深沢清治・五井千穂・吉田来依可・久万瑞帆・有馬史織・江婉 (2016) 『高校コミュニケーション英語教科書課末タスクの分析 ―本文テキストをもとにした技能統合を促す設問に焦点を当てて―』

学校教育実践学研究, 22, 163-170

 

 

1.    はじめに

・英語教科書を用いた学習において、各課末課題は副次的に用いられることが多い。本研究では、そこでリーディングを中心とした他技能との統合的な活動がどの程度取り入れられているかを明らかにする。

・平成25年度実施の学習指導要領では、「コミュニケーション英語」の「内容の取扱い」について、「聞いたことや読んだことを踏まえた上で話したり書いたりする言語活動を適切に取り入れながら、四つの領域の言語活動を有機的に関連付けつつ総合的に指導するものとする」とある。

・コミュニケーション英語の目標「情報や考えを理解したり伝えたりする力」を養うためには、教科書の内容理解を深め、それについての事実や意見を他者に表現することが必要になる。

 

2. 教科書研究における課末課題研究の現状

2.1 教科書研究の主な視点

 ・教科書研究は以下の4つに大別される。

(1)「題材研究」(トピック・ジャンル)

(2)「言語材料研究」(発音・単語・文法など)

(3)「タスク研究」(技能別または技能統合タスク)

(4)「その他」(写真・イラスト・イメージなど)

  ・教科書研究のほとんどは(1)(2)で、教科書中の練習・発展問題についてはあまり多くの研究が行われていない。教科書の課末は、教科書本文の内容を復習、練習、発展させる役割を持ち、複数技能を統合的に用いることや、教科書本文の内容や言語知識と自らの意見や考えを統合することの足掛かりとなるべきである。

  ・本研究の調査対象は上記(3)のなかでも「課終了後に、本文で提示された新出言語材料や内容の理解確認・定着をはかり、そのうえでのアウトプットにつなげる活動」である。

 

 

 

 

 2.2 英語教科書タスク研究の概観

   2.2.1 リーディング指導において

    ・高等学校での英語リーディング指導では、英文テキストの表面的な理解に終わらず、テキストの主題や筆者の意図を深く理解させたり、テキストの内容に対する生徒の考えや意見を引き出したりする指導が求められている。

    ・深澤(2008, 2010)では、章ごとの読解発問のタイプの中では、推論発問や評価発門のような発問は事実発問に比べて少ないことが指摘されている。したがって、生徒に本文の内容についての意見を発表させる機会を作り出すことは教師の意志と手腕によるところが大きいといえる。

   2.2.2 ライティング指導において

    ・Kobayakawa2011)は、旧学習指導要領によって検定・採択された英語T・U、ライティングそれぞれについて5種類の教科書からライティング課題を以下のように分類した。ここでは、全体的に見て、Guided writingFree writingの占める割合が少なかったとしている。

            (1) Controlled writing

                  dictation, conversion, sentence combining, fill-in-the-blank without translation, question-answer, sentence ordering, addition, summery writing

    (2) Guided writing

               fill-in-the-blank without translation, question-answer, addition

            (3) Translation

               direct-translation-of-a-whole-sentence, fill-in-the-blank without translation

            (4) Free writing

               free composition

           2.2.3 技能統合的な活動の可能性、例

              ・私たちの日常の言語活動においては、ほとんどの場合で4技能のうち複数が使われている。そして様々な活動の中で4技能を入れ代わり立ち代わり使用することで、各技能の能力が向上するとされている。

              ・リーディングの場合、読んだ内容について話したり、書いたりすることによって、さらに読む技能が高まることが期待される。特に高等学校では、比較的高度な言語材料を扱うため、少しの工夫で複数の技能を融合させた活動を取り入れることができるはずである。

 

 

 

 

 

3. 教科書課末のポスト・リーディング活動の分析―高校英語コミュニケーションの教科書

 3.1 分析対象教材

・高等学校検定教科書コミュニケーション英語TVのシリーズから、難易度、出版社が異なり、採択数が上位10位以内であるものを対象に以下の3種類をランダム抽出した。

(1) All Abroad! Communication English T、U、V(東京書籍)

(2) CROWN English Communication T、U、V(三省堂)

(3) Vivid English Communication T、U、V(第一学習社)

 3.2 分析対象タスク

  ・教科書においては、課末のタスクはポストリーディング活動に該当するものとみなすことができる。

  ・今回は、課末タスクの中から「本文との直接の技能統合タスク」と、「本文に関連した内容を扱う技能統合タスク」を抽出した。なお、解答する際のスピーキング・ライティングの技能については、英語で表現する場合のみを対象とした。また、本文を読まずに知識だけで解答可能な設問も多いため、文法問題・語法問題については技能統合型タスクの対象からは除外した。

 3.3 タスクの分類

  3.3.1 本文との直接の技能統合型タスク

   ・岡ら(2004)は、このタイプの活動について以下のように分類し例を挙げているが、今回調査対象とした教科書には、以下のようなタスクは見られなかった。

    (4) リーディングとスピーキングの統合

     読んで調べたものを発表する、広告を読んで電話で商品を注文する、テキストの本文を読んだあと内容に関するQ&Aをする

    (6) リーディングとライティングの統合

     受け取った手紙(メール)を読み返事を書く、書いたものを交換して読み合う、読んだものの続きを書く、広告を読みファックスで注文する、読んだものの感想を書く

    ・本文を要約させるタスクがある教科書もあったが、ほとんどの設問が空所補充によって英文を完成させる形式になっていた。

    ・総合的に見て「本文との直接の技能統合型タスク」は非常に少ないといえる。

  3.3.2 本文の内容に関連した内容を扱う技能統合型タスク

・このタイプのタスクでは、本文を直接用いるのではなく、本文の内容に関連した別の題材や設問が設けられている。いずれの教科書においてもこのタイプのタスクの分量は多かった。

・このタスクで測られる機能は、本文の読解を基盤としてその上に統合される技能として考えられるため、今回の分析ではこのタイプを対象に含めることにした。

 3.4 分類カテゴリー

  (a) 本文のテーマに関係して設定された内容の英文を聞いて、設問に解答する

  (b) 本文のサマリーを書く

  (c) 本文のテーマに関係して設定された内容についての説明文や紹介文を書く

  (d) 本文のテーマに関係して設定された内容について自分の考えや意見を書く

  (e) 本文のテーマに関係して設定された内容で手紙文を書く

  (f) 本文のテーマに関係して設定された内容で英文を創造する

  (g) 本文のテーマに関係して設定された内容で、パンフレットやポスター等を作成する

  (h) 本文のテーマに関係して設定された内容について、口頭で説明・紹介する

  (i) 本文のテーマに関係して設定された内容について自分の考えや意見を話す

  (j) 本文のテーマに関係して設定された話題で対話をする

  (k) 本文のテーマに関係して設定された内容について、知識や情報、意見を交換する

  (l) 本文のテーマに関係して設定された内容について説明・紹介する

  (m) 本文のテーマに関係して設定された内容について自分の考えや意見を述べる

3.5 各教科書におけるタスクの扱い

  ・3種類の教科書シリーズとも課末ページのスタイルが統一されていることから、それぞれに典型的な、頻度の高いタスクがあるといえる。いずれの教科書においても、TとUの課末ページのスタイルはほぼ同じで、Vのみ異なったスタイルとなっている。

  3.5.1 スキルの観点から

   省略

  3.5.2 タスク内容における「事実」と「意見」の観点から

   省略

  3.5.3 学習者に対する負荷の観点から

   (Textbook A)

   ・この教科書を使用する生徒の英語力を考慮すると妥当だが、タスク内容が表面的。

   ・パターンプラクティスに陥らないよう導く必要がある。

   (Textbook B)

   ・生徒の知識や関心に合わせて取り組めるよう設定されたタスクがあるが、生徒の英語運用能力に釣り合っているかは疑わしい。

   ・設問内容の形式が本文の内容にふさわしいものになっていない場合がある。

   (Textbook C)

   ・活用される技能のバランスが最もとれていて、タスクに設定されている内容も充実している。ほかの教科書に比べて、考えや意見を述べさせる設問が多かった。

   ・もっとも難易度が高いといわれているこの教科書のタスクを授業中に扱う際には、設定されているすべての設問・タスクを取り上げるよりは、指導者がPre-reading, While-readingの指導過程も加味して選択・改変する必要があると思われる。

 

4. おわりに

・初級・中級の教科書では表現活動において本文中の知識や事実の説明・紹介に終始したのに対し、上級レベルの教科書では、自分の考えや意見の主張をさせるタスクが見られた。

・リーディングからの技能統合を目指して話すこと・書くことにつなげるためには、ある程度の基礎的な言語能力が必要である。自己表現が可能になるレベルの習熟度に至るためには、教科書作成者は基礎的な練習をどのように構築していくかを検討していくべきだろう。

 

Discussion Point

□教科書の課末課題は実際どの程度取り組まれているのか

Pre-reading活動としての技能統合活動にはどんなものが考えられるか

 

〇授業を終えて

・自分は高校時代「CROWN」シリーズの教科書を使用していたが全く授業中に課末課題について触れず矢継ぎ早に課を進めていったので、一般的にはどの程度課末課題に取り組まれているのか気になった。教室内でもやはり課末課題にしっかり取り組んでいる英語の授業を受けていた学生は少なかった。

・課末課題に取り組むことで本文の内容がより印象に残り、学習内容も定着すると考えられる。自分は、全く課末課題に触れなかったこともあり、あまり今でも印象に残っている内容はない。

・そもそも教科書の本文をセンテンスごとに区切って解説していくような教室内で行われる形式の読解と、その課末タスクを引き合いに出して純粋な技能統合タスクというのは妥当なのかという単純な疑問もわいた。