3章「スピーキングの評価」

スピーキングテスト作成・実施を中心に
1.初めに
現行の学習指導要領では
中学校:コミュニケーション能力の基礎 / 高校:コミュニケーション能力
の育成を求めている。
スピーキング評価ではパフォーマンス評価を行うが、授業内のスピーキング活動の観察とスピーキングテストを行う方法がある。

*スピーキングテスト実施の流れ
1.テストの作成
└目的能力、タスク形式、採点方法、実施・採点時間、テスト細目
2.テスト前の準備
└テスト実施予告、採点準備
3.テスト実施
4.テスト採点
5.テスト後の活動
└生徒へのFB、妥当性の確認

2.スピーキングテストの作成
2.1 使用目的と測る能力
何の目的で評価を行うかを明確にする。
・成績評価
・生徒の長所・短所の把握
・生徒の意欲を高める
・指導効果の計測

・構成概念:学校では「到達度」を測ることが多いが、熟達度を測ることもある

*スピーキング能力の観点(Fulcher 2003)
①言語能力
②方略能力
③会話構造の知識(テクスト的知識)
④語用論的知識
⑤社会言語学的知識


*中学校での評価基準(NIER 2011)
「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」
└「言語活動への取り組み」「コミュニケーションの継続」
「外国語表現の能力」
└「正確な発話」「適切な発話」
「言語や文化についての知識・理解」
└「言語についての知識」「文化についての理解」

・テストを作成する際はすべての項目をくまなく網羅できるようなテストが望ましい。
しかし、項目を絞る場合は「重要かつできるだけ全体をカバーするような点」を出題する。

2.2 タスク形式
タスク形式は3つに分けられる。
①モノローグ型:スピーチ、プレゼンテーション
②教師との対話型:面接、ロールプレイング
③生徒間での対話型:チャット、ディベート、ディスカッション

・1回のテストに複数の形式を入れたほうが、幅広いスピーキング能力を見ることが可能

*HOPE(High school Oral Proficiency Examination)
 └日本人の中高生向けのテスト
1.ウォームアップ(30秒、評価対象外)
2.ピクチャータスク(1分)
3.フォローアップクエスチョン(1分)
4.ロールプレイ(1分30秒)
5.フォローアップクエスチョン(1分)
6.ワインドダウン(1分、評価対象外)

・事前予告の有無、準備時間の有無、どのタスクを使用するかなどを操作することで、生徒の話し方も変化する。

2.3 採点方法
スピーキングの採点には2種類ある。
①各項目の採点を行う「項目独立型」
②まとめて採点を行う「項目非独立型」
 └「総合的評価」と「分析的評価」
*ルーブリック:評価規準(評価の観点)と判定基準を合わせたもの(cf. テキストpp48-49)


2.4 テスト実施と採点に使用可能な時間・必要な時間
授業内採点が可能な場合もあれば、コンピュータ教室等のテストでは授業外採点が必要になる。必要な時間を考えてタスクや採点方法を考えるべきである。

2.5 テスト細目
テスト細目と呼ばれる設計図を作成するとよい。
└目的、図る能力、タスク、予想される発話例、サンプルタスクなど


3. スピーキングテスト前の準備
3.1 生徒への予告
・テストを授業の内容に関連付けるために、年間指導計画作成時に評価計画も立てておく
・スピーキングテストは学期に1回以上行うのが良い(本田、2014)
・授業活動の観察による評価は回数を問わずより多く行うのが良い
・テスト前にタスク形式と採点方法について生徒に伝える。テスト中に発話を録音する場合、このタイミングでそのことも生徒に伝える
・予告したタスクだけでテストすると、生徒が丸暗記に陥りがちになる
3.2 採点の準備
・前もってテストで行うタスクと同じ発話が手に入るならば、事前に評価の基準とその理由をルーブリックに記しておくとよい。手に入らなければ、段階ごとに発話を予想し、採点練習をしておく
・生徒1名の採点に採点者が2名いることが望ましい。採点者を2人確保することが難しい場合でも、教員の評価がルーブリックに沿った採点だったか、また終始一貫した採点を行ったかを確認する手段をとるべきである
・採点中に迷った個所については記録をとるとよい
・授業内活動を評価する場合、生徒間の相互評価を教師評価に加えてもよい。その際は生徒にも採点練習が必要である

4. スピーキングテストの実施
・録音機器を使って発話の記録をとっておくのが望ましい
・教員との対話型の場合、質問や生徒から答えが返ってこないときの対処法を事前に考えておく
・長めの発話を評価したい場合は生徒の話を遮らない
・生徒の気が散ることがあるので採点を行う手元を生徒の目線から隠すとよい

5. テスト後の活動
5.1 生徒へのフィードバック
・テスト後は、生徒に自身の発話を振り返らせ、「話したいことと自分の能力のギャップ」に気づかせる
・採点結果には点数だけでなく、長所と改善点を載せるとよい
・テストの詳細な結果が返ってきても生徒が見るのはグラフなどのごく一部である(Sawaki & Koizumi, 2015)。結果返却後にテスト全体について解説し今後の学習に向けて努力すべき点を書かせるなどの活動を行うとよい
5.2 テストの妥当性の確認
・定期的にテストの妥当性を確認することで、評価の公平と方法の効率化が保証される
・テスト後に生徒にテストの感想をアンケート形式で求めたり、テストの得点の分布・割合を求めて分析したりすると、テストの修正点に気付くことがある。その際はテスト設計図を修正し、採点しやすかった発話と採点しづらかった発話の数例を保存しておくとよい

6. おわりに
・スピーキング活動は他の技能よりも実施・採点に時間・手間がかかるが、生徒の正当な評価につながり、それによって生徒がスピーキング活動を真剣にとらえるようになる
・タスクやルーブリックなどについては、最初は既存のものを使い、徐々に授業に合わせて修正していくとよい

〇授業を終えて
 受講生には中学・高校時代にスピーキングのテストを学校で受けたことがある人はほとんどいなかった。平井先生が言っていた「進学校になればなるほど授業内でスピーキングに割く時間が少なくなる」ということが関係していそうだと感じた。
 私の高校のクラスでやっていたような「授業中にシャドーイングなどで発声をする機会はあってもあくまで形式的に行っているだけ」という授業はもったいない上に生徒が意義を見出しにくくモチベーションの向上につながらないので、何らかの方法を使ってそのスピーキング能力を評価し成績に反映するのが望ましいと思った。