Bill Marsh (2015) Reading-Writing Integration in
Developmental and First-Year Composition,
Teaching English in the Two Year College,
43 (1), pp.58-70
1. はじめに
本論文では、シカゴにある大学の1つであるWilbur Wright Collegeにて、ライティングコースにおいて行った研究に基づき、リーディングとライティングの関係を教えるために英語教師によって用いられるストラテジーや方法、理論的枠組みを調査する。
2. 先行研究
学術上の記録では、リーディングとライティングは別の領域として伝統的に教えられてきた。英語学習者の多くがリーディングとライティングの基本的関連性を当然のことだと思っているが、リーディングとライティングがどのように関連しており、なぜそのつながりがライティングを学ぶ生徒やライティングを教える教師にとって重要となるのかを研究しているのは、たったここ20年のことである。
筆者はこれまでAdler-KassnerやEstrem、Bunn、Garretson、Middletonなどと連携して上記に関する研究を行ってきており、特定の大学や学科といった狭い範囲で調査することでlocalレベルで適用できる実用的な結果を出すことを目的としている。
しかしながら、リーディングとライティングの関連性やその関係が生徒や教師にとって重要となる理由については常に明確でない。ゆえに本論文では、リーディングとライティングの関連性を教えるために用いられるストラテジーをより「目に見える形で」示すことを目標とする。
3. 調査方法
2014年1月、当時Wilbur Wright Collegeでライティングコースを担当していた教授陣45名に10の質問から成る調査を配布した。その調査は、ライティング教育におけるリーディングの役割について考え、意見や態度を共有し、リーディングとライティングの関係を教えることと関係があることを見出す技能あるいはアプローチを確認して、記述するよう求めるものだった。
調査に協力してくれたのは24名の教授で、調査時、うち67%の教授は大学レベルのコースを担当しており、残りの33%の教授はdevelopmentalのライティングコースを担当していた。(両方担当している教授もいた。)
そのうち、本調査への協力に賛成してくれた9人の教授(5人が常勤講師、4人が非常勤講師)に対し、2014年3月と4月に追跡調査としてインタビューを行った。このインタビューは約30分程度で、調査回答に基づく補足的な質問を行い、これに焦点をあてた。
(調査とインタビューを用いた)本調査の目的は、特にライティングコースにおいてリーディン
グとライティングの関係を教える教育学的アプローチに焦点をあてた生の質的データを収集する
ことである。ゆえに、インタビューにおいて、補足的な質問をすることによって、教授ら自身が
調査で答えたものに基づきながら会話が進むよう意識して行った。
以下の2つの基本的な質問に関連している回答において、キーワードとなったものに焦点をあて、本稿で取り上げていく。
1) 生徒がリーディングとライティングの関係に気付くようにするために、あなたはどのように説明
するのか。
2) あなたの生徒のライティング力を、(何で測って)どのように評価するのか。
4. 調査結果
4.1 リーディングは「重要」(様々な理由による)
すべての教授が、リーディングはライティングコースにおける「重要な要素」であり、リーディングとライティングは「関連性のある活動」であることに賛成の意見を述べた。また、授業でリーディングを用いる際、「手がかりやスキル」が広がっていることを強調することもあるというデータも得られた。
以下、本調査で回答した教授のうち、少なくとも50%以上が強調する技能/アプローチである。
・分析/解釈(75%) ・熟読(63%)
・クラス討論(71%) ・ジャンル別会話のモデリング(58%)
・グループ討論(71%) ・技能統合の引用(54%)
・修辞的ストラテジーのモデリング(71%) ・テキスト注釈(54%)
・ライティングでの回答/意見(71%)
中でも黙読やリーディングに関する意見としては以下のものがあった。
・黙読は、分析能力や批判的考察力を助長する。
・リーディングによって、生徒が自身の考えを持つようになる。
・リーディングによって、生徒が「根拠をもって」意見を述べることができるようになる。
・リーディングによって、生徒が形式・技術・意見を学び、それらを実際に用いて「何らかの反応
や応答をする」ことができるようになる。
また、調査の回答から、コースレベルやESLであるか否かといった違いは、リーディングとライティングの関係の重要さに関する態度に大きく影響を与えていないことがわかった。例えば、あるライティングコースの教師はリーディングはライティングにおいて重要ではあるが、各々の経験から得た知見で書くべきであると主張している。その一方で、同レベルのライティングコースを担当している別の教師は、生徒にリーディングを課すことによって生徒が「能動的に意味を知ろうと奮闘する」ため、これ以上にライティング技術を訓練させられる良い手段はないと主張している。
しかしながら、概して教授から得られたすべての回答は、リーディングはライティングをするにあたって良い「モデル」となり、リーディングとライティングは相互に関わり合いながら生徒たちの考えを明示するのを助ける役割を果たすというものに集約できるものであった。
本調査の分析より、以下の3つの重要な考えに行き着いた。
1)
生徒が注釈付きでテキストを読んで誰かに話す形式(対話型リーディング)をとることで、自己
の経験や大きな問題を、広いコミュニティや世界といった社会に関連する事柄と結びつけること
ができるようになる。ゆえにリーディングは「外の世界に関心を寄せる」活動となる。
2)
対話型リーディングをすることによって、テキストに取り上げられている問題に関して、表面上
の理解ではない、より深い意見を持つことが促される。これによって、忘却からの知的な超越が
可能となる。
3) 効果的なリーディングは効果的なライティングをもたらす。ここで教授の意見として多かったの
が、ライティングコースにおける構成だけでなく、他の教科や学問、コミュニティ全体まで視点
をあてることの大切さである。ライティングにおける構造、言語スキル、視点、修辞的ストラテ
ジーを、リーディングを通して学ぶことができる。
これら3つの関連した考え(対話型リーディング、知的超越、トピックの効果的な転換)は、実際にきちんとした形で優れた教え方を示すわけではないが、ライティングコースにおいてリーディングを教える際に重視すべきポイントである。
4.2 リーディングとライティングの相互作用の理解形式
教授らが、リーディングとライティングの関係を生徒にわかってもらおうという信念があることは上記の調査結果からわかった。ここでさらに、どのような教師による期待や指示が「良い」評価やリーディングとライティングの効果的な相互作用を引き起こすかについて、インタビュー結果より以下のことが示唆された。
・教師は生徒のライティングを評価する際、どれだけ生徒が積極的に取り組んだかの証を探す傾向に
ある。
・ある教師によると、生徒が熱心にライティングに取り組み、力を獲得しつつあったとしても、それ
が教師がすぐに気付くような進歩(構文が変わり始め、表現もよくなり、思いめぐらしては上手
く文に取り込むような進歩)でも、生徒自身が気付くかどうかは定かではないという。
・別の教師によると、文に「手順や目的」といった根拠が見られたとき、生徒のライティングに何か
しらの進歩があるとし、それは生徒がリーディングから形成したものであって、ただ読んだこと
を繰り返しているのではなくスキル向上を助長しているという。
・ある教師は、学生が有益な情報を解析するために苦労する様子を「泥」に例えて、解析結果と「泥」
とを比較し、「泥がすべてだ」と結論付けた。
・「泥」から出てくるものはさらに、リーディングとライティングの効果的な相互作用を、効果的で
ないものと分ける働きをする。ここで筆者は、調査結果の分析を通して、各相互作用における特徴
を表1 (p.4)にまとめた。
・表1より、care、investment、life、valueといった特定の期待をされつつ指導を受けた方が、効
果的なリーディングとライティングの相互作用が得られることがわかった。
◎献身的で情熱のある教師が教えると、リーディングとライティングの相互作用の効果が得られる。
5. 結論
今回筆者がインタビューを行った教授は皆、思いやりをもって生徒が勉強に励むのを助けようとしている深い献身を見せた。そのうえ、テキストを用いて、クラスメートやより大きなコミュニティとの対話を賢明に行っていた。
しかし、ほとんどの教授が、リーディングとライティングの関係を曖昧で複雑なものとして記述していた。筆者は、この教育的指示の曖昧性が、すべてのレベルの生徒にとって重要な学習背景の1つとして認められているものとしている。というのも、ただでさえライティングは「泥」のようなものなのに、そこにリーディングが加わることでさらに曖昧になるからである。
だが、良いリーディングとライティングの相互作用が起こった時、必ずしもそれに気付かないほどの複雑性や曖昧性があるわけではなく、感じたことを記述するための重要な考えやメタファーがリーディングに含まれているように思える。したがって、本論文でより有効的な授業に対する期待を明確にすることで、何か得られることがあるかもしれないと筆者は期待している。
■ディスカッションポイント
・リーディングから得られた知見や学びに関して、これまで特に印象に残っているほどの経験はあるか。
・「献身的で情熱がある教師」とは、具体的にどのようなことをしている教師を指すのか。
<授業を通して>
・文章に書かれていた内容に関して覚えていた人の意見では、留学生や外国に関することが主に知れ
て役立ったというものがあった。実際その人は留学を控えていたのもあって、そのトピックに対す
るモチベーションが大いにあったように思える。やはり学習において生徒自身のモチベーションは
重要だと思った。
・形式的なことを学べた事例としては、問題集を解いていたことで段落パターンの推測ができるよう
になったとの意見があった。これは日本独特の受験英語形式の学習であり、わりと多くの日本人が
同意する意見のように思えた。
・「献身的で情熱がある教師」は、教科書の課末課題も上手に活用する人であるという意見があった。