実践編F 大学におけるプレゼンテーションの実践と評価
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スピーキング+ライティング [大学] ―
1. はじめに
■ 中学・高校で導入されている観点別評価方法を取り入れた、大学教育におけるスピーチ活動の
実践と評価について紹介する。
(※ 本章では、プレゼンテーションをスピーチ活動として扱う。)
<人の心に届くスピーチの例>
(1) スティーブ・ジョブス氏のスタンフォード大学の卒業式でのスピーチ
(2) マララ・ユスフザイさんのスピーチ
⇒ 共通点: 卓越したパフォーマンス + 伝えるべきメッセージの明確さ
2. 説得力あるスピーチを行うために
2.1 授業の概要と目標
■ スピーキング活動の一環としてプレゼンテーションを行う
時間をかけて話す内容を吟味 [=ライティングと重なる部分も多い]
効果的にこれを伝えることができるプレゼンテーションの手法を習得
スピーチ後のQ&Aでの聴衆とのやりとり
⇒ 即興的な会話への橋渡しが期待できる!
(瞬時に話すべき内容を構築し、それを場面に応じて表現していくもの)
2.2 レッスンプラン
■ 学生がプレゼンテーションを行うまでに4〜5レッスンを費やし、原稿とパフォーマンスの
準備をする。
2.3 プレゼンテーションの実施
■ 聴衆となる学生:評価+(プレゼン終了後に必ず)質問をするよう指導する
■ 質問の種類や方法は、モデルパターンを準備段階で練習しておく。
3. プレゼンテーションの評価
3.1 ルーブリックを活用したプレゼンテーション原稿の評価
■ 評価:原稿とパフォーマンスの両面で行う。
■ 次の4点について、評価表(ルーブリック)をもとづいて分析的に評価を行う。
⇒原稿の優れている点や改善すべき点を明確に学生にフィードバックすることができる。
(1) 言語評価:語彙・文法の正確さ
(2) 内容評価:課題の目的に沿って、然るべき構成部分で必要な要素・情報が盛り込まれているか
(3) 構成評価:序論・本論・結論の要素が含まれ、論理的なスピーチ展開ができているか
(4) 形式評価:(原稿の書き方まで指導できる場合のみ)原稿の体裁は正しいか
3.2 プレゼンテーションの教員評価と学生相互評価
■ パフォーマンスの評価は、プレゼンテーションを聞きながら行わなければならないため、ルーブ
リックのような詳細な記述が含まれているものより、CAN-DOリストなどを使用する方がより
速く、正確に評価できる。
■ パフォーマンスについては、達成感をタスクごとに味わいながら徐々に自信をつけさせるような
評価方法(=1タスクについて焦点を当てるべきパフォーマンス課題を設定し、その課題の達成
度に応じて評価する方法)をとっている。
⇒評価方法に慣れ、プレゼンテーション終了までに自信を持って評価できるようになる。
■ 評価は、教員と学生全員で行う。
■ 成績をつける際には、教員の評価1に対して学生の評価平均1/2〜1/3として扱うなど重みづけ
をする等する。
■ 評価欄には必ず、プレゼンテーションの良い点と改善点を自由記述形式で求める。
■ 評価をする側の学生に関しても、クラスメート全員分のプレゼンテーションについて真摯に評価
し、コメントを記述しているかを数量的に評価することも可能。
■ 同様に、プレゼンテーション後の質問についても数量的に評価が可能。
学生が質問に十分慣れるまでは、質問の質よりも質問しようとする意欲を評価すると良い。
3.3 学生へのフィードバック
■ 発表終了後、原稿は添削し評価したものを学生に返却する。
■ 学生同士の評価の自由記述で書かれたコメントも、教師がまとめてメモとして学生に渡す。
4. 結果と課題
■ 授業後に行ったアンケートより、プレゼンテーションを行う上での考え方がプラスに変化した
という意見が得られた反面、問題が残る学生も多く見られた。
⇒各学生が自分の弱点に気付き、改善に努められるよう、プレゼンテーション終了後の授業に
おいて、個々の問題点の練習をする機会を提供していく必要がある。
■ 各スピーチに対する学生の取り組みや意欲、テーマに対する理解と意見形成、そして効果的な
伝達技能は、定期テストでは測れない学習状況の把握に最適。
■ 学生にとっても、各スピーチに対する評価をもとに、自己診断しながら次のスピーチを改善して
いくことができることから、自身の進歩状況を実感できる利点がある。
5. まとめ
■ プレゼンテーションは、肝心のメッセージが聴衆の心に届いているかを考えることが重要。
■ プレゼンテーションを行う学生自身だけでなく指導する教員も、その最終目的に沿って練習を
重ねていくことが重要。
◇ディスカッションポイント
・「各学生が自分の弱点に気付き、改善に努められるよう、プレゼンテーション終了後の授業におい
て、個々の問題点の練習をする機会を提供していく必要がある」とあるが、教師はどのように授業
を組み立てていけばよいか。
◇授業を終えての考察
・まず中間報告としてグループレベルでプレゼンをし、その後全体の前でプレゼンを行うことで、1
つのテーマでプレゼンテーションをする回数と評価をする回数を増やす案があがった。
これによって、1つのプレゼンテーションのやりっぱなしを防ぐ効果に加え、生徒間でわかるくら
いの修正を促せるのは生徒にとっても、負担の大きい教師にとっても良いと考えられる。
しかし、ピアフィードバックにおいて、生徒同士で素直に指摘し合ってくれるかどうかは課題であ
ると考えられる。
・他のテーマについてのプレゼンテーションを繰り返し課していくことで、プレゼンテーションを
する回数と評価をする回数を増やす案もあがった。
これによって、様々なジャンルにおける応用力が身につくことが考えられる。
・また、同じテーマで別のプレゼンテーションを行わせるという案も出た。
これによって、あるテーマに関して力がきちんと身についたかチェックできると同時に、生徒自
身も2回目で成長を感じることができるかもしれないが、同じテーマということで飽きが出るか
もしれない。飽きの解決法としては、プレゼンテーション活動を行う前に、実力をつけるために
同じテーマで何度かプレゼンテーションを行ってもらう旨を生徒に伝えておくことが挙げられる。
また、評価する際は、いかに伸びたかも評価の対象としつつも、フィードバックに頼りすぎない
よう、自身で考える原稿やパフォーマンス等の成長度合いを重視して行うべきであると考えられ
る。
実践編G リプロダクションを用いた
リーディングとライティングの技能統合的活動の実践と評価
― リーディング+ライティング [中学] ―
1. はじめに
■ これまでの日本の英語教育におけるライティング指導は、和文英訳中心で1文単位の英作文が
多かったり、また英語で文章を書く活動を行ってもその目的が文法事項の定着であったりした。
■ ライティングの最終目標は、自分の考えなどを書くことができるようになること。
=正しい語彙や文法を駆使して書いた英語の文章に伝えたいメッセージがあり、そのメッセージ
を正しく伝えるための文章の構成に一貫性をもたせる必要性がある。
⇒コミュニケーション能力を育成するためのライティング指導を「内容の一貫性」という文章の
構成面から指導することは、今後の英語教育に大きく役立つものと考えられる。
■ まず「一貫性のある文章構成」とはどのようなものなのかを理解することが大切。
→生徒が題材を読み取り、その読み取った内容を自分の言葉で再構成する活動を取り入れる。
(「読むこと」と「書くこと」を関連付けたリプロダクション)
⇒自分の考えや気持ちなどを一貫性のある文章で書くことができるようにしていく。
2. リーディングとライティングの技能統合的活動を取り入れた指導
2.1 授業の概要と目的
■ リプロダクションでは、英文の形式よりも伝えなければならないメッセージを重視しなければ
ならないため、内容を大切にしながら英文を書く習慣が身につく。
■ 「書く」という活動は、時間をかけて読み取った内容をどのように再生することができるかを
じっくり考えることができる上に、その再生した英文を元の英文と比較することで、表現した
くてもできなかった部分や、語彙・文法に関して自信のなかった部分に自分で目を向けたりす
ることもできる。
⇒ リプロダクションを通して、「習得」と「活用」が図られる点がとても効果的
■ 矢吹(1978)は、リプロダクション指導の注意点を10項目挙げている。(pp.196-197)
■ 生徒が興味を持つ題材を提示することが、リプロダクションを行う上で大切。
⇒生徒にとって身近であり、内容に主題、支持文、結論が読み取れる題材を準備することで、
自分の考えや気持ちを一貫性のある文章で書くことができるようになる。
■ 読ませる英文の種類は、物語文→説明文→対話文と段階的に変えていくと良い。
2.2 マッピングの指導
■ トピックに対する背景知識を呼び起こし、活性化させることで「伝えたいメッセージ」をより明
確に持つことができ、文章の内容にも一貫性をもたせることができる。
■ 授業の導入時にブレイン・ストーミングを行いマッピングで自分の考えや気持ちを想起、分類、
整理することでテーマに関するイメージを広げていく。
2.3 パラグラフ・ライティングの指導
■ パラグラフは思考表出の基本単位と考えられており、コニュニケーションとしての「書くこと」
においては「ある程度まとまった量の文章」つまりパラグラフレベルで書くことが意思伝達を可
能なものにすると考えられる。
■ パラグラフの構成法については、モデルとなるパラグラフを分析させることから始める。
※その際、主題文・支持文・結論を生徒につかませることが大切。
(これらを具体的に指導するためのタスクについては、p.198を参照)
3. リーディングとライティングの技能統合的活動の評価
■ 上記の活動を数時間実施した後、英作文テスト(p.199参照)を行った。
3.1 評価方法
■ 内容の一貫性についての評価方法
…
総合的評価法&分析的評価法
3.1.1 総合的評価法について
■ 文章のつながりがよいか悪いかを観点において評価する。
■ 文法の誤り、語の綴り、語彙の豊かさ、単語数は評価の観点に入れない。
■ 作文の評価を3人で行い、評価者間信頼性を出す。
■ 日本語だけで書かれた文は評価の対象としない。
※ be動詞は復元が容易なため、抜けていても文として認める。
※ SVCのVだけ日本語の場合、文として認める。
※ 英語の形を成さない構造は文として認めない。
Ex1.) 彼 a teacher. (isが抜けているが構造上、文として認める。)
Ex2.) 彼は a teacher です. (構造上、文として認められない。)
3.1.2 分析的評価方法について
■ 望月(2005, pp.134-138)に基づき、文の結びつきのタイプの割合を算出する。
■ 算出方法は、各タイプの文の数を分析対象の総数で割り、パーセントで算出する。
■ 評価者間信頼性については、3人の評価者で採点し相関係数を用いて信頼性を高める。
■ 文の数はTユニットで表す。(p.201参照)
Tユニットの数え方は、望月(1994)のパラグラフ・ライティングの時と同様に行う。
■ 分析対象外とするものは以下の通り
→最初の文(先行する文が存在しないため)、自己紹介、挨拶、挨拶質問の文
3.1.3 使用語彙数について
■ 出現した語をすべて1語ずつ数える ■
短縮形は2語として数える
■ 日本語で書かれている単語は数えない ■ Mt. Fujiなどの固有語は1語として数える
■ 綴り間違いがあってもカウントに含める
4. おわりに
■ ライティングの最終目標は、自分の考えなどを書くことができるようにすること。
■ 語彙や文法事項の定着を目指すライティング指導を越えた「内容の一貫性を重視する」という
視点は、これからの日本の英語教育が目指すものである。
■ 指導と評価の一体化を図りながら、自分の考えや意見などを相手に正しく伝えることができる
ようなコミュニケーション能力を身につけさせたい。
◇ディスカッションポイント
・生徒に読ませる英文の種類を、物語文→説明文→対話文と段階的に変えていくとあったが、
p.197の例文を用いると、対話文はどのように表現できるか。
◇授業を終えての考察
・要約の力は身につくであろうが、いまいちリプロダクションを行う意義がはっきりしないと感じ
た。
・元の分量の1/3で間接話法にしながら要約するのは、結構力の身につく活動になると考えられる。