応用言語学特講Tb 発表資料

17章 開発教育の実践と評価 ―英語教育との接点

 

1. はじめに

・現在学校現場では、学習指導要領で示される通り「総合的な学習」の一環として国際教育が扱われている。また、英語教育の中で実践される場合には、異文化理解を深めることが促されている。

・開発教育に関しては、2000年の「国連ミレニアム開発目標」の宣言に基づいて刊行された『国際教育・国際理解教育ハンドブック』が、実践事例を踏まえて改訂されている。

 

2. 開発教育の指導

〇開発教育とは

・『国際教育・国際理解教育ハンドブック』によれば、開発教育とは「開発途上国などを理解し、開発問題やその解決について主体的に考える能力を養うこと」。

・開発教育の目標は、「知ること・考えること・変わり、行動すること」。

・開発教育の指導では「参加型学習」が推奨されており、知識伝達型の教授法とは異なる手法がとられる。

〇参加型学習とファシリテーターの役割

・参加型学習では、学習者が問題意識を持って主体的に取り組むことに重点が置かれ、学習過程も重視されている。

・教師は、対話を生み出すきっかけを作りときとして自分の立場を示しながら自らが対話での学び合いに参与する「ファシリテーター」となるべきである。

・学習者が知識を得るための間接的なサポートをし、学習者に「気づき」をあたえるのがファシリテーターの役割だといえる。

〇参加型学習で用いられる手法

・参加型学習では、ファシリテーターの指示でグループが構成されることがある。その際に行われるアイスブレーキングでは、学習者たちに相互に「気づき」を与えることや、テーマに関する導入を取り入れる工夫が必要である。

 例)バースデーライン、4コーナーズ

・学習者が抱いていた先入観や思い込みから気づきを促し知識を深めるには、「フォトランゲージ」や「ロールプレイ」などの活動を組み込む。

・問題の解決法について検討するには、「ディベート」、「ランキング」、「プランニング」などの活動を組み込む。開発教育での「ディベート」は、勝敗よりも、賛成・反対の意見を総括することでそれまでの問題解決の過程を振り返り、より良い解決法がないかを探るための手段とされる。「ランキング」・「プランニング」でも、「正解」を求めるのではなく、それまでの学習に基づいて問題解決の方法を総括することが重要である。この場合、発表する場を設け、フィードバック与える。

〇開発教育の実践

・教育の現場で開発教育を系統的にカリキュラムに取り入れている例は少なく、実践している教師の多くは青少年海外協力隊経験者やJICAや外務省またはユニセフが開催する教師向けのスタディーツアー参加者であることが多い。しかし、筆者自身、実践経験はわずかであるが、それでも開発教育の必要性や重要性を認識している。

・日本では貧富の差が大きい国として取り上げられることが多い国でも、実際にその地を訪れ「開発」という観点から考えたとき、筆者はむしろ日本が学ぶべき点があるのではと認識した。

 

3. 開発教育の評価

・開発教育は系統的に評価することが難しい。しかし、開発教育のテーマや活動内容、得られた結論、または教師の役割の視点から評価することはある程度可能である。

〇誰に対し、どの段階で何をどのように評価するか

・指導者が学習者を評価するとき、指導者は指導の趣旨をどれだけ学習者に伝えられたかを測る評価にもなり、指導者が次回の指導法を検討し、工夫改善するために行うものであるといえる。

・数値的に判断を下す「テスト」による評価は、その趣旨と異なるため、開発教育では必要とされていない。

・開発教育では、「振り返りシート」による記述式の評価またはSD法でのスケールを用いた評価を使用する場合が多い。指導の導入部でも同様のアンケートを実施し、指導後にどのような気づきや知識の変化があったか見る場合もある。記述式アンケートの場合は、単に感想を求める場合・気づきの記述を求める場合・具体的な行動につながる記述を求める場合などがある。

・指導者は、学習者に何らかの気づきや考えの変化が見られればその学習者に対し成果があったと評価する。また指導者は、その気づきの変化が指導者が当初期待していた変化だったのか、指導の前後で予想外の変化があったか、その原因としてファシリテートの方法が影響したのかを自己評価することができる。

〇観察

・指導者は、学習者が「与えるタスクの指示内容と意義を理解して取り組んでいるかどうか」、「うまくグループに参加できているかどうか」、「グループ内で適当な話し合いができているか」などの点に留意しながら、学習者とその活動を観察し、必要に応じて学習者のサポートをする。

・日常的に教育の現場で実施するのが難しい活動では、同じグループ内でも学習者によって活動の個人差が出ることが考えられる。その場合、特に指導者による「観察」が重要である。

・観察するだけでなく、直接学習者に問いかけることも円滑にかつ目的に沿った指導を実践するうえで必要な評価法になるだろう。その問いかけの目的は、学習者がタスクに対して主体的にあるいは協力的に取り組めるように促すためである。

・開発教育における評価は、学習者が自身の到達度を知りその後の改善を促すという点では、形成的評価に準じているといえる。ただ、明確な到達目標とそれに準ずる評価基準が設定しづらい点では、単純に従来の評価法に当てはめることはできないとみられる。

・学習者自身が活動の中から自分たちの「答え」を見出せることが、参加型学習では重要である。

 

4. 今後の課題

・英語教育の中で国際理解学習や異文化理解学習は、言語知識・言語使用の補足的な役割あるいはその背景として扱われており、その言葉通り「理解」の段階でとどめられていると考えられる。しかし、「実践的」という観点からは、国際理解や開発教育こそが学習の原点となるべきである。

・参加型学習の手法とファシリテーションを英語教育の中で活用できれば、まさに「実践的なコミュニケーション活動」が教室内で可能になるのであろうし、同時に評価法についてもこれまでとは異なる方法や分析が可能になると思われる。

・日常生活において日本人が本当に英語によるコミュニケーション力を必要とされるのは、まさに日常に海外諸外国との経済的支援や協力の場においてであろう。CAN-DOリストのモデルであるCEFR(Common European Framework of Reference for language)はそもそも政治的経済的背景から必要とされたヨーロッパ全体の言語能力の枠組みである。

・学習者が母国語を共有する者同士であっても「英語を使わなければならない環境」が、英語によるコミュニケーション力をつける最大の動機付けとなるのはこれまでも言われてきたことである。

 

〇ディスカッションポイント

・外国語学習の授業で「開発教育」を扱ったことがあるか。

・参加型学習で扱ったことのある活動について、その感想と成果について

 

〇授業を終えて

・実際の教育の現場において開発教育は、国語や社会の授業でなら扱うことがしばしばみられるが、英語の授業で実践されている例はそれほど多くないようだ。また、英語のテキストに「開発教育」を扱う章があったとしても、教材のひとつとして授業で消化するのみにとどまる場合が多い。特に進学校ではテキストの進度も早く、ひとつひとつの章を掘り下げてジャンル自体の学習を深めることをしないのだろう。

・「参加型学習」について、特に高校などでは、英語の授業でアイスブレーキングなどの活動を重視しないことが多い。ただ、日本語を使わずにコミュニケーションを取る活動の導入や、外国語でのコミュニケーションをおこなう感覚の養成といった点では、英語の授業での参加型学習は効果的であると考えられる。ただ、バースデーラインやフォーコーナーズといった活動では、教室内での机・椅子の移動が面倒だったり活動の実施で教室が騒がしくなったりするという現実的な問題もあるだろう。

・英語の授業での「開発教育」について、「国語や社会の授業で取り上げられれば、わざわざ英語の授業で取り上げる必要性はない」という意見と、「英語の授業だからこそ異文化理解を深めるため、そして英語のコミュニケーション活動に慣れるために開発教育を実施することが効果的である」という意見があり、是非が分かれた。

 

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18章 小学校外国語活動(英語活動)の評価の実際―小学校英語の教科化を見据えて

1. はじめに

・平成234月から小学校での外国語活動が本格的に始まった。当初は指導面が注目されていたが、評価面については現場において多少の混乱が見られた。

※小学校での英語は、知識や技能の習得を目的としないもので、観点別評価を出さないことになっている

・平成25年の秋以降、文部科学省から英語教育に関する重要な方針が次々と出された。それらによれば、小学校での英語教育の機会が増え、中学卒業時の学力が現在より高く設定され、中学校・高等学校での(そしてゆくゆくは小学校においても)CAN-DOリストの導入が検討されることになった。

 

2. 外国語活動の評価

〇評価の特徴

・現在の小学校における外国語活動は「教科」ではなく「領域」として設けられており、以下の4つの特徴を持つ。

@評価項目はあるが、通知表等でその結果を児童および保護者に示さない。

A観点別評価を総括した評定を出さない。

B通知表には活動の様子を文章で記述する。

C指導要録には3つの評価の観点、活動の様子を文章で記述する。

・観点別評価の観点については、小学校英語が何らかの知識や技能の習得を目指しているものではないため、中学校や高等学校のものとは異なっている。その点を考慮し、知識・技能ではなく、意欲・態度を評価するべきである。

〇各評価の方法について

・外国語活動では、活動の様子が評価の中心となる。そこで、「評価のための評価」に陥ることを回避するために、1時間の授業ごとに評価する観点を絞ることが重要になる。また、「おおむね満足できるレベル」の具体的なイメージを持つことも重要である。

・外国語活動では自己評価を取り入れるのが望ましい。しかし、知識や技能の習得を直接問う問を設けないよう注意が必要である。自己評価の手法について筆者は、文章を記述させるより選択肢を与える設問を用意すべきだとし、「自己評価が厳しい児童には指導者が良い評価を書き加える」など児童の性格もかんがみて評価を解釈することを推奨している。

・指導者によって授業中及び授業終了時に口頭での賞揚が行われる場合がある。これは外国語活動の授業のひとつであり、目の前の活動に対し即座に形成的評価を下すことは大変有効である。これは児童の達成感と肯定感を高め、次への意欲付けにつながる有効な手段となっている。

・授業では、生徒間の相互評価が行われる場合もあり、これは学級づくり・友達との関係づくり・学校全体の教育活動の重点としてとらえられることが多い。

・指導要録は、通知表とは異なり、学校教育法施行規則241項により規定されているもので、それに則って作成する義務が生じる公簿である。そこでは「各校の実態に応じて指導内容や活動を設定することから、学習指導要領に示された目標等を踏まえて各学校において観点を追加することができる」とされており、指導要録では表1(p.290)にある3つのほかに観点を1つ追加することができる。

 

3. 教科としての小学校英語の評価

〇指導内容

201312月に文部科学省から出された「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」では、中学校1年生の学習内容を小学校5,6年生に繰り下げることが示された。

・また、同計画によれば、小学校高学年の英語は「教科型」で、「読むことや書くことも含めた初歩的な英語の運用能力を養う」ことを目標とするものである。

・以上の点から、中学の4観点(表4(p.295)参照)がほぼそのまま小学校でも準用されると考えるべきである。

〇コミュニケーションへの関心・意欲・態度の評価

・今後教科書がよりコミュニケーション活動を意識した構成になることは間違いないだろう。そのため、コミュニケーションへの関心・意欲・態度の評価は、その機会の増加からも比較的容易になるだろう。

〇スピーキング能力・ライティング能力の評価とリスニング能力・リーディング能力の評価

ALTとマンツーマンで対話するようなパフォーマンステストでスピーキングの評価を下すことが可能だろう。しかし、スピーキングと同じく表現の能力に分類されるライティングについては、現在の外国語活動ではほとんど指導されていない。小学校でのライティングの習得が必要となれば、日々の授業で書くことを指導して評価することが求められる。

・リスニングを評価するためにはリスニングテストを行うことになるが、「児童を対象とした問題では問題文に英語の文字や文を多くは使用できない」という点に注意が必要である。リスニングと同じく理解の能力に分類されるリーディングについては、教科書の英文のレベルと長さを考慮して単元別のペーパーテストで評価することになるだろう。

・いずれにせよ、児童の発達段階を考慮した測定法を工夫する必要がある。

ICTを用いた評価とCAN-DOリストを用いた評価

・語学教育には今後タブレット端末のような電子機器が導入されることが想定され、これは語学教育に大きな変革をもたらすことになるだろう。大容量のデータの蓄積・管理、英語のインプットの提供、より言語使用を意識した問題作成、より妥当性の高い評価が可能になるはずである。

CAN-DOリストを用いた場合、その目標を達成するためには、実際にそのような内容の授業を行う必要がある。CAN-DOリストを用いて評価の視点が具体的になることにより、評価の観点が絞られる。CAN-DOリストの導入は、評価だけの問題ではなく、指導を含めた授業のPDCAサイクル全体に影響を与えることになる。

 

〇ディスカッションポイント

・指導要録で追加すべき4つ目の観点は、小学校で行う外国語活動を評価するという点を考慮すると、どんなものがよいか。

・小学校英語の評価における「児童の発達段階を考慮した測定法」にはどんなものが考えられるか

ICTを小学校英語教育で実用することの是非

 

〇授業を終えて

・指導要録にはあらかじめ設定されている3つのほかに4つめの評価の観点を設定することができるが、小学校の外国語教育の指導で生徒に実施できる活動やフィードバックできる内容を考慮したとき、ほとんどの場合において必要な観点はあらかじめ設定されている3つで過不足なくカバーできている。敢えて4つ目の観点を考えるとすれば、小学校で行うことができる授業内容の柔軟さから「協調性」の観点を追加すべき、との意見が出た。

・「児童の発達を考慮した評価」とは、具体的にどんな手法を用いることで実現できるだろうか。リスニング活動・リーディング活動で「〇」「×」の選択肢によって行われる問題を施行する、リスニング活動で易しい英語の絵本を読ませる、賞揚のさいにシールを与える、ポートフォリオを利用するといった意見が出た。ただ、「小学生」それ自体のレベルを考慮することだけでなく、「児童」各人のレベルを考慮することも検討しなければならないだろう。

ICTは、児童が扱うには難しい場合が多く、適切で確実な指導が必要である。また、ICTは児童が軽率に扱うと壊してしまう可能性もあり、指導には注意が必要であろう。