第4章 リーディングの評価
はじめに
リーディングテスト開発→評価の妥当性が重視される必要
リーディングのコンポーネントモデルを利用したテスト作成に役立つ理論を紹介

ボトムアップ型のテスト作成:コンポーネントモデルに基づいて
・コンポーネントモデル…リーディングが複数の分割可能なコンポーネント(要素、構成素)により成り立っているという考え方

◯Carr et al.(1990)による16個のコンポーネント
書かれてある文字がどのような形であるか理解する
サイトワードを正確に認識する
書かれてある文字を正確に音へと変換する
サイトワードを素早く認識する
書かれてある文字を素早く音へと変換する
書かれてある文字列がどのような音へと変換されるか理解している
正しい単語の綴りを理解する
正しい単語の綴りを自ら書くことができる
単語の意味がわかる
文章の後半でどのような出来事が起こりうるか文脈から推測できる
語彙知識や文法知識を利用して文理解を行い、その文がどのような考えを述べているかを理解し、さらに文章全体としてどのような内容であるかを理解する
提示された項目を順序問わずワーキングメモリで記憶する
提示された項目を順序通りにワーキングメモリで記憶する
パタン(綴り、音、文構造、文章構成)を理解する
知能
時間をかけずに効率よく文章全体を理解する
→文字や単語といった下位レベルの処理から、文章全体をひとつのまとまりとして捉えるのに欠かせない推論を働かせるといった上位レベルの処理まで様々なレベルのコンポーネントが存在
→平成20年版中学校学習指導要領において、読むことに関する言語活動の1つとして挙げられている「文字や符号を識別し、正しく読むこと」は1〜6ないし1〜9に当たる文字や単語レベルの処理

・このモデルの長所…児童や生徒の英語リーディング力の発達をコンポーネントごとに分けて検討できる
ex.)英語の綴りの理解はできるがそれを音へと変換することができない、統語の処理はできるが背景知識を利用しながらの理解ができないなどの説明が可能に

TOEFL iBT…3〜5つ700語前後の文章が用意され、60-80分間の解答時間の中で想定されている質問タイプは10種類ある(p.61 表1 “TOEFL iBTで出題される質問タイプと項目数” 参照)
・タイプ1,2,7の質問文→文解析や統語解析といったコンポーネントを測定
・タイプ3〜6の質問文→それぞれ推論、修辞、語彙、照応のコンポーネントを測定
・タイプ8の質問文→論理性や文章の一貫性が的確に構築できているか測定
※タイプ9とタイプ10を除き、基本的に1つのタイプに1つのリーディングコンポーネントが割り当てられている

▼ではどの質問タイプに何問ずつ割り当てればよいのか?
TOEFL iBTのリーディングセクションは、「受験者の大学レベルのアカデミックな文章を理解できる能力を測定する」という目標に合わせて、情報を正確に読み取る・語彙の意味を理解するといった部分に多くが割かれる構成になっている

このTOEFL iBTを参考にすると…

学習した単元目標に照らし合わせてテストで測定したい能力(構成概念)を定義する
     ↓
その構成概念に基づいて質問タイプや項目数などテストの構成を決める
     ↓
文章の選択
     ↓
質問文の作成


「説明文」「評論文」「随筆文」に関しては、文章に書いてある事実に関する質問が5〜6割程度、文章に書いていない事実に関する質問が2〜3割程度、要約問題または表完成問題が1割程度を基本に計画を立て、あとは実際に作成する過程で必要に応じて割合を変える方法が望ましい。
ただし、「物語文」に関しては目標に応じて登場人物の気持ちを推測させるような問題が多くなったりするため、推論問題を作成する必要がある。

リーディング力を複数のコンポーネントに分解し、
それぞれのコンポーネントを測定する項目を作成していくという方法


  最後にコンポーネントを足した総体をリーディング力として捉えている  


  「ボトムアップ型」アプローチによるテスト作成といえる  

3.トップダウン型のテスト作成:心的表象に基づいて
文章を読んでいるとき人は状況モデルと呼ばれる心的表象を形成する
・p63の文章の例、p63の文が理解できる人はこのような図が心的表象として現れる

・p63の文章を読み解くためには心臓、肺、血液に関しての正確な知識が必要である
→文章理解には背景知識を利用した推論が必要である場合がある

・p65の図の例、IELTSから抜粋された図のラベル付け問題
→すべての人が同じ状況モデルを形成するとは限らない。背景知識に関しても人それぞれなので、どの程度の推論が必要となるのかも人によって違うということを理解する必要がある

・問題を解くために描かれる必要のある「最低限の状況モデル」というものを教師間でチェックする必要がある

4.定期テストで初見の文章を使用する:「パラレル」な文章とは
これまでに紹介した二つのリーディングテストに関する問題点
総合問題
新聞や小説を読むなどの通常のリーディングでは起こりえないさまざまな活動(空所補充、並べ替え等)をたった一つの文章で生徒に課す点

既習の文章
生徒の学習に望まない波及効果が生まれる可能性がある点
英語の授業中に、英文に対して自分が訳してきた訳が合っているか間違っているかのみに注意を払う
英語のテストにもかかわらず、和約を暗記することでテスト勉強をしたと満足し、その暗記知識のみで問題を解こうとする
→和約の暗記知識だけで解ける場合、評価の妥当性に問題がある

4つの項目から定期テストの問題に有効な「パラレル」(教科書と同等なレベル)な文章の探し方、作り方を検討
トピック
教科書と類似した内容の文章を選ぶ
e.g.教科書「発展途上国が抱える教育問題」→教育問題に関するトピック

読みやすさ
Dale-Chall, Flesch, Flesch-Kincaidなどの公式を用いて指標として出すことができる。
・特にFlesch Reading EaseWordとFlesch-Kincaid Grade LevelはWordで簡単に使用可能
・Flesch-Kincaidは解釈が最も容易
→英語圏の生徒にとってどの学年相当のレベルなのかを表示する
e.g.A社の教科書のレベルが6.8(小学校6年生~中学一年生)であり、選んだ文章Xが10.68(センター試験 問6とほぼ同じ難易度)だった。
→未熟語に注釈をつけたり、複雑な文構造の箇所を書き換えたりなどの工夫が必要。発展問題としてそのまま載せるのもあり

文章構成
Grabe&Stollerの分類
a.原因・結果 b.分類 c.比較・対照 d.定義 e.描写 f.時間的配列 g.問題解決 h.手続き
e.g.教科書のトピックは「言語」に関するもので文章構成は「定義」である→パラレルな文章にするなら同じものを選ぶ

語彙・文法項目
教科書と同じ語彙、文法項目がパラレルな文章に含まれている必要はない
e.g.教科書で仮定法過去の学習が行われた→独立した文法問題として測定すれば十分

二つの注意事項
ⅰ.教科書とトピックが類似していなくてもパラレルな文章になりうる
e.g.学習目標が教科書の文章の題材に特化していない場合、学習目標に記載があってもその部分をリーディングテストで測定しない場合など

ⅱ.前述の構成概念妥当性の問題を考慮する必要がある
e.g.学習目標が「全体の要旨を理解することができる」→内容の要約問題を入れる

5.おわりに:学習指導要領を踏まえて
リーディングに関する高等学校コミュニケーション英語科目の学習指導要領
「説明や物語などを読んで、情報や考えなどを理解したり、概要や要点をとらえたりする。また、聞き手に伝わるように音読する」コミュニケーション英語Ⅰ
「説明、評論、物語、随筆などについて、速読したり精読したりするなど目的に応じた読み方をする。また、聞き手に伝わるような音読や暗唱をおこなう」コミュニケーション英語Ⅱ

コミュニケーション英語Ⅱでは評論文と随筆、「目的に応じた読み方」との記述が加わっている
→「目的に応じた読み方」というのが本章で説明したかった内容
e.g.説明文を読んで理解した情報を図や表のイメージに置き換えたい→図のラベル付問題を課す