Tamai. K. (1993) 『Integration of
The Four Skills Using Debate -Theory and Approach-』
ARELE: annual review of English
language education in Japan 4, 11-20
1.
INTRODUCTION
新しいカリキュラムの導入とともにディベートが大きな注目を集めているが、その有用性や可能性に疑問を持つ教師もいる。それはディベートにおける現実的な手法としての論理的枠組みとアプローチの知識が十分でないからである。
この論文は、「ディベートを分析し、外国語教育の手法としての潜在的効果を確認する」ことと、「ディベートやディスカッションにおける英語4技能の統合についての実験を行う」ことが目的である。
2.
DEBATE
ディベートはある議題に対し肯定派と否定派に分かれて行われる議論の形態の一つで、最終的にはより優れた主張を行ったほうを勝者とするものである。
高校生の英語教育においては、以下の点から5人でのディベートが最も適当であるといえる。
(a) 1クラスの生徒の平均的な人数は40人で、それを5人ずつのチームに分けると8つのチームができ、8という数字はトーナメント形式を組むのに最適だから。
(b) それぞれの生徒の発言の機会がコントロールでき、不安などの精神的障害が比較的少なくなる人数だから。
(c) 5人チームでの活動はそれぞれの生徒を刺激し、生徒が相互に学びあうことができるから。
3.
THE BASIC FORMAT OF DEBATE
3.1 Topics
ディベートの主題は、議論になりやすく、反論がしやすく、初心者にも取り組めるように単純なものであるとよい。
3.2 Debate
Sequence and Events
筆者の考える50分のディベートの進行は以下の通り。1-2間、2-3間、3-4間には2分間の議論の中断が設けられており、その間各チームはそれぞれの生徒がとったメモを見比べて自陣営内での議論を深めることができる。
3.2.1
Constructive speech (3 min. for the team)
各チームの代表者が根拠を挙げながら主張を交わす。その他の生徒はそれを聞きながらメモを取る。
3.2.2
Questions and answers (5 min. for the team)
相手陣営の主張とは異なる観点からの質疑が求められる。質問の数は多ければ多いほど良いため、一つ一つの質問は簡潔であるとよい。
3.2.3
Rebuttal (8 min. for the team)
お互いの主張のあらを探し、審判員に自陣営の主張の正当性をアピールする。5人全員が発言するのが望ましく、それができなかった場合はそのチームにはペナルティが課せられる。
3.2.4 Summary
(3 min. for the team)
最終話者が議論全体を振り返り、相手陣営の主張の弱さを指摘するなどして、改めて審判員と聴衆にどれだけ自陣営の主張に説得力があるかをアピールする。
3.2.5 Judging
& Comments (6 min.)
教師によりディベートの勝者が判定され、総評が述べられる。
4.
A RATIONALE FOR DEBATE AS A MEANS OF TEACHING
LANGUAGE
ディベートが学習者のコミュニケーション能力の向上に効果的である理由と、ディベートとほかのコミュニケーション活動との違いを、ディベートが持つ以下の特徴から考える。
4.1
Content-based
ディベート最大の特徴は、日常会話などとは違い、環境問題、エネルギー問題、人権問題などの主題性のある話題を扱う点にある。それにより学習者の既有知識が活性化され、知的好奇心が刺激される。その一方で、ホテルでのやり取りなどの特定の状況での会話の練習は、学習者にとって直接関係するものではなく、興味を抱きづらい。
4.2 Output
Desire
「自分の持っている知識を英語で発信したい」という欲求は学習者をコミュニケーションに駆り立てる。どれだけ自分の能力とその発信に必要な能力の間にギャップがあっても、「発信したい」という強い欲求があり、それをうまく実行できれば、コミュニケーション能力の向上につながるであろう。
4.3 Critical
Thinking
ほかの英会話の練習が形式化されたドリルの反復に終始するのに対し、ディベートでは学習者がオリジナルの発言を定型化し、その過程で学習者は取り入れた情報を整序したり分析したり体系だてたりすることができるようになる。
4.4
Integration of The Four Skills
ディベートでは英語4技能を一つに統合でき、学習者は4つの技能すべてを発展させることができる。ディベート前の準備段階やディベート中には文章を読ん(リーディング力)だりほかの人の意見を聞いたりする。その際、取り入れた情報を書き出す(ライティング力)ことは、理解を深めたり意見を体系立てたりするのに役立つ。また、ディベート中に意見を交換する際は、注意深く相手陣営の発言を聞か(リスニング力)なければならない。そして、自身の意見について発言したりそれに対して受けた質問に回答したりするのにはスピーキング力が必要である。
5.
AFFECTIVE CONSIDERATIONS
5.1 Anxiety in
Debate
学習者がディベートで発言中にミスをしてしまうと、その学習者の発話産出において消極的な作用が働く。そのため、学習者の精神状態(特にスピーキングに対する不安や苦手意識)は教師がしっかり考慮し、対策すべき問題であるといえる。Dulay et al(1981)によれば、学習者の抱く不安が少なければ少ないだけ、学習者はよく言語を習得できる。筆者がディベート活動後に行ったフィードバックによれば、生徒が抱えるディベートに対する不安には、「無言になってしまう不安」、「知識が足りない不安」、「英語で発言することへ対する難しさの不安」、「ミスをしてしまう不安」、「発音が正しくないことが原因で理解されなかったり誤解を与えたりする不安」、「ほかの人の意見を正しく聞いて理解できない不安」が挙げられる。
5.2
Countermeasures
学習者の抱える不安への対策の一つは、まず学習者自身が十分に主題に対する知識を持っておくことである。しっかりとした知識を持っていないと、ディベートの破綻につながりかねない。
「無言になってしまう不安」と「知識が足りない不安」を解決するには、まず教師がその主題に対する十分な予備知識を学習者に与えることである。Johnson(1982)によれば、事前の背景知識は読解のスコアに影響を与えるだけでなく、それよりも大きく語彙の知識の定着に貢献するのである。そして次に、前もってスピーチ原稿を考えておくことである。
「英語で発言することへ対する難しさの不安」を解決するには、教師が事前に学習者に自分の考えを表明するときに使われる基本的な表現を教えることである。
「ミスをしてしまう不安」を解消するには、学習者の心の準備ができるまであからさまな訂正をしないことである。
「発音が正しくないことが原因で理解されなかったり誤解を与えたりする不安」と「ほかの人の意見を正しく聞いて理解できない不安」は、ディベートの前にスピーチを相互に練習したり聞きあったり自分のスピーチの録音を自己評価したりすることで緩和される。
6.
Reading-based Integrated Communicative
Approach
6.1 RICA
筆者は、学習者がコミュニケーション能力を高い水準で習得できるように、英語4技能の統合を含む方法論(Reading-based Integrated Communicative Approach (RICA))を提唱している。RICAの特徴は以下のとおりである。
(a) RICAは言語を「考え」、「自身の考えをまとめ」、「それをコミュニケーションの中で発信する」ための手段としてとらえている。
(b) RICAは意識的な学習を支持しており、正しく取り組まれれば言語の習得につながることを保証する。
(c) RICAは学習者の「表現したい」という欲求に焦点を当てている。
(d) RICAは議論を呼ぶような話題を取り扱い、学習者のコミュニケーション能力を増進する。
(e) RICAは、学習者にFigure 1のような手順を踏ませることで、英語4技能の統合を狙っている。
(f) RICAはFigure 1のような4つの段階をそれぞれの話題について4週間から6週間のコマに割り当てて構成する。
6.2 Rationales
for The Specific Order of Teaching The Four Skills
外国語学習のたくさんの方法論がリスニングを最も重要なインプットとして強調しているのに対し、RICAではインプットはまずリーディングからはじめ、それからリスニング、ライティング、スピーキングという段階を踏んでいく。それには3つの大きな理由がある。
まず、RICAはその全体の学習過程をスキーマの構築によって始めていくからである。
ディベートやディスカッションなどの高度なコミュニケーション活動に取り組むとき、学習者はL1とL2の両方で背景知識を必要とする。
そして次に、学習者が環境やエネルギーなどの問題について違った立場からの話題に触れる際、学習者にとってリスニングよりもリーディングのほうが負担を少なくできるからである。
偏った日本の入学試験の英語リーディングの形式により、リスニングによるインプットよりもリーディングによるインプットの方がはるかに慣れているという事実もある。また、Chall(1983)によれば、子供の学習の源は小学校4年生から中学校2年生にかけてリスニングとウォッチングからリーディングに遷移する。つまり、本稿で言う学習者(とりわけ知的な題材を扱う場合)にとっては、リーディングはとても良い学習の源であるといえる。
最後に、RICAを行うことで学習者が学習上で抱く感情に注意深く気を使うことになるからである。また、スピーキングを最後の活動にすることには、学習者が主題に対して最大限に理解しスピーキングに対する不安をもっとも少なくした状態でスピーキングを行うことができるという効果もある。
7.
GENERAL STRUCTURE OF RICA
RICAを用いた一般的な授業展開を紹介する。stage 1からstage 4にかけての授業数は10コマないし12コマである。
7.1 Stage1
様々な出典からの英語の読み物を通して、学習者がインプットを行う段階。まず教師が主題について英語で概説を論じ、議論の中で注目すべき重要な点について指摘する。このときに生徒の好奇心を刺激し、学習者が持つスキーマを活性化、学習に対するモチベーションを形成することが重要である。
導入が終わったら本格的にリーディングを開始する。ここでのリーディングの目的は英語の論述や構文の勉強をすることではなく、英文の内容や論点を把握することにある。専門的な知識などの詳細情報については日本語の本を参照するのもよい。このとき教師は生徒ら全体を観察し、必要に応じて教唆を与えるとよい。
7.2 Stage 2
磁気記憶媒体などを使って補助的に視聴覚の情報をインプットすると学習者の理解がさらに深まる。
7.3 Stage 3
ここでは、講師が段階を踏んで学習者のスキーマを活性化することで学習者のアウトプットの準備を行う。学習者の情意フィルターを緩和するために、アウトプットはスピーキングからではなくスピーキングのための材料を書き起こすことから始める。
ここでのライティングは、「主題に関する基礎的な知識の確認」、「問題解決の方法」、「自身の主張」といったようにいくつかの段階にわけて行うとよい。
7.4 Stage 4
教師は、学習者がスピーキングの練習からディベートにスムーズに移行できるように、stage 4を以下の4つの段階に分けるとよい。
(a) Output 1
学習者が初めておこなうスピーキングの練習。教師は磁気記憶媒体を使って模範となる生徒のスピーキングを聞かせたり、学習者に自身のスピーキングを録音させたりして、学習者が自身のスピーキングを振り返ることができるようにするとよい。
(b) Output 2
2人の生徒の間でスピーキングをし合い簡単な質疑応答を踏まえてディベートへの対策を練る。
(c) Output 3
Rebuttalを中心にミニ・ディベートを行う。これを経て学習者は相手の意見に反論する方策を学び、相手陣営の意見と自陣営の意見を突き合わせることができる。また、ここではチーム全体として知識を共有・活性化し、チームとしての主張を組み上げることができる。
(d) Output 4
2節と3節で述べた方法で実際にディベート行う。初めてディベートを行う場合、教師はディベート後に学習者からフィードバックを貰い、ディベート活動全体を通して学習者自身がどう思ったかを分析し、次回のディベート活動に活かすとよい。
8.
CONCLUSION
筆者が行ったディベートでのフィードバックでは、全学習者の71%が「ディベート活動で自身の英語のコミュニケーション能力が向上した」と回答した。さらなる研究が必要であるとはいえ、生徒はディベートに対して好意的な反応を見せ、ディベートそれ自体はコミュニケーション能力の向上に成果を上げたといえる。RICAは柔軟に応用ができるシステムであり、これを利用した教師からは入学試験対策としても効果的であるという声も聞かれた。
RICAでの成果によって、「学習者は母語の範囲内ではある主題に対する主張を持っていて、RICAはその主張をL2で表現する方法を提示する」という仮説が立てられた。それを踏まえ教師は、どのようにL2の形式で学習者から主張を引き出すか、また、主題に関するコミュニケーションで生徒に満足感を与えるにはどうしたらよいかを考える必要がある。
Discussion
Point
・あらかじめ下準備を重ねて英語のスピーチを行うのは、実質的なスピーキング能力の向上に直接つながるのか、また、リーディング活動やリスニング活動の際にディベートの材料として英語でノートをまとめるのは、実質的なライティング能力の向上につながるのか。
・この活動を通して、学習者の英語4技能をそれぞれどのように測り、評価したらよいのか。
○授業を終えて
・ディベートで磨かれるようなアカデミックなスピーキング能力は、英会話で用いられるスピーキング能力とどのような関係があるのかが気になった。
・5人対5人のディベート中、のこりの30人は何をしているのかが話題に上がった。自分は、「残りの30人にディベートを聞きながら日本語で簡単な感想文を書かせ、教師は30人から回収した感想文を参考にしてディベートの決着と総評を言い渡す」という手法を考えたが、ほかの人からは「授業時間の節約と回転率の向上のために生徒を審判員にしたり同時並行で違うチームが2試合戦ったりすればよい」という手法が挙げられた。
・ディベートは4技能を統合した取り組みであるとはいえ、やはり実力テストで測られるような実際的な4技能は測定・評価しづらい。ディベート活動では勝敗を決定するのみとし、4技能すべてを評価しようとして無理のある運営をしない方がよいと考えられる