◎発表文献

Kei Mihara (2015). Effects of Phonological Input as a Pre-Listening Activity on Vocabulary Learning and L2 Listening Comprehension Test Performance TESL-EJ 19-2 1-18

 

 

 

Abstract

この研究の目的は生徒の語彙学習における音韻的インプットの効果を調べることと、どのようなpre-listening activitiesが生徒のL2学習に影響を及ぼすかということである。

 実験の結果、音韻的インプットは語彙テストとリスニング理解テストの成績に有意な役割を果たさないことがわかった。しかし、pre-listening activitiesはその種類に関わらず、リスニングの理解に良い影響を与えることがわかった

 

Introduction

pre-listening activitiesに関する研究は多く存在し、役に立つものであるとされている。

pre-listening activitiesには4つの種類がある

1. repeated-input

2. question preview

この二つは最も広く知られた方法である。TOEICなどでは使うことができない。

2に関してはpre-listening activitiesとして扱われないこともある。

3. topic preparation

主題に関する知識がないと文の理解が難しい場合には効果的である。

4. vocabulary pre-teaching

語彙を事前に教えることであるが、この際、音韻的情報を伴うか否かをこの研究で調査する。

 

Literature Review

pre-listening activitiesのうち、1,2,3に関する先行研究について

1. repeated-input

・最も有名である。効果があると証明されている。

・繰り返し聴くと、情報がより明確になり、理解がしやすくなる。

2. question review

・意見が分かれている。

→余分な負担になるとの主張と、より明確に聞き取れるという主張がある。

3. topic preparation

・効果的であるとした論文もある。しかし音声テキストの語彙を生徒に習得させるためにpre-listening activitiesを用いたという研究はほとんどない。

 

Berne(1995)

スペイン語学習者のリスニングテストでの異なるpre-listening activitiesの効果を比較

Question reviewをした生徒のほうがVocabulary reviewをした生徒より高い得点であった。(有意差はなし)

→語彙知識は明らかに重要な知識であるが、リスニング理解テストにおいて、語彙学習は特に効果的であるとは言えなかった。

 

Venner2001

・語の知識は多次元の物であると主張

→語の意味だけではなく発音の側面スペル文法的形式などのこと

 

Ikemura2001

日本人英語学習者が音声的な情報と文の情報をどのように利用しているか

・日本人英語学習者はその語が独立しているときは聴覚的より視覚的に認識しやすい

)Cotton

 

Tao20008

日本の高校の生徒の語彙獲得における音韻的インプットの効果についての研究

・学習における音韻的インプットは成績に影響しない

・語彙の発音を聴かせたphonological-cue tesより語彙を書きとらせたorthographical-cue testのほうが良い成績を残した。

・語彙テストにおいては語を聴くより、文字を見るほうが良い成績を残す。

→音韻的インプットは語彙獲得や語認識においてそれほど重要な役割を果たさない

 

○本研究の目的

1.音韻的インプットが語彙学習にどのような影響を及ぼすのか

2. L2学習者のリスニング理解テストに語彙のpre-teachingがどれほど影響するか

 

Methodology

Participants

60人の日本人の大学一年生

・3つのクラスに分け、クラス1と2が実験群、3が統制群とした

・週二回、計八回リスニング理解テストを行い、ANOVA(分散分析)を用いた。

・テストはG-TELPのレベル3(難易度はTOEIC400-600点程度)

→テストの結果、3クラス成績の有意差はみられなかったため、同程度の熟達度とする。

 

Material

・同じ話者から発せられた短い文を用いる

TOEICの公式ガイドブックから8つの独話文を選び、選択式で回答させる。

 

Procedure

・全ての参加者に同じ語彙リストを与えた。

・二つのクラスは違ったpre-listening activitiesを課し、同じリスニングテストを行った。

・参加者は10分間pre-listening activitiesを行った。

→うち3分は書かずに対象語句の記憶をし、7分で語彙テストを行う。

 

クラス1に行った語彙課題はTao(2008)の実験と同様のものである。

→生徒は二度発音される語を聞いて学習し、その訳を日本語で答案用紙に書かせる。

クラス2に行った課題はBerne(1995)の実験とほぼ同じものである。

→語彙項目を黙って読ませ、その発音は聞かせない。

クラス3は統制群であるためpre-listening activityは行わず、テストのみ行った。

 

RQ

pre-listening activityの際orthographical-cue testを行った L2学習者がphonological-cue testを行った学習者より高得点を獲得しているのか?(クラス1<クラス2となるか)

②対象の語を学習する際音韻的インプットをしたL2学習者がリスニング理解テストで音韻的インプット無しの語彙課題をした学習者より良い成績を残すか(クラス1>クラス2となるか)

 

Results

・分散分析の結果、クラス1とクラス2の得点には有意差が見られないことが分かった。

・また、表4にある通り、テスト5,7,8ではクラス2の得点がクラス1よりも低かった。

Tao(2008)の研究結果と一致しない

表4


これは生徒がphonological-cue testに慣れ親しんでいないためであると推定される。

→生徒の成績に重要なのは語彙テストのタイプではなく、そのテストに慣れているかどうかである。


Listening Comprehension Tests

Pre-listening activitiesの効果について分散分析を用いて調査したところ、統制群であるクラス3と他の2クラスとの間には有意差がみられ、クラス1とクラス3、クラス2とクラス3、には有意差があり、クラス1とクラス2には有意差がみられなかった。

・語彙課題の中で行う音韻的インプットはリスニング理解テストにそれほど重要な影響を及ぼさないが、語彙課題自体はテストの前に何もしないよりも効果がある。

 

Follow-Up Survey

・実験群の生徒に対し、pre-listening activitiesはリスニング理解テストに役立ち、よりよい成績を残せたかという質問をし、(1.全くそう思わない)から(5.とてもそう思う)までの5段階評価で回答させた。

結果、どちらのクラスでも半分以上の生徒が役に立つと答えた。また、音韻的インプットなしのクラスのほうがよりこのpre-listening activitiesに満足していた。(表9

Discussion

・クラス1とクラス2の得点の間には統計的に有意差がみられなかったため、RQの①と②がどちらも否定されることとなった。しかし一方で、クラス1と2どちらのクラスもクラス3よりも高い得点を出していた。

Follow-up survey の結果、音韻的インプットをしなかったクラス1のほうが音韻的インプットをしたクラス2より反応が良かった。これは興味深い結果であり、理由としては音声を聴くより書かれている文字を見るほうが参加者にとって好ましかったからということが考えられる。

・実験後、pre-listening activitiesが役に立たないと答えた参加者に理由を尋ねたところ、単純にこのような練習が好きでないという回答が得られた。

・リスニングにおいては言語能力だけではなく感情的な要因が関わっているというのはChang & Read(2008)においても提唱されている。もし、pre-listening activitiesが生徒の不安度を増大させていたら、テストに悪い影響が出てくる。つまり、実際にその活動がどれほど効果的かに関わらず、慣れ親しんでいることは生徒の満足感を向上させる。不安感に関してはこの研究では問題としていないため、今後明らかにしていく必要がある。

 

Conclusions

今回の研究の限界について

・参加者は同レベルのものであるため、どれほど熟達度を向上させたかに関しては調査対象ではない

・筆者が参加者にとってなじみがない語やフレーズを選んでいること。

→筆者が選んだ語彙リストが参加者にとって学ぶ必要があるものでなかった可能性がある。

・参加者全員が日本人であること

→日本人は音声より文字を見て覚えることを好むとされる。

 

これらのことから、今回の研究で対象の語彙を聴くという音韻的インプットは単独では効果がないということがわかった。

語彙のpre-teachingはその語単独ではなく文中の発音とともに聴かせる機会が必要である。

→個々の語に焦点を当てることは必ずしも言語の側面を映し出すとは限らない

・生徒の学習スタイルを考慮する必要がある

・今回の研究で統制群より実験群の得点が高かったことから、pre-listening activitiesをすることは何もしないより効果はあるということが分かった。

 

 

 

 

discussion point

・このpre-listening activitiesはその時のテストの得点を上げる効果はあるが、長期的なリスニング能力の向上にどれほど役に立つのか

・音韻的インプットに慣れさせた場合、得点や満足度は向上するのか

pre-listening activities4つを組み合わせることにより、さらに成績を上げるこ