西厳弘 (2011).「即興で話す英語力を鍛えるには?ワードカウンターの活用?」.『英語教育』. 60(4),32-34.

 

?即興で話す英語力とワードカウンター

○ワードカウンターとは?

1~260までの数字が並んでいる簡単なカードのこと。生徒が自身のWPM1分あたりの発話語数)を簡単に知ることができるため、これを活用することによりスピーキングにおける生徒の意欲を引き出す。

→続けることでWPMが多くなり、流暢さを実感することができるため

 

 ワードカウンターを使えば、スピーキングのWPMを日々の授業における短時間の活動の中で、簡単かつ頻繁に把握できる。以下、このワードカウンターをつかったスピーキング活動の一例と、即興のスピーキング力が構成される過程の概略を紹介する。

 

?ワードカウンターの使い方

 ワードカウンターはスピーキングのペアワークにおいて、聞き手が話し手の発話する単語数を数えるために使用する。まず参考資料のようなシートをつくり、ノートの裏表紙などに貼り付け、片手で持てるようにしておく。聞き手はこれを持ち、数字の書かれたマスの上を利き手の人差し指をスライドさせることで聞き取った英語の語数を数えることができる。ペアの相手の話す英語を聞き、教師が指定する制限時間(30秒・1分・2分など)の間、発話語数を数え続け、活動の終了後に発話の総語数あるいは1分あたりの発話語数(WPM)を確認する。

 

?ワードカウンターを使ったスピーキング活動

@     ワードカウンターを使ったリスニング練習

活動の概要 英語を聞き、ワードカウンターで聞き取った語数を数える。

活動のねらい 語数に注目したリスニングができるようになること。聞き取った英語の語数を正確に数えるためにワードカウンターを使用する技術の習得もこれに含まれる。

活動の手順 教師が話し手となり、教材となる英文を読み上げ、生徒が聞き手となってワードカウンターを使用し、聞き取った英語の語数を数える。教師の読み聞かせが終了した時点で、生徒同士で聞き取った英語の語数を比較しあったり、教科書を開いて聞き取りづらかった部分を目で確認したりする。

活動のポイント リスニングのタスクとしては、内容把握やディクテーションほどの正確さが要求されないため、心理的なハードルは低い。しかし、50語を超える英文を提示する場合にはそれをピタリと当てることは難しくなってくるため、「正解数±3語以内なら合格」などと柔軟な規準を示しながら読み聞かせの速度を段階的に上げていくなどの負荷を与えていくとより効果的な練習となる。

A     流暢さを高める「1分間モノローグ」

活動の概要 身近なトピックについて1分間、できるだけたくさんの英語を話す。

活動のねらい 発話の「量」に注目した即興のスピーキングができるようになること。身の周りの出来事や自分の思いなどを1分間英語でできるだけたくさん話し、発話語数を確認することで、発話量をさらに増やそうとする意欲を喚起する。

活動の手順 教師がまず黒板に「トピック」と「目標のWPM」を書き、トピックについてのオーラルイントロダクションを与える。その後、必要に応じて発話内容について考えるための準備時間を与える。次に生徒はペアをつくり、話し手と聞き手に分かれて1メートル程度の距離をおいて向かい合う。教師の合図でそれぞれ活動を開始し、同じく教師の合図で終了する。聞き手は話し手にWPMを告げ、話し手はそれを自分のワードカウンターに記録する、その後、それぞれの役割を交代して再び活動を繰り返す。活動後の評価は、目標のWPMを達成できたか、どのような内容を話したかなどを英語でやりとりし、代表の生徒にモノローグのデモンストレーションをさせてもよい。

活動のポイント できるだけたくさんの英語を話すことが目的なので、同じ表現の繰り返しであっても、フィラーであってもすべて1語として数えるとしている。これは、「たくさん話すこと」への意欲を高めるためである。ウォーミングアップの帯活動として、または教科書の英文のトピックと生徒たちとの生活経験との間につながりをもたせるために有効な活動にもなる。

B     話す内容を充実させる「2分間モノローグ」

活動の内容 賛否両論のあるトピックについて2分間、論理的に英語を話す。

活動のねらい 発話の「質」に注目したスピーキングができるようになること。賛否両論のあるトピックについて2分間、メリットやデメリットを考慮しながら筋道立てて話す練習を通して、より実用性のあるスピーキング力を身につけさせる。

活動の手順 教師がまず黒板に「賛否両論のあるトピック」と「目標のWPM

を書き、トピックに関連するメリットやデメリットの例をイントロダクションとして述べる。加えて、話す順序と時間配分のモデルを提示しておく。初めのうちはメリットとデメリットをそれぞれ1分ずつかけて合計2分をかける。慣れてきたら、自分の立場(肯定・否定)・理由1・理由2・結論の4つをそれぞれ30秒間ずつ話して合計2分でできるようにさせる。これを踏まえて、生徒はペアないしグループでブレーンストーミングをし、メリット・デメリットのアイデアを出し合い、話す内容を考える。その後の手順は1分間モノローグと同じである。

活動のポイント 事前に発話内容の概略を考えさせるが、基本は「即興」で話すこと。ゆえに「簡略なメモを見てもよい」程度にする。また、WPMと並行して、話すべき内容(
メリット・デメリット、序論、本論、結論など)がすべて言えていたかどうかも自己評価させることで、「量」と「質」の両方に注目させることが可能である。

 

?ワードカウンターの利点と限界点

スピーキング活動にワードカウンターを使用することの利点は以下の3点である。

? 評価の効率化 スピーキングの評価が簡単かつ短時間で頻繁に行える。

? 評価の客観化 WPMという客観的で生徒にとってわかりやすい指標を介して、現状把握や目標の共有がしやすいものとなる。

? 活動目標の単純化 「時間内にたくさん話すこと」だけを指導の初期の主眼とすることで、とにかくたくさんのことが要求されると思われがちなスピーキング活動の心理的なハードルを下げることができる。

 しかし、限界もある。ワードカウンターそのものは、発話の「量」を評価するものでしかなく、発音・文法の「正確さ」や話す内容の「適切さ」などの「質」を評価するものではない。これらの対策の例として、ALTと協力してLL教室で生徒たちに一斉録音によるスピーキングテストを行い、WPMに加えて発音・文法のエラー率やロジックの得点を算出、トータルスコアもつけて生徒にフィードバックすることなどが挙げられる。また、間接的な対策としてはライティングを行わせることも有効である。スピーキング活動後に、話した内容を英語でまとめさせることで活動中には言えなかった表現を調べたり、気づかなかった文法の間違いに気づいたりする。つまり発話の「質」を自己評価させることにつながるのである。

 

?応用、そして「量」から「質」へ」

 生徒たちがモノローグでの即興スピーキングに慣れてきたら、ワードカウンターを使ってWPMを競う11のミニディベートや、録音させて自己評価をさせるとよい。最初は「量」に注目して間違いを恐れず、たくさん話すことから始めるが、慣れてくると次第に「質」にも注意が向くようになっていく。

 

 

 

●ディスカッションポイント

「実際にワードカウンターを使った活動を行ってみてどう感じたか?」
・相手の話の内容まで聞き取るのは大変だった

・フィラーをカウントする必要はないと思った

・意外とWPMがいかなかった

・目標として設定した50 WPMに達するのは大変だった

・簡単に短時間で行うことができるので、授業に導入しやすそう

・トピックなどをクラスや学年に合わせて変えることで柔軟に対応できそう

・目の前で語数を数えられているので、いっぱい話さなければという気持ちになった