9章 プロジェクト型活動の評価
1. プロジェクト型学習とは
学習指導要領で求められている英語4技能を統合した活動や生徒が主体となった活動を実施する場合には、最終的なパフォーマンスやタスクに向けた段階的な指導や、パフォーマンスに必要な下位技能の習得が不可欠となる。
⇒これらを可能にするのがプロジェクト型学習
【西村(2012, p.3)によるプロジェクト型学習の特徴】
(1) 学習者中心であり、学習者の自律性を重んじる
(2) 学習の中心はテーマの内容理解を深めることである
(3) 学習者は、競争的であるよりは、協力的に学習にあたる
さらに西村は、第2言語教育におけるプロジェクト型学習にとって重要な概念として、学習者が1人または複数で取り組むタスクを通じての学習を挙げている。
⇒英語をタスク達成のための道具として活用することにより、コミュニケーションを通して英語を学ぶ学習指導要領の主旨とも合致
◆プロジェクト型学習の3つの利点
(1) 明確な目標設定がある
(2) インプットやアウトプットが増える
(3) 生徒の学習意欲が高まる
2. プロジェクト型学習の評価
教育的には多くの利点をもつプロジェクト型学習だが、以下の2点のような問題があるため評価に結びつけづらい現状がある。
(1) パフォーマンス評価の場合は最終目標となっているパフォーマンスのみを評価する場合が多く、一定の期間にわたって行われた活動においても最終的なタスクや技能の評価のみが行われ、必ずしも評価のバランスがよくないという点
(2) ペアやグループでの協同学習の場合、生徒個人としての評価が難しくなってしまう点
⇒このような課題に対応した評価方法として、ルーブリックを活用した評価とポートフォリオを使った評価方法がある
2.1 ルーブリックを活用した評価:プレゼンテーション・プロジェクト
プロジェクト型学習としてプレゼンテーションを用いる場合、個々の生徒の評価を複数の技能にわたって行わなくてはならないため、より客観的かつ円滑に評価できるルーブリックを活用するとよい。
ルーブリックを評価基準として活用する場合、プロジェクトの初めに生徒に提示し説明しておく。
⇒教員と生徒で評価基準を共有できるとともに、生徒にとっては明確な学習指標となる(阿部, 2011;三井, 2011)
ヨーロッパ共通参照枠(CEFR)における聴衆の前での講演のルーブリックなどを参考にして、教室内の授業におけるルーブリックの作成をするとよい。
NIER(2012)は、評価をA(十分満足できる)、B(おおむね満足できる)、C(努力を要する)という3段階に分けてパフォーマンス評価を提示している。以下は三井(2011)による沖縄プレゼンテーションのルーブリックの例である。
目的:沖縄に行ったことのないALT教師に沖縄のおすすめスポットを紹介する
活動の流れ:教科書で沖縄についてのレッスンを学習→3?4人グループで沖縄修学旅行の際に写真や資料収集→発表準備およびポスター作成→ポスターを使ったグループ・プレゼンテーションおよびALTによる質疑応答
表2 沖縄プレゼンテーションのルーブリック(三井, 2011, p.34)
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内容 |
ポスター |
質問 |
A |
おすすめの場所について、わかりやすく理由や説明が示されている。 |
必要事項を含んだ見やすいポスターである。 |
先生の質問に正確に答えられる。 |
B |
おすすめの場所について、理由や説明が示されている。 |
必要事項を含んだポスターである。 |
先生の質問にほぼ正確に答えられる。 |
C |
理由や説明は不十分だが、おすすめの場所について書かれている。 |
必要事項が不足したポスターである。 |
先生の質問に答えられない。 |
プレゼンテーションをグループとして評価することも可能であるが、表3のような評価表を作成することにより、ルーブリックに基づき各グループの個々の生徒の評価を簡単に、かつ信頼を確保しながら行うことができる。
表3 プレゼンテーション評価表例
Group 1
発表順 |
氏名 |
内容 |
ポスター |
質問 |
1 |
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A B C |
A B C |
A B C |
2 |
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A B C |
A B C |
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3 |
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A B C |
A B C |
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4 |
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A B C |
A B C |
◆グループ・プレゼンテーションにおけるそれぞれの生徒を評価する場合の注意点
(1) それぞれの生徒について発表条件をできるだけ同じにすること
(2) 質疑応答の際、質問の難易度をできるだけ一定にすること
●ディスカッションポイント
「担当の教師の負担を減らすにはどのような工夫が必要か?」
・ALTと連携して授業を行う
・汎用性の高いルーブリックの開発
・質疑応答で生徒から質問させる
・ルーブリックにコメント欄をつける
・ABCに分けず、コメントのみをフィードバックする
・生徒も評価に参加させる
2.2 ポートフォリオを活用した評価:ディベート・プロジェクト
<ディベート・プロジェクトの課題>
課題は以下の2つ。
・複数の技能をバランスよく評価することが難しい。実際はプロジェクト活動の内パフォー
マンスだけが評価対象となってしまいがちである。パフォーマンスに至るまでの過程も
評価に加える必要があるが、そのとき評価のバランスをどう配分するかも難しい。
・個人の評価が難しい。パフォーマンスは協力して行うものであること、役割がそれぞれ
異なるため同じ指標で評価しにくい、以上2つがその理由である。
以上の課題を克服するための手段としてポートフォリオの活用が挙げられる。
<ポートフォリオの利点>
ポートフォリオの利点は以下の3点である。
・一定期間の生徒の進歩を多面的な観点から見ることができる。
・内省や学習者の自律を促すことができる。
・学習、教授、評価を統合することができる。
<ポートフォリオ評価活用の手順>
ポートフォリオ評価活用の手順は以下の8段階に分けることができる。
1. ポートフォリオの目的の設定
2. ポートフォリオ・タスクの設定
3. 評価のための基準作成
4. 構成の決定
5. 生徒への説明
6. プロジェクト活動の開始
7. ポートフォリオの観察
8. ポートフォリオの評価
8.ポートフォリオの評価においてはぶれのないルーブリックを用いる。例えば3段階で評価する場合それぞれの段階に当てはまるような具体例を用意することで評価の信頼性を高める。プロジェクト型学習を毎年行うならばそれぞれの評価にあたる代表例を次年度のために残しておくとよい。
3 プロジェクト型学習の評価における注意点
注意点は以下の3つ。
・ルーブリックの表現は具体例を示せるようにし、曖昧さを回避、客観的な評価基準を作成
する。
・評価者間訓練を実施し教員間で判定基準を共有する。
・複数教員で評価し評価の信頼性を向上させる。無理ならばパフォーマンスを録画録音し
その20%をほかの教員と共に評価、一貫した評価ができているか確認した上で教員ひと
りが評価する。相互評価の活用も可。
4 おわりに
<ルーブリック>
長所:パフォーマンスをその場で評価する場合、円滑で信頼性のある評価を行うのに役立
つ。
短所:パフォーマンスを瞬時に判断、評価するので、十分な信頼性を確保するための注意
が欠かせない。
<ポートフォリオ>
長所:最終的なパフォーマンスに加えそこに至る過程も評価できる。
短所:評価対象が多く評価が煩雑になり得る、評価タスクの選定、判定基準の作成が重要。
以上を十分に理解した上で実際に行うプロジェクト型学習に適する評価方法を選ぶことが求められる。
ディスカッション・ポイント
・「今学期の授業ではディベートを行います」と教師がいうと、実際はポートフォリオを活
用することによりディベートのパフォーマンス以外も評価対象になるのだが、それを初
回の授業で提示しただけでは学習者の意識上に残りづらい。それゆえ、学習者は次第にデ
ィベートのパフォーマンスのみに意識がいって、それ以外のポートフォリオ・タスクに対
しては手を抜きがちである。ディベートのパフォーマンス以外のポートフォリオ・タスク
に対するモチベーションを維持するにはどうしたらよいか。
・ポートフォリオ・タスク間の結びつきについて。例えば調べ学習とディベート。ディベー
トは調べ学習を前提として設定されている。調べ学習で振るわなかった生徒は、その影響
が次のタスク、ディベートにも反映されてしまうので、ディベートに臨むに際しモチベー
ションを維持しづらい。解決策はないか。
リアクション
・テーマによって難易度が大きく変わってしまうので、予め難易度に違いが生まれないようなテーマを教師がいくつか選択肢として提示しその中から生徒にテーマを選ばせるべきではないか。
・ディベートのパフォーマンスはそれに至るまでの準備活動を基盤とするため、両者のクオリティにおおきな差は生まれにくいのではないか、よってディベートと準備活動に関してはモチベーションもそこまで問題にはならないのではないか。
・毎回の授業、終わりの5分でその時間内における自分の活動内容、メンバーの活動内容を記録させる。そうすればモチベーションを維持できるのではないか。
・全体評価の際、個人評価とグループ評価、どちらの評価に重点を置くべきか。