Katagiri. K. (1999) Evaluation of L2 Speaking: JTEs versus AETs ARELE : annual review of English language education in Japan 10, 93-102, 1999-08, 22, 361-376.

 

1. Introduction

・本研究では、日本人英語教師(以下、JTE)と外国人助手英語教師(以下、AET)が学習者(日本人中高生)のスピーキング活動に対する評価を行う際に影響する要素を特定する。また、英語教師及び英語のテストの採点者に向けて参考になるような情報を導き出すためにその両者の要素を比較する。

Nakamura(1992)における質問紙を用いた先行研究では、主観的な評価基準としてJTEが「内容」、「イントネーション」、「語彙の運用」の順に重要としたのに対し、NET(英語母語教師)は「流暢さ」、「論理的思考力」、「内容」の順に重要としたと述べられている。しかし、両者の主観的な評価基準は必ずしも実際の評価行為を反映しているものではない。Hadden(1991)は、Nakamura(1992)と同様に質問紙を使って、英語を母語とするESL教師と英語を母語とする一般人の両者の主観的な評価基準の違いを調査した。また、Chalhoub-Deville(1995)では、アメリカのESL教師とアメリカの一般人とアラビア語を母語とするレバノンの一般人との間で主観的な評価の実際の運用についての調査がされた。しかし、JTEAETの実際の評価を比較した研究の例は少ない。

L2のスピーキングの実際の評価における方法論としてobjective quantifiable approachを実用化している研究もあるが、L2のスピーキングの熟達度を評価する際に影響する要素の特定を行っている研究はない。

 

objective quantifiable approach (variable) 18種類の評価基準を用い、スピーキングテスト受験者の発話を文字に起こし、転写されたテキストをもとに評価する方法

subjective quantifiable approach (variable) JTEAETがスピーキングテスト受験者の発話を聞いて全体的に評価を下す方法

 

2. Research Design

・調査対象は授業でEnglish Speaking Society(ESS)に取り組んでいる18歳から25歳までの東京学芸大学生15人。筆者の主観的な判断によれば、参加者の英語のスピーキングの熟達度は中程度および平均的な日本人大学生のものよりはるかに高いものであった。

・生徒は一人ずつ部屋に呼び出され、日本人になじみのある状況設定の短いストーリーを渡され5分間で読み、ニュースキャスターになったつもりで230秒の持ち時間内にビデオカメラに向かって英語で説明することを求められる。

・参加者には「1回目の録音は練習で、2回目の録音が本番」と伝えてあるが、この研究では1回目の録音を取り扱う。

・参加者の平均的なスピーチ時間は146秒で、平均的な振れ幅は20.5秒だった。

 

・評価者は、19人のJTEたち(中学校教師6人と高校教師9人と大学教師4人)と7人のAETたち。なお、ほとんどのJTEは実際に自分の授業でスピーキングを取り扱っていなかった。

・評価者は100点満点で参加者の英語スピーキン力を総括的に評価する。

 

・参加者のスピーキングは文字に起こされ、以下の18の項目で分析された。

(1) 総語数

発話から余分と思われる要素を取り除いていない

(2) 異なり語数(type)

発話から余分と思われる要素を取り除いている

(3) 述べ語数(token)

発話から余分と思われる要素を取り除いている

(4) type-token ratio

(5) speech rate(WPM)

      発話から余分と思われる要素を取り除いていない

(6) speech rate(WPM)

      発話から余分と思われる要素を取り除いている

(7) T-unitの長さ

(8) T-unitあたりのS-nodes

(9) 100語あたりの間の数

(10) 100語あたりの反復数

(11) 100語あたりの言い直しの数

(12) 100語あたりの遊び言葉の数

(13) 100語あたりの間と反復と言い直しの数の合計

(14) 100語あたりの間と反復と言い直しと遊び言葉の数の合計

(15) 100語あたりの発音間違いの数

(16) 100語あたりのスピーチの内容全体に関係する誤りの数

(17) 100語あたりの局所的な誤りの数

(18) 100語あたりのスピーチの内容全体に関係する誤りと局所的な誤りの数の合計

・上記18項目を通し番号順にV1V18とする。

 

3. Results and Discussion

JTEのスコアの平均は66.4AETのスコアの平均は65.5で、平均的な振れ幅はそれぞれ16.118.0だった。

・この実験では評価者が各参加者につき録音と評価を1度行うだけだったので評価者間信頼性は計測されなかったが、評価者間信頼性を保証する指標として、評価者は10人採点をした後に参加者Cのスピーチを再び録音し採点している。JTEAETの平均的な採点の振れ幅は誤差の範囲であると考えられるので、信頼性は充分だったものと思われる。

JTEの評価では、評価者の半数以上の評価にV5V6V17V13V9V12の順に強く相関がみられた。AETの評価では、評価者の半数以上の評価にV5V6V17の順に強く相関がみられた。このことから、JTEAETも、評価者が最も重要と考える要素と2番目に重要と考える要素を同じように考えている可能性が高いということが分かる。

 

4. Implications and Future Research

4.1 Pedagogical Implications

・実験の結果から、「スピーキングの評価は評価者によって異なるが複数の評価者の評価を集めれば一定の傾向が現れる」ということが分かった。したがって、スピーキングの評価に信頼性を持たせるためには複数の評価者が採点した方がよいといえる。また、JTEAETも評価者が最も重要と考える要素と2番目に重要と考える要素を同様に考えている可能性が高いため、スピーキングの評価で必要な複数の評価者はJTEのみから選んでもよいといえる。

4.2 For Future Research

・英語スピーキングの熟達度が低い学習者に対する実験、今回のものとはタスクや題材が異なる実験、今回のものとは採点方法(5段階評価、10段階評価など)や分析手法が異なる実験も行われるべきである。

・相関関係の因果関係が保証されていないので、本当にspeech rateが向上すれば評価の点数は伸びるのかについても精査が必要である。

McNamara(1990)などで強調されているように、評価者の主観的な感覚がどのように評価に影響するのかについても研究する必要がある。

 

5. Conclusion

JTEAETも、英語スピーキングの評価の際にspeech rateを最も重要な基準とし、局所的な誤りを2番目に重要な基準とした。JETの評価とAETの評価との間で目立った差異は見られなかった。

 

 

佐藤史郎(2011)『中等教育における英語のスピーキング能力育成と評価のあり方』跡見学園女子大学文学部紀要 46, 2011-03-15, A17-23

 

1. はじめに

・日本と世界のグローバル化におよび、中等教育で英語のスピーキング能力を育成することの重要性が高まっている。ここでは、中等教育の英語の授業の中でスピーキング能力が育成されるような枠組みや方法、そしてその評価方法について論じる。

・中等教育を終えた日本人大学生に対し、ほかの3技能との比較の中でスピーキング能力についてどのように考えているか、また実際のスピーキングにはどのような不安や弱点があるのかを調査した。

 

2. 話す能力向上に対する日本人学習者の意欲

・土屋ほか(2000)の中学生に対して行った調査や「一般英語」教育実態調査研究会(1985)での大学生・短大生に対して行った調査で、日本人EFL学習者の多くが「英語を話せるようになりたい」という願望を持っていることが明らかにされた。このスピーキングの意欲の割合はほかの3技能の意欲の割合と比べても突出したものであった。

・しかし、大学英語研究学会九州・沖縄プロジェクトチーム(1997)の調査では、英語スピーキングに関連する能力のすべての分野において日本の学生のスピーキング能力は中国や韓国の学生のスピーキング能力より低いという現実も示された。

 

3. 中等教育におけるスピーキング能力育成のポイントと方法

・広野(2000)は、日本人大学生が英語スピーキングを不得意に感じている要因として以下の6つを挙げた。

(1) 英語の発音に自信がない

(2) 適当な表現がすぐに思いつかない

(3) 文法を意識しすぎる

(4) 誤りを恐れる

(5) その場にふさわしい表現が思い浮かばず、適切な反応ができない

(6) いつも日本語で考えたものを翻訳しようとしており、英語で考えることができない

・上記(1)(3)(4)にみられるように、日本人は自分で自分に精神的なストレスをかけやすい傾向があり、それが原因でスピーキング能力が向上しづらいのではないかと思われる。

・英語をはじめとする日本の教育は受験を意識した減点教育になっており、そのせいで日本人学生は文法などの誤りに対する恐れを抱きやすくなっているといえるだろう。

・オーラル・コミュニケーションの教育現場では、学習者の誤りを恐れず積極的に発話する姿勢を育むために、誤解を生じさせる場合や相手に不快感を与える場合のほかは、文法面の誤りに対する指摘を最小限にとどめるのがよいだろう。

・上記(2)(5)に関しては、授業の現場では、話したい内容に対応する多様な表現を身につける積極的な態度を持ち続けることの重要性を説き、これを可能にするような授業形態の工夫が必要である。

 

4. スピーキング能力をいっそう高めるための言語活動

4.1 一分間スピーチ

・一分間といえども人前で英語を話すためには相応の準備が要る。一分間スピーチは、そのことを学習者に理解させるよい機会になる。

(1)テーマを決め、(2)既有の経験や知識をもとに日本語で構成を練り、(3)自分の知っている構文や語彙の範囲で英文のスピーチ原稿を作る、という段取りで活動させる。これらの作業を通し、学習者は日本語と英語の表現の違いに気づくことができる。

・構成、構文、語彙、発音などの様々な観点からの総合的な指導が必要であるため、可能であればALTにも積極的に関与・指導してもらうのがよい。それによりALTの存在意義を高めるのと同時に、学習者らのモチベーションの維持、向上がみこまれる。

・スピーチの間は、それを聞いている学習者らにスピーチの審査・評価をさせるのが望ましい。それにより聞き手の学習者がより真剣にスピーチを聞くようになり、また自分自身の発表の際に役立つ指針が得られる場合がある。

 

4.2 スキットによる創作活動

・既習の構文を使って、ペア同士でスキットを作らせる言語活動を行う。紙に会話内容を書かせ発表させるタイプのものや、数行で収まる範囲のスキットを暗記させて発表させるタイプのものまでさまざまである。

・既習の構文と既習の語彙を使ってスキットを作る行為は、スピーキングの場面で既習の知識を使って新たな表現ができるようになるための練習をしていることになるため、非常に貴重なチャンスである。

 

5. 中等教育におけるスピーキング能力の測定及び評価のあり方

・英語のスピーキング技能を実践的な運用までに高めるためには、音声、語彙、文法面の知識を習得したうえで、未知のコンテクストの中での練習を繰り返す必要がある。したがって教育現場では、教師が、生徒が既習の知識を使って未知のコンテクストの中で自分が伝えたい内容を表現できるまでに能力が定着しているかをいくつもの活動の中で定期的かつ継続的に検証することが重要である。

・既習の知識がスピーキング能力としてどのように定着してきているかを評価するための具体的な方法の例は以下のとおりである。

5.1 スピーキング能力の基礎を養う練習の中での評価

A. 既習の文型・構文を使って新しい文を即座に言わせる

B. 既習の文型・構文を使ってPupil-pupil Dialogueを行わせる

C. 既習の文型を使ってスキットを作成するペア活動を行わせ、すべてのペアに発表させる。

5.2 積極的にコミュニケーションを図る態度とスピーキング能力をいっそう育てるための練習の中での評価

D. ペアを組ませ、コミュニケーションの中で問いかけられた側に付加的説明をさせる。問いかける側は多様な情報を引き出すための質問を行う。ペアを変えてその活動を繰り返す。

E. 絵を見せて、その絵からできるだけ多くの場面を想定して英語で説明させる。

 

6. おわりに

・多くを語る必要のない文化で育ってきた日本人が、言語体系の全く異なる言語を用いたコミュニケーションを行うのは難しいことだが、その日本人の英語によるコミュニケーション能力という弱点が日本の天文学的な損失を招いてきたであろうことを考えれば、中等教育からの英語スピーキング能力育成は最重要課題といえるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディスカッション・ポイント

 

・前者の論文に参加したJTEのほとんどが「実際に自分の授業でスピーキングを取り扱っていなかった」が、これは今回の実験を行う上で妥当な条件だったのか。JTEを「実際に自分の授業でスピーキングを扱ったことのあるJTE」と「実際に自分の授業でスピーキングを扱ったことのないJTE」に分けて実験を行った場合、両者の評価にどのような傾向が現れるか。

 

・後者の論文において、「一分間スピーチを行う際に聞き手の学習者たちにスピーチを評価させる」ことが提案されているが、その「聞き手の学習者による評価」は「発表する側の学習者に対して教師が行う評価」にどのように結び付けたらよいのか。

 

 

考察

 

・今回、「英語スピーキング」と「評価」という2つのキーワードで、「大学生のスピーキング能力にたいするJTEAETの評価の比較」、「中等教育におけるスピーキング能力育成とその評価」という性質の異なる2つの文献を読んだが、前者は「アカデミックなスピーキング」の性質が、後者は「日常会話のスピーキング」の性質がそれぞれ比較的強いと思われる。

 

・前者の論文では、WPMや遊び言葉の数、間なども考慮して客観的な評価を行っていた。参加者のスピーキング熟達度が高かったこともあり、この評価方法は参加者が将来的にアカデミックなスピーキングに参与することを想定している側面が強いと思われる。対して後者の論文では、細かな文法・語彙の間違いを恐れずに(また評価する側もその点に寛容になって)、基礎的なコミュニケーション能力を磨く狙いがあった。

 

・授業でもふれられたように、アカデミックなスピーキング能力と日常会話のスピーキング能力は密接には関係しづらい。中等教育では日常会話レベルのスピーキング活動を中心にコミュニケーション能力の基礎を養い、大学では受験勉強で培ったアカデミックな文章に対する読解力と日常会話レベルのスピーキング力を織り交ぜてアカデミックなスピーキング力を養成する、という大局的な教育がふさわしいと思われる。

 

speech rateを向上させ、間の数や言い直しの数を減らすためには、中等教育での「間違いに対する恐怖心を克服する」、「自分の言いたいことを既習の知識で繰り出せるようになる」という目標を達成することが必要である。この点からも、前述の大局的な教育の流れがふさわしいと感じられる。

 

・また、前者の論文での英語スピーキングの評価においてJTEAETの間に大きな差異が認められなかったという点と、後者の論文でのALTの活動に対する提案から、ほかの3技能の評価になれば話は別だが、少なくともスピーキング活動の監督と評価においては、JTEがクラス全体を監督したうえで学習者個人に対する最終的な評価を下し、AET(ALT)が部分的に学習者の活動に対する助言を行う、という授業形態が適切だと思われる。