実践編E論文紹介
Kazuhiro Imamura(2008), The Effects of
Extensive Reading for Japanese High School Students on their Reading and
Listening Abilities, Vocabulary and Grammar. Annual
review of English language education in
Japan 19, 11-20, 2008-03.
目的:多読が日本人高校生英語学習者の、リスニング、リーディング、語彙、文法能力に影響を与えるのかを検証する
実験
@英語技能、知識に関する6つの種類のテストを受ける
A学校外で8.5ヶ月の多読活動をおこなう
B同じ内容のテストを受ける
結果
@およそ50,000語以上の単語を多読で読んだ生徒は、読解速度と読解力がその元のレベルにかかわらず飛躍的に向上する
A多読は単語認知能力も向上させる
Bスペリング、文法、リスニングの能力とはあまり関係がない
1. Introduction
多読活動の効果は多くの研究者に認められながら、学校で実践されてきていない
→教師の多くが多読の有効性について認知していない
Day&Bamfordによる多読の定義
細部や文法項目にこだわらず、外観をつかむことに焦点を当て、楽しむ、情報を得る、理解する、の3つを目標に読む
一般的な教科書をつかった授業では年間におよそ5,500語しか読まない
2. Literature Review
Kanatani et al(1991)多読活動を4週間おこなうグループと6ヶ月行うグループを設け、多読活動終了時に読解力が向上したか検証した
→6ヶ月のグループには読解力の向上が見られたが、4週間のグループには見られなかった
Suzuki(1992)多読とリスニング能力、読みの能率性(読解速度+内容理解)との関係を検証した
→300ページの多読を終えた後で協力者は両能力について向上が見られた
Hashimoto et al(1997)高校一年生を対象に8ヵ月間多読をおこなってもらった
→多読をおこなった生徒の読んだページ数と読みの能率性の向上度との間で相関がみられた。この相関は生徒の元の読みのレベルには依らなかった
⇒多読活動は長期間おこなわれなければならない
多読はリスニング力と読解力を向上させる
多読で読んだ分量が大きいほど能力の向上は大きい
3. Research Question
多読は日本人高校生英語学習者の、リスニング、リーディング、語彙、文法能力に影響を与えるのか
4.方法
T協力者
日本人の高校2年生267名
ほとんどの協力者の英語レベルは英検3級〜準2級ほど(TOEICに換算すると330から480)
U多読の方法
@協力者に多読をおこなってもらう期間は8.5ヶ月
A多読をおこなう本はgraded readersから協力者の好きな本を選んでもらう
B多読活動で1冊読むたびに、生徒に“Marathon reading sheet”に記入をしてもらう
Marathon reading sheetの内容
本のタイトル、読み始めた日付と読み終えた日付、簡単なコメント、本から学んだ単語(5語以上)、100語で1ポイントとした際の一冊読んで獲得したポイント
Vテスト内容
8.5ヶ月の多読期間前と後におこなう
@読解力
A読みの能率性
@より簡単なテキストを用いて、その内容を文章量と問題数の多いものにする。
B語彙力
英単語に対して正しい日本語を選ぶ
Cスペリング
日本語を英単語に書き換える
D文法
Eリスニング
@、D、Eに関しては英検の2級、準2級、3級の問題を用いる
W分析
考察の際には多読活動をおこなった学習者の多読で読んだ総語数によってグループ分けをおこなう(Maximal, Intermediate, Minimal)
さらにそのグループをそれぞれのテストにおいて上位層と下位層に分割する
5.結果と考察
@読解力
すべてのグループにおいてテストの結果が向上し、多読活動との相関がみられた
向上率はMax>Int>Minとなった
上位層と下位層において向上率に差は見られなかった
A読みの能率性
すべてのグループにおいてテストの結果が向上し、多読活動との相関がみられた
向上率はMax>Int=Minとなった
上位層と下位層において向上率に差は見られなかった
B語彙力
すべてのグループにおいてテストの結果が向上し、多読活動との相関がみられた
向上率はMax>>Int=Minとなった
上位層の向上率は小さく、下位層に関してはほとんど向上が見られなかった
Cスペリング
テスト結果は向上したが、多読活動との相関は見られなかった
D文法
テスト結果は向上したが、多読活動との相関は見られなかった
Eリスニング
テスト結果は向上したが、多読活動との相関は見られなかった
6.Conclusion
(Maximal=50,000語以上の協力者)
@、A、Bの結果より50,000語を多読成果の一つの基準とみなすことができ、50,000語以上の多読は学習者のリーディング能力を大きく向上させる
多読によるリーディング能力の向上は、学習者のレベルに依らない
多読はスペリング、文法、リスニングの能力には結びつかない
50,000語以上の多読によってスペリング、文法、リスニングの能力が向上する可能性はあり
(群分類)
(読解力)
(読みの能率性)
考察
多読はライティング、スピーキング能力を向上させるかの検証が必要であるが、語彙力、スペリングとの相関が小さいので向上させる可能性は低いかもしれない
多読はそれ自体ではほとんどリーディング能力にしか関係しないので、授業で多読をおこなうためには他の技能と組み合わせたタスクをおこなう必要があるのではないか
ディスカッションポイント
@多読を用いたタスク(実践編Eにおける発信的リーディング)
Aなぜ多読はスペリング、文法、リスニングの能力には結びつかないのか
Bこれらを踏まえてはたして多読は有効な学習方法であるといえるのか
具体案
@・多読で読んだ内容について発表(スピーキング)
・紙にまとめる(ライティング)
A・結局、読んでいるだけにすぎないのではないか
⇒読むことにばかり頭がいってしまって、ほかの活動に目が向かない
⇒二次活動としてほかのタスクを行う(新しく覚えた単語を書き出す等)必要
綴りに注意するように等の注意喚起
B・一つのタスクですべての能力を網羅することはできない
⇒必要な能力、伸ばしたい能力が、読解力、読みのスピードなら多読ができる時間を確保することができれば十分有効な活動。ほかの能力も多読で賄おうとするならば、二次活動を行うことが必要。
⇒クラスでの目標に合わせて多読を取り入れる