阪上辰也(2014)「リスニング能力向上のためのディクテーションを中心とした授業実践」『広島外

  国語教育研究』17, pp.167-172

 

1. はじめに

 リスニングタスクを作る際、内容理解の設問において、どのようなタスク形式にするかを検討する必要があると印南(2015)は述べていた。そこで今回は、タスク形式の1つであるディクテーションを用いてリスニング能力向上をはかった論文を取り上げることにした。

 

2. 論文の概要

 中級レベルの習熟度にある日本人英語学習者に対し、授業内でディクテーションの活動を取り入れたことによって、リスニング能力が向上したかどうかを検討する。

 

3. 授業内での実践

3.1 学習者の習熟度

 対象となるのは、「Advanced EnglishⅠ」という授業の受講生27名のうち、学期初期と学期末に実施されたTOEIC IPテストを2回とも受験した大学院生23名である。2013年4月に実施したTOEIC IPテストの平均スコアは578.9点で、標準偏差は118.2であった。取得スコアのヒストグラムは別紙資料図1の通り。

 

3.2 Advanced EnglishⅠの授業計画

 Advanced EnglishⅠの授業計画は、別紙資料表1の通り。本授業は、リスニングとリーディングに焦点を当て、様々な分野の英語運用の基礎となる能力向上を目指している。

 また、授業外にて「ぎゅっとe」というオンライン教材を使って自主学習を行い、第4回以降の授業の冒頭に、指定された範囲の小テストを行った。小テストを実施した後、読解や聴解などの演習を行う流れになっており、この演習時にディクテーションタスクを取り入れた。

 

ぎゅっとe:「徹底した集中訓練で、飛躍的に英語力を伸ばす」ことを開発思想とした新発想のネットワーク型集中英語学習プログラム。1つのコースにおいて、標準で8週間の集中学習プログラムとして利用するように考えられている。詳細はhttp://gyuto-e.jp/school/index.htmlを参照。

 

4. ディクテーション用Webアプリケーションの利用

 本授業において、大名力氏(名古屋大学)が開発した空欄補充問題の作成ツールを利用してディクテーションタスクを作成した。

 利用方法の詳細は、http://dicoml.gsid.nagoya-u.ac.jp/~ohna/jd/man.htmlを参照。

 

<作成の手順>

  1) 聴かせたい音声のテキストをフォームに入力

2) ボタンを押すと、単語や記号類の前後に「<=・=>」のマークがついた状態で結果が表示される

 (別紙資料図2参照)。

3) 学習者に入力させたい単語はそのままにしておき、難しい単語や固有名詞のような入力が困難な

 ものについては、そのマークを削除することで入力すべき対象から除外することができる(別紙資

 料図3のdogmaが該当)。

 

<空欄補充問題の作成ツールの特徴>

1) JavaScriptによるチェック機能のみに特化している点 =オフラインの状態でも使用可能!

 正答率や語頭の記録を保持することはできないが、ページの表示が完了すれば、正答との照合処理はブラウザ上で行われるため、インターネット接続が継続されていなくても何度でも利用でき、サーバーやネットワークに負荷をかけることがなくなる。

2) 解答部分が簡単に読めるようにはなっていない点

 HTMLで記述されていることから、学習者がHTMLのソースを表示することで正答を得ようとする行為を防ぐのに有効。

[] yourという単語は「&#121;&#111;&#117;&114;」という数値に変換される。

 

5. TOEIC IPテストの結果と学生の感想

 2013年4月実施および同年7月実施したTOEIC IPテスト(Listening Sectionのみ)のスコアの散布図(別紙資料図4)を参照いただきたい。

 

<結果>

23名中18名の学習者のListening Sectionのスコアが上がっていることが確認された。

・この得点差について、対応のあるt検定にかけたところ、t (22)4.13p.01r.66であり、

 これらの平均値の差は有意であった。

・第1回目のテストと第2回目のテストのデータの相関係数は .85だった。

 ⇒ディクテーションを継続したことによる一定の効果が得られたと考えられる。

 

<学生の感想>

・「ディクテーションを続けることで、聴こえない音を復元できるようになった」

・「記録が保持されないので、別の機会にアクセスするとすべて空欄となっていてモチベーション

 が下がる」

⇒ディクテーションへの取り組み方に関するさらなる助言や、正答の記録保持や誤答に対するヒン

 ト表示などの機能強化の必要性があると言える。

 

6. おわりに

 本論文では、大学院生である日本人英語学習者に対し、15回に渡る授業の中でディクテーションタスクを与えた結果、TOEIC IPテストのスコアが上昇し、リスニング能力の向上に一定の効果が見られたと報告している。

 

 しかしながら、今回の学習者はディクテーションのみで英語を学んでいるわけではなく、指定されたオンライン教材の「ぎゅっとe」を利用した継続的な学習に加え、広島大学外国語教育研究センターが配信するPodcast(榎田, 2011)を聴いたりするなど、多様な形式で英語学習を行っている。

⇒ディクテーションによるトレーニングは、あくまで一要因に過ぎない。

より厳密な条件統制を行い、聴き取れる・聴き取れない表現には何があり、それはなぜかといった

 観点からの詳細な効果検証が必要。

 

Hiroshima University’s English PodcastHUEP

 広島大学外国語教育研究センターで、20088月から開発および配信を行っている。「ドラマを英語で学ぼう」「やさしい英語会話」「異文化ディスカッション」の3種類から構成され、それぞれ内容と対象レベルにバラエティを持たせている。1本の番組の長さは1520分程度で、毎週更新される。過去の配信分を含む全番組の視聴とダウンロードは、Nucleus CMSを用いたオリジナルのウェブサイトとiTunes Storeを通じて行えるようになっている。

 

◇参考文献

 榎田一路(2011)「オリジナル英語学習用ポッドキャストの授業での継続的活用」『広島外国語教育

   研究』14, pp.71-82

 

 

◆ディスカッションポイント

・空欄補充問題の作成ツールを利用してディクテーションタスクを作成する際、どの程度学習者側に空

 欄を補充させるようにすれば、良い効果が得られるのか。

・初級の日本人英語学習者に対する授業でもこのような取り組みを可能にするためには、どうしたらよ

 いのか。

 

 

<みんなから出た意見>

・個人のタイピングスキルも成績に関わってきそう。

・クラスで行うのは難しく、個人での作業が1番効果がありそう。

・本当のテストでは回答制限や時間制限があるため、そこに応用できるか疑問である。

・機械処理されるため、スペルミスもrejectされてしまいそう。まったくわからないのとスペルがわからないのとでは、わからないレベルが違うため、改善されるとよい点だと思う。

・院生の実験協力をした際、youtubeを用いて、全文ではなくフレーズずつ表示されてディクテーションを行い、そのフレーズが終わった後ごとに答えや音が確認ができる形式になっていた。このように、ディクテーションタスクの作成において、工夫のしがいがあると考えられる。

・このディクテーションタスクにおいて、ライティングの力や語彙知識なども関係してきそう。

・全文空欄にして辞書を使ったり何度も音声を聞きなおしたりすることができる状況の方が、労力を使う分、定着するのではないか。

・穴空きのタイミングとしては、明確に聴き取れる簡単な単語は表示しておくことが1つの方法としてよく用いられている。または全文書き起こしのパターンが多い。

・同じトピックで34回くらいやると定着すると思う。

 ┗1度出てきた単語が再度出てきた時に聴き取れると、自信につながる。

 ┗違う分野では出てくる単語も全く違くて、単語を定着させる間もなく忘れてしまう。

 ⇒シリーズもので勉強するとリスニングは1番良いと言われている。