応用言語学特講 実践編5 スピーキング(高校)

『スピーキングの指導と評価−科目「英語会話」での指導実践と課題』折原史康

 

内容:高等学校の英語教師である著者の体験を基にした、著者の英語会話に重点を置いた実際の授業方法の紹介

 

1.はじめに

高等学校でのアンケート:英語学習で身につけたいこと

(回答者69 複数回答可)

話す力

33

聞く力

19

書く力

14

読む力

7

異文化を知る

1

大学合格知識

22

→約二人に一人は英語が話せるようになりたいと考えている

⇒英語会話能力の重要性

 

2.科目「英語会話を」どう指導するか

2.1達成目標

平成25年より高等学校指導要領で高校の英語の授業では教師はできるだけ英語を使って授業をすることが定められた。

 

授業での達成目標

使用する教科書SELECT English Conversationが自分の身の回りに起こりそうなことを取り扱っていることから「自分の身のまわりに起こりそうな題材について、英語で簡単なやり取りができるようになること」と選定

 

2.2プラン

目標達成のために必要な二つのこと

@身のまわりに起こりそうな題材に関する基本的英語表現を、何度も口にだし練習、暗唱すること

A練習したことがどれくらい身についているかを評価するためのテストを実施すること

 

2.3英語会話の不安要素

英語を話すことは高校生にとってかなりの不安要素がある

 

英語会話における不安に関するアンケート

英語授業中に積極的に英語で発話するか(回答者69名)

大いにそうだ

1

ややそうだ

15

どちらでもない

2

ややそうでない

39

全くそうでない

12

 

「ややそうでない」「全くそうでない」を選んだ理由(複数回答可)

英語がわからない

23

英語に自信がない

13

間違えるのがいや

7

話せない

5

恥ずかしい

4

その他

2

 

これらの心理的不安を軽減させることが、英語指導の重要な要素

→解決するために以下の4つのことを念頭に置いた

 

@学習者の発話不安に共感した指導法をとる

(グループ・協同学習の導入、間違えても発表点は与える)

A発表前に学習者にヒントを与える

(黒板に絵をかく、ジェスチャーで示す、例を多く示す)

B楽しい授業の雰囲気をつくる

(英語のゲーム・歌の導入、英語を使って体を動かす)

C教室内の良い人間関係を築く

(生徒の名前を完全に覚える、どんなことでも互いに褒めあう)

 

2.4英語を話す機会の増やし方

多人数クラスでの問題→どうやって英語を話す機会、練習量を増やすか

⇒ペア学習、グループ学習

 

動機付けに関して

→プリントで一人一人にコメントを記した

 

問題解決に向けてなによりも授業で行っている内容を必ずスピーキングテストや定期テストに反映させた

 

3.科目「英語会話」をどう評価するか

3.1評価観点

@関心・意欲・態度(授業での英語学習への取り組み状況)

発表5点、提出物5点=10点満点

A思考・判断・表現(自分の考えなどが反映される課題を複数回評価)

5点満点の平均×210点満点

B技能(レッスン毎の目標対話表現を使って生徒同士が会話するスピーキングテストにより評価)

5段階評価の平均×525点満点

C知識・理解(定期テスト)

全定期テストの平均×0.5=50点満点

+出席店0~5点 合計100点満点

 

3.2判断基準

@発表点5点満点=発表数(挙手など)÷授業時数/5

 提出物点5点満点=提出した回数÷提出すべき回数×5

A自分の表現を使って内容も十分伝わる=5

自分の表現を使うが内容に理解しづらいところがある=4

自分の表現を使うが半分程度しか理解できない=3

自分の表現を使うが内容が伝わらないところが多い=2

内容が伝わらない、または自分の表現をつかわない=1

提出なし=0

B内容、発音ともに問題なし=5

 内容、発音の一方に問題あり=4

 内容、発音ともに若干問題あり、または内容、発音の一方にかなり問題あり=3

 内容、発音の一方に若干問題あり、さらに一方にかなり問題あり=2

 内容、発音ともにかなり問題あり=1

 テストを受けない=0

C全定期テストの平均×0.5

 

4.結果と考察

4.1結果

評定

割合

31.6

36.8

27.6

4.0

0.0

 

評価点と評価項目間の相関関係

 

定期テスト

発表点

提出物

スピーキング

課題点

評定

定期テスト

 

0.54

0.68

0.68

0.56

0.89

発表点

0.54

 

0.60

0.48

0.69

0.71

提出物

0.68

0.60

 

0.58

0.65

0.79

スピーキング

0.68

0.48

0.58

 

0.58

0.85

課題点

0.56

0.69

0.65

0.58

 

0.80

評定

0.89

0.71

0.79

0.85

0.80

 

 

4.2考察

評定45が全体の約70

→定期テストが全体の50%のため相関が高くなる(0.89

⇒定期テストはライティングが主なためライティングの成績で評定がつけられてしまう

一方で評定とスピーキングテストと評定も0.85と高い相関関係を示している

⇒評定はスピーキングとライティング能力を含めたものになっている

 

スピーキングと発表点の間の相関が小さかった(0.48

⇒発表をするからといってスピーキング能力が高いわけではない

 

5.課題

多人数学級では生徒の発話指導が十分にできなかった

スピーキングテストに大きく時間を割く必要があったため、実施していない生徒への指導が行き届かなかった

達成目標を評価する評価方法が妥当ではなかったのではないか

→スピーキング能力の評価点の割合が小さい

 

*これらを踏まえ来年度からスピーキングテスト70%、スピーキングテストの中に「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「知識・理解」の観点を追加、「関心・意欲・態度」を補うために発表・提出物10%、「思考・判断・表現」を補うために表現活動10%、「知識・理解」を補うためにレッスンごとの小テスト10%の割合で評価することを予定

 

ディスカッションポイント

@課題で取り上げられている問題を解決する方法は何か

A来年度に予定されている評価方法がスピーキングに偏りすぎではないか

 

具体案

@・大学など少人数クラスで実施する

 ・実施していない生徒に課題を課す

 ・スピーキングテストを発表形式でおこなう

 

A・スピーキング能力向上を目標にするなら、偏りすぎてもよい

 ・教師の負担も増え、スピーキング外の能力にも時間を割けないのでデメリットもある

 ⇒クラス単位で目標を決定する必要性


応用言語学特講 実践編6 リーディング(高校)

『高等学校における多読を中心とした4技能統合的活動と評価』山下朋明

 

内容:中学・高等学校の教師である著者の体験を基にした、多読の実践と評価の紹介

 

1.はじめに

2009年度版高等学校学習指導要領で創設されたすべての科目について、内容の取扱いに共通する留意点は、4技能を統合的に指導することである。

→「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」を個別に扱うのではなく、複数の技能を組み合わせて具体的な場面や状況におけるコミュニケーション活動を行うことが必要

 

リーディング→読むだけで終わらせず、それについて意見を述べる、メモを取る、要約する、意見を交わすといった活動が必要

 

2.授業の心得

文章を読んで設問に正しく答える力=大学受験など別の目標を達成するための手段

⇔英語学習においては単なる通過点に過ぎない

 

大学受験は思考力、情報処理能力を図るという性質ゆえ日常生活レベルの実用性とは異なる視点も必要となる

→英語学習は本質的に実用的でなければならない

⇔生徒には大学受験という大きな目標がある

⇒目指すべきは実用受験英語

 

授業で学んだことをテーマに実践的な英語を使う必要がある

ex.スピーチ、エッセイ、ディベートetc

 

3.多読指導

3.1多読の効果

読書や英語が好きになる・日本語を介さずに英語が読めるようになる・読解速度や未知語推測能力が向上する

 

3.2多読指導の準備

@多読指導をおこなう同僚の協力者を募る(個人で特別なことを始めると、負担が大きいため)

A図書を確保する

B図書の管理と貸出方法を設定する

C多読の指導をおこなう

D指導方針を定める

 

Cについて

授業内で多読を行う方法と授業外で多読を行う方法がある

授業内=授業時間が削れる、生徒全員に読ませることができる

授業外=授業時間を削らずに済む、読まない生徒がでてくる

 

※多読は継続しておこなわなければ効果がない

 

Dについて

著者は「好きなときに」「易しいレベルから」「楽しんで」を基本的方針に選定

+読んでいる最中は辞書を使わない

(後で調べたい単語には付箋をつけ、章の切れ目か一冊が読み終わってから辞書を引く)

→辞書を使うと読みの流れを中断することになるため、読解速度の向上や未知語の推測職を高めるといった多読の効果を軽減させてしまう

 

4.多読の記録と評価

4.1記録

記録を取るためには「読書感想用紙」「読書記録用紙」を用いて数量的に評価することが好ましい(教科書の図参照)

 

具体的に数量とは

→読書量(ページ量、冊数)、内容の面白さ、辞書の使用頻度、英語の難易度

(最近の多読用の本には英語の難易度や総語数が記載されていることが多い)

 

4.2努力評価の例

記録から個人、クラス、学年の読書量を提示する

記録の大きいものを表彰する

⇔記録を偽るものがいるのではないか

⇒感想を読めば大体わかる、怪しい生徒には内容について質問する

総語数をこなさないことには英語力は伸びないことを指導する

 

明確な基準を定める

ex.多読を成績評価に入れる→1000語ごとに一点、10万語以上で100

 

多読を他の技能と組み合わせて評価する

→読書感想を英語で書かせる(必ずフィードバックを行う)

 本のあらすじと感想を授業内でスピーチさせる

 短い本を聞き手にわかりやすいように音読させる

 読んだ本の内容についてディスカッションさせる

 

4.3多読指導の評価

多読が生徒に良い効果を与えているか

→読書量とテストとの関係を調べる

 アンケートを実施する

このときもっとも注目するべきこと=生徒が楽しんで読んでいるかどうか

⇒楽しんでさえいれば、英語の勉強量は増える傾向にある

 

生徒は多読を正しく行えているか

→読書感想用紙をチェックする

読書量は増えているか

⇒語数や冊数の項をチェック

難易度は適切か

⇒辞書の使用頻度と難易度の項をチェック

 

多読指導の評価をもとに生徒に新たな指導をおこなう

Ex.辞書の使用頻度が多い

→多読と精読の違いを確認する

 辞書の使用が少ないが、英語の難易度が高い

→内容を理解できているか確認し、場合によっては易しい難易度のものを薦める

 

5.おわりに

多読を4技能の総合的育成のために利用するには、多読で得た情報を他者に伝えるような発信的リーディングの指導をおこなう必要がある

 

著者が考える多読の醍醐味

@日本語の本を読むのと同じように英語の本を読む自然な環境づくりができる

A生徒の英語に対する前向きな姿勢が目に見える形で日々実感できる

 

 

ディスカッションポイント

@多読を生徒に継続させて行うための工夫

A多読は実用受験英語を育てるといえるのか

 

具体案

@・定期的に教師が確認作業をする(質問など)

 ・シールや具体的加算点など、量に応じた報酬を与える

 ・時間を割いてしまうが、クラス内で多読活動を行えば確実

 ⇒朝の読書活動などを多読に充てることができれば、授業内の学習時間を削ることなく、生徒に多読を行わせることができる

A・多読ひとつで実用受験英語能力を向上させることは難しい

 ⇒ほかのタスクと組み合わせる必要がある

 ⇔そもそも一つのタスクで英語の能力をすべて網羅しようとすることには限界がある