応用言語学特講Tb 発表資料

8章 リーディングと他技能との技能統合的活動の評価

 

1. はじめに

・「学習指導要領(外国語科)」では「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4技能を総合的に育成することについて以下のように示されている。

 

中学校におけるコミュニケーション能力の基礎を養うための総合的な指導を踏まえ、聞いたことや読んだことを踏まえた上で話したり書いたりする言語活動を適切に取り入れながら、四つの領域の言語活動を有機的に関連付けつつ総合的に指導するものとする。

(高等学校外国語科目「コミュニケーション英語T」からの抜粋)

 

・これは4つの技能を個別に指導し評価することを否定するものではないが、学習者にとって外国語を学ぶ際の目的は「情報や考えを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力」をつけることだということも事実である。

Bachman & Palmer1996)によれば、「真正性」が高いテストを用いることで、そのテストの得点を現実社会において一般化でき、テストの実施自体が受験者の認知とパフォーマンスを向上させることができるとされている。

 

・真正性…目標言語使用域におけるタスクと言語テストでのタスクがどれほど似通っているかの度合いによって定義されるもの。

・目標言語使用域(target language use domain)…テスト受験者がテスト以外でその言語を使用すると考えられる状況や場面のこと。

 

 

2. TOEFL iBT

・国際的な英語能力テストの一つであるTOEFL iBTでは、技能統合的タスクが積極的に取り入れられている(スピーキング6題中4題、ライティング2題中1題が総合問題)。

・本節では、「Educational Testing Service」(2012, pp.170-179; pp.195-206)より、リーディングとの組み合わせの技能統合的タスクの形式とその評価について取り上げる。

 

 

 

3.1 リーディング・リスニング・スピーキング 1

・「大学からのお知らせ」や「学生が大学新聞の編集者へ送った手紙」などの文章を読解し、関連する学生の会話を聞き、最後に「今聞いた学生の意見についてその内容をまとめた上で、彼らがそのような意見を持つに至った理由について、あなたが読んだり聞いたりした情報を示しながら口頭で説明」するというようなもの。

・読解する文章は75100語程度で、その制限時間は4550秒。

・聞き取る学生の会話は、60秒〜80秒間。

・スピーキングは、30秒の準備の後、60秒間で実施される。

 

3.2 リーディング・リスニング・スピーキング 2

・ある科目に関する文章を読解し、そのあとその講義を聞き、それに関する質問に口頭で答える、というようなもの。

・読解する文章は75100語程度で、その制限時間は45秒。

・スピーキングは、30秒の準備の後、60秒間で実施される。

 

3.3 リーディング・リスニング・ライティング

・ある科目に関する文章を読解し、そのあとその講義を聞き、筆記で「読解した文章で述べられている事項に関して講義の中ではどのような疑問が呈されていたかを説明し、さらに講義の内容で重要な点につてまとめる」というようなもの。

・読解する文章は75100語程度で、その制限時間は3分間。

・ライティングは、計画も含めて20分間で行われ、要求される英作文は150225語程度。

 

・どのタスクでも「北米の大学や大学院への進学を目指す人たちが将来、留学先で身近に遭遇すると思われる具体的な場面設定」がなされている。つまりTOEFL iBTの技能統合タスクでは、学生が大学入学後に講義を十分に理解でき、円滑に大学生活を送るに足るだけの真正性が保証されているといえる。

TOEFL iBTの技能統合タスクではルーブリックによる総合的評価が行われており、リーディングやリスニングなどのインプット技能は、スピーキング評価の中でいえば「内容の関連性」の観点に含められて評価される。

 

・外国語を日本の児童・生徒たちに指導するときは、TOEFL iBTで考慮されている目標言語使用域とは異なる使用場面について考えなければならない。

・第6章にもあるように、根岸(2011)に述べられている「強い技能統合 strong integration)」と「弱い技能統合(weak integration)」の区別も重要である。弱い技能統合の場合は、敢えて統合的に評価せずに技能別に評価を行う方が比較的有効である。なお、TOEFL iBTで用いられている技能統合タスクは、強い技能統合として分類される。

3. 英検二次試験

・英検二次試験のスピーキングテストでも技能統合タスクが出題されている。以下、高校卒業レベルとされる英検2級の問題を例に論じる。

 

3.1 No.1の設問

・文章を読んだ後、面接官から受ける質問に口頭で答えるというもの。

・読解する文章は60語程度で、20秒の黙読の後に音読をする。

・質問に対する回答の「スピーキングとしての自由度」は低い。

 

3.2 No.2の設問

3コマのイラストを見て、そのイラストの展開について口頭で説明するというもの。

・イラストには20語程度の文や語句が含まれている。

・スピーキングの前には20秒間の準備時間が設けられている。

 

No.3No.4の設問では、スピーキング単独の技能を測定している。

・「応答内容」と「情報量」の観点によって、スピーキング中のリーディングによる理解が評価されている。

 

〇授業を終えて

TOEFLの技能統合タスク3.1では、日常的なテーマが扱われ、on campusの英語運用が求められていると分かった。また、インプットした内容を自分の中で再構成してアウトプットしなければならず、比較的スピーキングに重点が置かれたタスクといえるかもしれない。

・同じく技能統合タスク3.2では、3.1とは異なり学問的なテーマが扱われ、in classの英語運用が求められていると分かった。こちらのタスクでは、インプットした内容をそのままアウトプットするため、比較的リーディング・リスニングに重点が置かれているのかもしれない。

・同じく技能統合タスク3.3は、インプットした内容を再構成して説明するという点では3.1のタスクと似ている。ここでは3.1のタスクにおけるスピーキングの60秒という制限時間でアウトプットできる英語は3.3のタスクにおけるライティングの150語〜225語の英語に相当するのかという疑問が呈された。

・外国語を日本の生徒に指導する際、考慮すべき目標言語使用域を受験英語ととるのか日常英語ととるのかで指導方法が大きく異なりそうだと感じた。