James Muncie(2000), Using written teacher feedback in EFL composition classes. ELT journal, 54(1), 47-53

概要
本論文は学習者のライティングプロセスにおいて、原稿の作成中に教師が書面でのフィードバックを行うことに関する懸念をまとめたものである。教師が生徒にとって熟達者であり、評価者でもあるという事実は学習者がフィードバックを使うか否かという選択の余地をなくすということを意味する。さらに、生徒によるフィードバックを含んだ批評が欠落しているということは、生徒が内面化を行い、直接的な課題を超えて効果を得るといった機会を失うことになる。代わって、水平的評価(peer feedback)が下書きの作成途中に有効であり、教師のフィードバックは下書きの終わりに有効であることが研究でわかった。生徒は教師や同等レベルの者(peer)の意見をライティング作業内で使用することで、「次回のライティングをどのように改善するか」という題目の概略を創造することが要求される。このことはフィードバックが直接的なライティング作業を超えた効果を保証しつつ、学習者に長い目でライティングスキルを向上させるのに役立つ自律心を育てるという点で推奨される。

導入
・ライティングのプロセスアプローチが主流となってきている
→今まで長く主流であった、教師によって課題が出され、生徒が書き、教師が直して生徒に返すという方法に変わる方法を模索する目的

プロセスアプローチ=ライティングプロセス自体に注目。アイデアを練るためにプレタスクを行い、そのアイデアの改正、拡張を行うために多様な下書きの作成もおこなう。
→さまざまなフィードバックが可能
Lynch(1996)「さまざまな種類のフィードバックをすることで、一つのテクニックに頼らずに、生徒は正攻法を確立できる」

・ライティングプロセスにおけるフィードバックの目的に関する懸念は、フィードバックが下書きを完成させるための短い期間での助けとみなされているという点である。
Leki(1990)「ほとんどの研究が、フィードバックが学習者の課題にどのように影響を与えているのかということに絞られてしまっている。」

・教師はフィードバックが行われる際、さまざまな役割を担うことになる。
→audience, consultant, reader, evaluator

教師がさまざまな役割を担うことへの問題点
・教師がいくつか、もしくはすべての役割を担うということは教え方をその都度変える必要があるということである
→しかし、教師はreader、collaborator、assistantといった熟達者としての役割を担えたとしても、絶対的にevaluatorなのである。

○著者の考え
こうした評価者としての役割に加え、教師はクラスにおいて熟達者としての地位も持つがゆえに、教師と生徒の共同作業に教師の権威というものが加わる。その結果、学習者は自身の考えを再考する余地がなく、教師のコメントに従うこととなる。よって教師は内容や構成についてフィードバックを行うのではなく、表面的な間違いについてフィードバックを行うべきである。

・教師からのアドバイスをすべて練りこんだ下書きを書くということは、短期的な目標(正しい原稿を書くこと)に対しては有効であるかもしれない。
→しかし、生徒は評価されるものとしての原稿を作り出してしまう。そこでの構成、内容は熟達者のものである。

・フィードバックを使うことしか選択がないということは、せいぜい生徒にどのようにフィードバックを使うかということを決定させることしかできない(使うことが前提で、何を書くかが決定されてしまっている)
→こうしたフィードバックでは長期的ライティングスキルの向上には役立たない

目標の再考
短期的目標=原稿をより良くする
長期的目標=ライティングスキルを向上させる←著者が目指す目標

・ライティングスキルの向上とは生徒が自主的かつ自己を信頼してライティングをおこなえることを指す
Lewis(1993)「教師が真に成功した時というのは、教師が必要なくなった時である。教師は生徒の依存心ではなく、自主性を伸ばさなければいけない」

・原稿の途中での教師によるフィードバックは生徒に選択、決定の機会を奪うことになる

4. 教師による下書きの作成途中のフィードバックに代わるもの
・プロセスライティングアプローチの中心的な考え方…「フィードバックとは、書き手にたくさんの下書きを経験させた上で最終的な完成版を作らせるもの」(Keh 1990:294)

・これまでに挙げてきた問題を避けるためには、下書き段階でのフィードバックは真の意味でのcollaboratorでもあり、興味を持って読んでくれる他の生徒によるpeer feedbackが最適
→フィードバックを受ける生徒は、受け取った情報の中からどれをどの程度適用して、また、適用しないかを選択することができる。

・教師から受けるフィードバックに比べて質が劣るのではないかという指摘もあるが、読み手からの視点を書き手が得ることができるという目的を考えれば生徒間でのフィードバックでも十分である。

○日本の大学生29名の生徒に行ったアンケート…ライティングの過程における異なったフィードバックに対する生徒の考えを引き出すために作成。5段階評価で、1から5にかけて評価が高くなる方法をとった。
→Peer feedbackにおけるフィードバックによって自分の下書きが改善されたと感じたかという質問に対する評価の平均は4.03という効果を感じた者が多い結果が出た。

→1つのセッションにおけるフィードバックによって、29名中の26名が下書きの改善にフィードバックを生かしていることが示された。また、その26名中の17名がフィードバックで受けた情報の全てを適用したわけではないと申告していたことから、生徒間によるフィードバックにおいて書き手は情報を選択的に適用しているということが証明された。

→一方、「もしも下書き段階で教師からフィードバックを受けたらそれを最終版に反映させるか、またもしもそうならどのように適用するか」という質問においては、29名中6名が「意見に賛成できる場合のみ適用する」など条件付きで肯定したのみで、残りの大多数がなんの疑問もなしに肯定するという結果が出た。
この結果から、下書き段階における教師によるフィードバックは、本当の意味で生徒のライティング力を向上させるフィードバックとしての役目を果たしていないということがわかった。

5.教師によるフィードバック
・教師によるフィードバックは教師・学習者双方にとって必要なものであり、もしフィードバックが下書き途中の段階でできなかった場合は完成版では必ず行う必要がある。
→タスクはもう終わっているため、学習者がフィードバックをどう扱うかが問題。
→完成版をフィードバックすることに対しての主な反論の一つ。

・この問題を克服する技術としては将来の文構成をどうやって改善するかと題された要約
を作成させその日のうちに返却するというものがある。

・ここではpeerや最終版のフィードバックにより手直しされたtext-specificなコメントから推定したtext-generalな点を記述する。

・全てのライティングのサイクルの最後に、フィードバックで得られたことのリストを加える。

・このシステムはアカデミックライティングなどの特定の分野に集中したコースでは最も
単純なものである。

○教師による下書き途中のフィードバックの三つの利点
①学習者がコメントを今後生かせるように解釈するため、批判的評価や意思決定のレベルのフィードバックをすることになり、フィードバックというものを身につけやすくなる。

②学習者が作成し使用する要約は明らかにオリジナルのものであるということ。
→peerや教師からのコメントを利用することができるが、その選択は自発的に行うものである。

③生徒はそれぞれでより良い文構成のため個別の指針を作成し、長期間使用するようになる。

・これらの技術に対する生徒の反応はおおむね好意的である
→上記と同様の質問をしたところ、29名のうち、28名がライティングとその課題の見直しが文構成能力の向上に役立つと回答しており、どれだけ向上したかという質問に対しては5段階評価で平均が4.03と、peer feedbackと同様の数値となった。

6. 結論
・ライティング力を向上させるには、フィードバックを有効的に適用することができるようになるということが大切である。しかし、フィードバックは学習者自身が積極的に課題に取り組み、分析して評価する気がないと効果を発揮することができない。このためには、下書き作成段階でpeer feedbackを行うことが重要
→学習者が自分でどのフィードバックを適用するべきなのかということを考える必要がでてくるため。

・教師によるフィードバックは長期的な視点で捉えたライティング力の改善という目的において有効
→5章で述べた方法を用いることによって、その時点で扱っている課題に限らず、将来の作文においてもフィードバックを生かすことができる。さらに、このタスクは高度の評価力と判断力を含んだものとなるため、フィードバックが経る精神的処理を増加させることになる。このことは学習者がよりフィードバックを内面化させるのに役立ち、長期的な改善につながる。

・フィードバックの種類についてはたくさんの意見が存在するが、どれも学習者に読み手の視点からの意見、作文を客観的に捉えた感想を与えることによって、ライティング力を向上させることに役立つということがわかっている。

・これまでに述べた著者のフィードバックの適用方法は、学習者がライティングに自発的に取り組み、また長期的にみたライティング力の向上においても貢献することができる。

考察
①Peer feedbackは、評価する側もモチベーションが高くなければあまり効果が得られないのではないか。また、そのモチベーションを上げるためにはどのような方法があるのか。

②生徒にフィードバックをするよう指示しても、やり方がわからないのではないか。

③下書き段階での教師によるフィードバックを学習者に明示しなかった場合、どの程度適用するのか、また明示した場合との差は見られるのか。

④教師のフィードバックがなぜ必ず必要なのか。

議論
①peer feedbackの内容も教師が評価することでモチベーションを向上させることはできるのではないか。

②フィードバックの指導書を作成する、指導方法を教授するなどの工夫が必要。

③実際の調査、研究が必要。

④最終的な評価、peer feedbackでは気づかれなかった間違いについての言及をおこなうため。また、教師によるフィードバックを生徒が最終的に見直さない可能性があるため、本論文での解決策として指示されている方法をとる。または、教師によるフィードバックをおこなった後もう一度完成品を提出させて、最終的には教師からのフィードバックを取り入れた原稿とそうでない原稿の二つを評価する、といった工夫が必要。