実践編12論文紹介
竹野純一郎(2014)『認知行為としてのシャドーイングとリピーティングの比較』中国地区英語教育学会研究紀要(44), 41-50
1 はじめに
リスニング処理
@音韻認知→A音韻情報保持→B統語分析・意味分析→C理解
短期記憶に音声情報を保持しながら理解(処理)する必要
→ワーキングメモリの重要性
音韻ループ(ワーキングメモリの一部)
音声貯蔵庫:聞いたままの音声情報をごく限られた時間保持
内的復唱:保持している音声が減衰しないよう心の中で復唱する
→英語の音声保持を高め、処理の負担を減らすには復唱能力が重要
復唱能力を伸ばすタスク
シャドーイング:流れる音声を追いかけながら復唱(オンライン処理)
リピーティング:音韻ループの時間的制約(2秒)以内の音声を聞いてもらい、十分間を開けて復唱(オフライン処理)
→シャドーイングは「聞く」と「話す」を同時進行する必要がある
2 研究目的
@一定期間同じ教材を用いて、シャドーイング群とリピーティング群に分け練習した場合、英語力、シャドーイング力、リピーティング力にどのような影響をおよぼすか
Aシャドーイング力とリピーティング力がリスニングテストや筆記テストなどに現れる英語力とどのような関連があるか
3 調査
T協力者
岡山県の私立大学生:シャドーイング群32名、リピーティング群28名
(もともと41名、41名の協力者だったが、10回の授業のうち3回以上欠席した協力者に関しては対象から外したので上記の人数となった)
U材料
@英語力
ACEテスト
リスニング300点、文法300点、リーディング300点
本稿では文法とリーディングを筆記600点として処理
Aシャドーイングテスト
國弘・千田(2004 )の『英会話・ぜったい・音読続・標準編』を用いて、71語においてチェックポイント法で点数化
Bリピーティングテスト
Shibukawa(2001)から4〜16音節の英文を3つずつ用意。3つ中2つの英文がリピーティングできれば、その音節は正解とした。
V方法
@事前テストU-@〜B
A大学の半期90分×15コマのうち40分×10コマを用いて、シャドーイング群、リピーティング群ごとに学習(このとき音声復唱の効果の差を検証したいので指示は出さない、教師間の差をなくすために二人の教師が各群の5コマずつの授業を担当するといった工夫をした)
B事後テスト
学習方法
@.テキストを見ずにCD の音声を聞き内容を推測する。
A.テキストを見ながらCD の音声を聞き,音声と文字を一致させる。
B.テキストを見ながら単語, 表現などの意味・内容の説明を受ける。文法的な説明もあれば受ける。
C.テキストを見ながら(教師の後に続いてリピートする・生徒同士で音読するなどの)音読練習をする。
D.テキストを見ずにCD に続いて(教師の範読に続いて・ペアになってパートナーの読みに続いてなどの)[シャドーイング/
リピーティング]練習を最低3 回行う。
E.テキストを見ながら[シャドーイング/ リピーティング]
できなかった箇所の確
認をする
F.最後にもう一度、テキストを見ずにCD に続いて[シャドーイング/
リピーティング]
練習をする。
4結果と考察
T結果
事前テストより
・英語力テストより、データ対象者は英語が得意ではない集団である
→シャドーイング、リピーティングは共に英語能力の低い学習者ほど効果が期待される
・英語力テスト(リスニング、ライティングそれぞれ)と各群の平均がほぼ一致していたことから、両群にもともとの差はない
事後テストより
・英語力テスト、特に筆記分野においてリピーティング群のほうがシャドーイング群より向上率が高かった
・シャドーイングテストの向上率は、シャドーイング群のほうが高かった
・リピーティングテストの向上率は、シャドーイング群のほうが高かった
考察
・シャドーイングはリピーティングより、復唱力を向上させる
→オンライン処理により、高速で音声を処理する必要があるため
・リピーティングはシャドーイングより、語彙・文法、リーディングの能力を向上させる
→オフライン処理により、リーディング等に必要な、統語・意味、文法などの認知的処理を併用するため
ディスカッションポイント
@シャドーイング、リピーティングをどのように授業に取り入れるか
Aなぜシャドーイング群のほうが、リピーティング群よりリピーティング力が向上したのか
Bなぜシャドーイング(リピーティング)で音声認知力が測定できるのか(実践編12)
具体案
@・音声認知力を高めたい⇒シャドーイング
・文法能力、スペリングを高めたい⇒リピーティング
⇔ただし、これらの活動は再生にばかり頭が行ってしまう(空読み)可能性があるため注意が必要
・授業前に教科書を一通り読む、授業後にまとめとしてもう一度教科書を読む、といった際に、シャドーイング、リピーティングを取り入れることは十分有効
A・シャドーイングの方がより空読みの可能性が高まるため
⇒リピーティングは時間が空くため、ほかの項目に注意が行く猶予がある
B・音声を再生できるということは、短期記憶に音声情報を保持できているということ。短期記憶のなかでは音声が反芻されることで、情報が保持されるため実際に声に出して再生することで音韻ループ内に音声が保存できているか確認することができる。