西原俊明・西原真弓(2012,「英語構文の生産性と英作文教育への応用」『長崎大学 大学教育機能開発センター紀要』Vol.3, pp.1-8

 

はじめに

 

(1) a. I walked my legs off.

   b. I shook him awake.

 

(1)a, bのような結果構文は自動詞・他動詞という二分法的視点を強調しがちな高校までの英語教育では説明しにくい。それゆえ授業で取り扱われず、英作文にも応用されない。本論考では結果構文の生成メカニズムが他の英語構文に拡張されることを示し、そのメカニズムを理解することで表現力が向上することも明らかにしたい。

 

結果構文の派生

〇結果構文

 

(2) <行為>CAUSE<変化><結果状態>

 

結果構文は(2)のような行為連鎖を含む。(1)aでいえば、<行為>がwalk, <変化>は表記されず、<結果状態>がoffに対応する。動作主体はwe, 変化主体はmy legsである。

 

(3) They danced *(themselves)*(tired).

 

結果構文が成立するには四つの条件すべてを満たす必要がある。以下に示す。

・変化主体、結果状態がそろって生起している。(3)の通り、どちらか一方が欠けても非文で

ある。

・話者が行為と結果状態の間に十分なCAUSE関係を見いだせる。

・結果状態を表す述語が限定的かつ変化の終点を表す。

・結果状態を表す述語が変化主体に本来的に備わっている属性とは異なる状態を表す。

 

〇使役移動構文

 

(4) <行為>CAUSE<変化><位置変化の結果状態>

 

使役移動構文とは(4)のような行為連鎖を含む。具体的には(5)aのように変化主体が変化を加えられることで別の位置に移動する構文である。

(5) a. Frank sneezed the tissue off the table.

  *b. Frank belched the tissue off the table.

 

使役移動構文が成立する条件は結果構文の成立条件に加えて一つ。

・結果の述語が位置の変化の終点を表す。

(5)bは行為と結果状態の間に十分なCAUSE関係が見いだせないため非文である。

 

Time-away構文

 

(6) <行為>CAUSE<変化><結果状態=away

 

Time-away構文は(6)のような行為連鎖を含む。Time-away構文が成立する条件は補語構文の成立条件に加えて二つある。

・行為にあたる動詞が自動詞である。

・変化主体が時間を示す、時間的縛りを伴う表現である。

 

(7) * John danced the time away.

 

(7)は二つ目の成立条件を満たさないため非文である。

 

〇位置変化、状態変化を伴うその他の構文

 

(8) <行為>INITIATE<変化><結果状態>

 

位置的変化、状態変化を伴う文でGoldbergのいう力的ダイナミック動詞allow, let, free, releaseや援助を示す動詞群help, assist, guide, show, walkが用いられた構文は(8)のような行為連鎖を含む。これまで扱った構文の行為連鎖でCAUSEとなっているところが今回はINITIATEとなっている。

 

(9) a. Sam let Bill into the room.

   b. Sam allowed Bob out of the room.

 

(9)aでは行為が変化主体に関与し続けながら物理的に移動させているが、(9)bでは行為と結果状態に直接的なCAUSE関係を見いだせない。行為は結果状態を引き起こすきっかけをつくっているのでINTIATE関係と定義する。この点において使役移動構文と差別化できる。

 

英語表現学習への応用

結果構文の生産性に着目した英語表現指導のあり方を示す。

@    行為連鎖を表すイメージ図の中の<変化><結果状態>を表す部分に注目し、

AB(結果的終着状態)という関係を構築させる。はじめに(10)の例のようなものを学習者に創り出させる。

(10) 

変化主体

結果状態

the hangover

off

the napkin

off the table

the morning

away

the boy

awake

himself

blue in the face

 

A    次に(12)のように結果状態をもたらした行為をSVの形で挿入させる。このとき(11)のようなイメージを意識して行う。このように段階別に指導するなかで、学習者は結果構文、及び行為連鎖を共有する各種構文を利用した文を生成できるようになる。

(11)

 

 

 

S+V(行為)

変化主体

結果状態

the hangover

off

the napkin

off the table

the morning

away

the boy

awake

himself

blue in the face

 

(12)

 

S+V(行為)

変化主体

結果状態

I slept

the hangover

off

I sneezed

the napkin

off the table

I knitted

the morning

away

I shook

the boy

awake

I talked

himself

blue in the face

 

B    学習者は許容されない文を過剰生成すると思われる。

容認性は二種類に分けられる。

・英語母語話者の間で判断が分かれる場合

・完全に非文となる場合

それぞれの場合に対する指導法

・人によっては容認されない危険性があることを伝える。

・出来事事象の連続性に注意を向けさせる。先行する動作が結果的終着状態の直接的な要因

またはきっかけになっていなければ非文。

 

おわりに

上記の方法を提示した学生は平均して提示しなかった学生の三分の一以下の時間で文を創り出すことができた。詳しい統計的分析は別稿で示すが、その結果によって、文型に基づいて文構成パターンを認識するトップダウン式よりも、構文の基本的意味関係を示したイメージ図を理解しそれに従ってボトムアップ式に文を作る方が容易である。ということが証明された。

 

ディスカッションポイント

・容認性について微妙な文についての指導法があいまいにしか示されていない。具体的にはどう指導すべきか。

・位置変化、状態変化を伴うその他の構文をひとつにまとめて説明するのは無理があるのではないか。

 

リアクション

・教師に言語学の正確な知識があることが前提である。

・学習者が生産した文が非文かどうかをどう判断するのか。