応用言語学特講T
人文学類3年 K.S.
10.インフォメーションギャップを活用したインタラクションの指導
10.1 はじめに
・生徒同士で情報を交換し合うインフォメーションギャップ活動が、以前より英語の教科書に数多く見られるようになった。
・インフォメーションギャップ活動を効果的に活用するために、
インフォメーションギャップ活動とはどのような活動なのか、授業の中でどのよう
に活用すればよいか、どのような活動のタイプがあるか、という点から見ていくことにする。
10.2 インフォメーションギャップ活動とは
10.2.1 インフォメーションギャップ活動の具体例
インフォメーションギャップ活動・・・
学習者が異なる情報をもっていて、活動の目的を達成するためにその情報をやりとりすることが必ず求められる言語活動。
[ Example 1 ] 一般動詞の疑問文
AとBに分かれ、4人の生活習慣について表の情報をもとにやりとりして、表を完成させなさい。
・一般動詞の三人称単数現在を使った疑問文と応答文で会話が行われる。
例)生徒A:“Does Ken eat three meals? ”
生徒B:“Yes, he does.”
・表を完成させるためには、生徒AとBはお互いに持っている情報を聞き出すことが必須であり、英語でのやりとりをせざるを得ない状況を作り出す。
10.2.2 インフォメーションギャップ活動の利点
・英語を使う必然性のない授業中であっても、生徒の持っている情報の差異を利用することで、英語を使わざるを得ない状況を作り出すことができる。
・学んだ英語を使って比較的短時間でコミュニケーションを疑似体験させることができる。
・活動で使う表現を十分に練習してから活動に取り組ませることにより、さまざまな文法や表現を活用させて生徒に達成感を持たせることができる。
10.3 インフォメーションギャップ活動の進め方
10.3.1 インフォメーションギャップ活動の位置づけ
授業は大きく分けて、2つのレベルに分けることができる。
@ スキル獲得(skill-getting)
・スピーキングに必要となる文法や表現に関する知識を身につける学習活動。
具体例)新しい文法・表現の提示及び説明・ドリル
A スキル使用(skill-using)
・学んだ知識を使ってコミュニケーションの中で応用する言語活動。
具体例)インフォメーション活動、より自由度の高い活動
・一般的に、授業はスキル獲得から始まり、スキル活用へと移行する。
〇スピーキング指導におけるインフォメーションギャップ活動の重要な役割
→学んだ文法の疑問文や応答文を実際どのように使えるかを話し相手とのやりとり
の中で練習し体験できる。
10.3.2 インフォメーションギャップ活動の進め方
1)活動を説明する
・どのような活動を今から行うのかを生徒に簡潔に説明する。
2)モデルを示す
・教師がモデルを示しても、英語の得意な生徒と教師がモデルを示してもよい。
・活動が少し複雑な場合には、活動のルールやステップを簡単に板書するとよい。
3)活動で使う表現を練習する
・しっかり語彙や表現に慣れさせておくことで、そのあとの活動に自信をもって
取り組むことができるようになる。
・生徒の実態に応じて、練習の量を十分にとるようにする。
4)活動に取り組ませる
・教師は以下のポイントに気をつけながら、生徒のやりとりを見て回り、必要に応じて生徒を支援する。
1.ペアのいない生徒の相手をする。
2.やりとりにつまずいているペアがいれば支援する。
3.間違いが多い部分がないか観察する。
4.活動のルールを徹底するように促す。
5.うまく活動できているペアを見つける。
5)発表させる
・いくつかのペアをクラスの前に出させ発表させる。
6)フィードバックを返す
・生徒の活動のやりとりを観察していて間違いが多かった部分があった場合には、活動後に、クラス全体にそのポイントを示し、その部分を練習する。
10.4 インフォメーションギャップ活動のバリエーション
1)文レベル 2)ディスコースレベル
におけるやりとりを求める2つのレベルで活動を分け、それぞれの活動のバリエーションの特徴とその活用ポイントを提示する。
1)文レベル 2タイプ
(1)与えられた情報をやりとりする
・表や絵などで、すでに情報が与えられており、表現する内容を生徒が自分で考える必要がない。
→表の中の語句が生徒にとって既習のものであれば、すぐに取り組むことができる。
[ Example 2 ] 現在完了の継続用法
[ Example 3 ] 現在分詞の後置修飾
(2)本物の情報をやりとりする
・表や絵によって与えられた情報ではなく、生徒自身に関する実際の情報を使ったやりとりであるため、パートナーから予想していない答えが返ってくる可能性があり、よりコミュニカティブな活動となる。
・2つのタイプ
@事実情報をもとにしたやりとり
[ Example 4 ] How many ~ do you have? ]
A生徒の意見や考えをもとにしたやりとり
[ Example 5 ] 比較の最上級
◎ディスカッションポイント
・ただ対話文を読む活動と異なり、お互いの情報を聞き出すことが必須であるインフォメーションギャップ活動は、生徒のどのような能力を向上させると考えられるか。
〇まとめ
ただ対話文を読む活動と異なり、お互いの情報を聞き出すことが必須であるインフォ
メーションギャップ活動は、生徒のどのような能力を向上させると考えられるか。
・ひとつひとつの言語項目(例:現在分詞の後置修飾、比較の最上級)に焦点を当てて活動を行うことに意味がある。
・その焦点を当てた文法を理解させ、さらにインフォメーションギャップ活動を行うことで、意味のやりとりができる。→フォーカス・オン・フォーム
・インフォメーションギャップ活動でのやりとりの繰り返しによって、その文が定着し、積極的な英語活動につながる。
・定型文を覚えられる。
・自分で応用させなければいけないため、より実践的でコミュニケーション能力がつく。
・学んだ英語を使って短時間でコミュニケーションを疑似体験させることができる。
・ただ対話文を読むのではなく、相手との実際のやりとりであるため、退屈でなく、楽しみながら取り組むことができる。
・相手から情報を聞き出すという活動を通して、実際に相手から情報を聞き出せたことが生徒の自信につながる。→英語への抵抗力が薄れる。
●インフォメーションギャップ活動におけるスキル獲得→スキル使用の授業の移行によって、定着しやすく、語彙力・応用力・コミュニケーション能力がつくだけでなく、生徒の気持ちの面でも成長を期待できる。