1.学習指導要領と4技能の統合
【中学校学習指導要領におけるコミュニケーション能力育成のための4技能の記述】
いままで:「聞くこと」「話すこと」に力を入れてコミュニケーション能力を育成。
これから:「読むこと」「書くこと」にも力を入れ総合的にバランス良く指導。
→4技能を統合したコミュニケーション能力(=真正性の高い言語活動ができる能力)を育成する。
【学習指導要領における4技能の統合に関わる言語活動の記述】
中学校学習指導要領:
4技能それぞれの定義のなかに他技能についての言及がある。
→中学校から4技能を統合したコミュニケーション能力の育成が強く示唆されている。
高等学校学習指導要領:
「聞くこと」や「読むこと」と、「話すこと」や「書くこと」を結びつけ四つの領域の言語活動の統合を図る、と明記している。
→中学校での4技能の「総合的」指導及び「統合的」活動に基づいて、深化拡充した言語活動が求められる。
2.技能統合的評価の必要性
【授業内の技能統合的活動】
英文を読みその内容をリテリング(ストーリーリテリング)、インタビューした要点を書きとる、など。
→その活動に対応した評価が必要。
※例えば「読むこと」「話すこと」がそれぞれできることと、「読んで話すこと」は必ずしも同じではない。
【技能統合的タスクの実例 TOEHL IBT】
Section |
Integrated Taskes |
Speaking |
- Read + Listen
→ Speak - Listen → Speak |
Writing |
- Read + Listen
→ Write |
→教育現場での到達度テストだけでなく、TOEFLのような大規模に行われる熟達度テストにおいても、現実の使用場面にできるだけ合わせて技能統合の能力の評価を打ち出している。
3.技能統合的活動と評価
技能統合的活動の評価方法について
・最終目標となる技能を目指した技能統合的活動の評価
・タスクとしての技能統的合活動の評価
以上の2つを紹介する。
⑴技能統合的活動の種類
・2技能の統合:各レッスンの課末で行うことができるような比較的身近で教育現場でも実施しやすいと思われる活動。
・3,4技能の統合:資料集めなどから始まり収集した資料などを基にスピーキングやライティングなどの産出活動につなげるような比較的大がかりな活動。統合される技能が多いほどより規模の大きい活動であるプロジェクト型学習になりうる。
以上の二種類。
⑵最終目標となる技能を目指した技能統合的活動の評価
どの技能をどの割合で評価すべきか。
【技能の統合具合の強弱に基づいた評価方法】 根岸(2011b)に準拠。
・統合の程度が強い:統合した形で評価
→「理解する能力」「表現の能力」のうち中心的な技能の枠で評価する。
・統合の程度が弱い:それぞれの技能ごとに評価
以上の2種類。
【*NIER(2012)における技能統合的活動の評価方法】
技能統合的活動を4種類に分け、その4種類それぞれを中心となる技能の枠に入れる。
技能を有機的に関連させた活動については、統合された技能のうち、最終目標の技能の枠
の中で評価する。最終目標の技能ができるように指導することが大切。
【実例 ―「読むこと」と「話すこと」の技能を統合したテストと評価 ― 】
目的:読んで得た情報を口頭で要約し、それに関して自分自身の考えやその理由を口頭で伝える能力を評価する。
テスト形式:インタビュー形式。タスクは2つ。1つは指示された3つのキーワードを全て用いて本文の要旨を述べるタスク。1つは本文の内容に関連した問いに対して自分の意見を述べるタスク。
評価基準:(NIER, 2012, pp. 46-49に準拠。)以下の通り。
評価 |
状況 |
評価のポイント |
A |
十分満足できる |
文法・語法等の誤りが少なく、多様な表現を用いて適切に内容を伝えることができる。 |
B |
おおむね満足できる |
文法・語法等の誤りはあるが、3つのキーワードを全て入れて、おおよその内容を要約することができている。 |
C |
努力を要する |
評価Bの基準を満たしていない。 |
※NIER…National Institute
for Educational Policy Research (国立教育政策研究所)の
略。教育政策に関する総合的な国立の研究機関として、学術的な研究活動から
得た成果を教育政策の企画・立案にとって有意義な知見として集約・提示する
立場にある。また、国際社会において日本を代表する研究機関であるとともに、
国内の教育に関係する機関や団体等に対して情報を提供したり必要な助言・支援を行う立場にある。
【まとめ】
・統合された技能のうち最終目標となる技能を評価する。
・「理解の能力」と「表現の能力」を統合した活動の場合、最終目標は「表現の能力」な
のでそちらの技能の枠で評価する。
⑶タスクとしての技能統合的活動の評価
【タスクの定義】 Willis(2003)に準拠
「コミュニケーションを行う目的を持って英語を使う活動であり何らかの成果を導くために行われるもの」。
【タスクに基づくテスト】 Norris et al.(1998)に準拠
タスクに基づくテストは広い意味でのパフォーマンス評価である。
タスクに基づくテストの重要な3つの要素
・タスクに基づくこと
・できるだけ実際の活動に近いこと
・タスクが成功か失敗かは資格のある審査員によって評価されること
技能統合的活動のタスクに基づく評価の特徴は、コミュニケーションの目的が達成されたかどうかで判断する点である。
【パフォーマンスの測定方法】 Ellis(2003)に準拠
以下の3つが挙げられる。
・タスク成果の直接的評価:タスクが達成されたか否か、二者択一の評価を行う。
・談話分析的測定:タスクのパフォーマンスから特定の言語的特徴を数えることにより分
析する。時間を要するため研究以外ではあまり用いられない。
言語的特徴の例
・言語能力:流暢さ、正確さ、複雑さなど
・社会的言語能力:リクエスト方略の適切さの程度
・談話能力:結束マーカーの適切さの程度
・外的評価:ルーブリックなどの評価尺度に基づいて行う。タスクに基づくパフォーマンス評価としては最も一般的な方法。
【ルーブリックの作成】
以下の2点を明記しなければならない。
・評価基準:測定される能力。行動的観点、言語的な観点から表現することが可能。
・判定基準:パフォーマンスのレベル。
【ルーブリック作成の実例】 Council
of Europe, 2004, p101に準拠。
|
ノート取り(講義やセミナーなど) |
C2 |
話の含意やほのめかしに気づき、それらをメモし、さらに実際に使った表現をノートに取ることができる。 |
C1 |
自分の興味関心のある分野の話題の講義で、詳細なノートを取ることができる。記録された情報が非常に詳細で、話された内容を忠実に再現しているから、ほかの人にもそのノートが役立つ。 |
B2 |
言葉そのものに集中しすぎて、情報を時には聞き逃す傾向もあるが、身近な話題で明確に組み立てられた講義なら理解でき、重要だと感じた点をノートに取ることができる。 |
B1 |
もし話題が自分の興味関心の範囲であり、話がはっきりとしていて、組み立てがしっかりしていれば、後で自分が使うには充分精確なノートを講義中に取ることができる。 |
B1 |
もし話題が身近で、簡単な言葉で表現されており、はっきりとした発音で標準的な話し言葉で話されれば、簡単な講義を聞きながら、重要な点をリストにすることができる。 |
A2 |
利用できる能力記述文はない。 |
A1 |
利用できる能力記述文はない。 |
4.おわりに
現行の学習指導要領では、中学校、高等学校とも4技能を統合したコミュニケーション能力の育成が焦点となり、技能統合的活動が増えてきている。それに伴い、技能統合的活動の評価も行っていかくてはならない。そのような評価方法として、
・最終目標となる技能を目指した技能統合的活動の評価
・タスクとしての技能統合的活動の評価
以上の2つの評価方法を紹介した。複数の技能が統合された言語活動を評価することは教員にとって簡単なことではないが、実際に活用できるコミュニケーション能力育成がますます求められている今日、より使用頻度が高くより現実的である技能統合型の活動および評価は、英語教育の教育現場においてさらに重要になってきている。
考察
・p.4【パフォーマンスの測定方法】について。三つの方法が述べられていたが、外的評価・ルーブリックを用いた評価の場合、タスクの達成度合いを行動的観点から表現して評価基準を設定することができる。言い換えると、タスク成果の直接的な評価方法を、評価基準と判定基準を設けることでより細分化して評価できるようにしたのがルーブリックを用いた評価である、といえる。それに対して談話分析的測定は、一見タスクの達成度合いとは直接関係のない要素を測定しているようにみえるが、実際はどうなのか。
参考文献
・「目的・沿革:国立教育政策研究所」
< http://www.nier.go.jp/03_laboratory/02_mokuteki.html
>(2016-6-25アクセス)
皆さんのリアクション
・実際は4技能の内のどれか一つの技能、特にライティングに偏りがちである。
・パフォーマンスの評価、うちスピーキングの流暢さを測定する意義について。内容理解が流暢さに反映されるといえるので測定している。