審査、D…審査
A→B→C→D→A→B…の順に役割を交代していく。合計4回のミニ・ディベートを行うことに
なり、生徒それぞれが肯定、否定、審査2回を経験する。
時間:肯定側…30秒、否定側…30秒、合計4分
発言:肯定側→否定側→肯定側→否定側
審査:以下のフォーマットを使って審査する。
|
第1理由 |
審査 |
第2理由 |
審査 |
肯定側 |
理由、具体例 |
A、B、C |
理由、具体例 |
A、B、C |
否定側 |
反論のポイント 具体例 |
A、B、C |
反論のポイント 具体例 |
A、B、C |
以下のフレーズと合わせて書いてくることを指示する。
@
That’s
true, but →一部事実と異なる
A
That’s
not true, because →事実と異なる
B
That’s
not always true, because →一部事実と異なる
C
That’s
not relevant, because →事実だが重要性や関連性が低い
D
That’s
not important, because →事実だが重要性や関連性が低い
ルール
1
肯定側から始め、最初の30秒で第1理由とその具体例を示す。制限時間以内なら第2理由とその具体例を述べてもよい。
2
否定側は肯定側の意見に対する反論を30秒以内で行う。肯定側の意見と異なる観点での発言は許されない。ただし、肯定側がその理由もその具体例も示されない場合は、否定側の立案をしてもよいことにする。
3
肯定側は否定側の反論が終了後、再度、30秒以内で第2(3, 4)理由を述べる。
4
否定ぐぁは同様に肯定側の第2(3, 4)理由に的を絞った反論を行う。
5
制限時間が来たら、途中でもやめる。
審査
1
肯定側の審査は、理由とその具体例が述べられていたらA判定、どちらかが不足していたらB判定、何も述べられていなかったらC判定とする。
2
否定側の審査は、肯定側の理由またはその具体例に反論のポイント及び、その具体例が論理的に述べられたらA判定、一部内容が曖昧であったり、具体例の説明が不十分であったりしたらB判定、何も言わないか、肯定側の意見と無関係な情報が述べられていたらC判定とする。
3
A=B×2とし、AまたはBの合計で総合判定を行う。
4
引き分けの場合は否定側の勝ちとする。これは否定側が肯定側の意見を理解することと同時に反論することを要求され、より高度な技能を必要とされているからである。
留意点
1
できる限り準備して来た英文を読まないようにする。
2
制限時間は生徒の実情に合わせて設定するが、帯単元がだれないように、時間が足りないと感じるくらいの設定がよい。
ディスカッションポイント
段階的に難易度を上げていき、11.2で挙げられているような能力を育成することができるディベート活動のデメリットは何か。
l 途中で理解が追いつかなくなってしまった生徒が授業に対するやる気を失ってしまう
l 教師の負担が大きい
l 勝ち負けを決める活動であるため、負けた生徒が活動を嫌いになってしまう可能性がある