論文1

英語教育における「4技能の統合」を目指して―”Skill-oriented” から”Content-oriented” へ―

早瀬 博範 (2015) 佐賀大学教育実践研究 第33号 pp.119-130

 

はじめに

現代の英語教育においては、「読む」「書く」「聞く」「話す」といった、英語の基礎である4技能を統合した学習が求められている。現在の中学校・高等学校における学習指導要領では、これら4技能の「総合的な育成」と「統合的な育成」について明記しており、その中でも「総合的な育成」を重視して「統合的な指導」をするように記されている。

この論文では「4技能の統合」に焦点を当て、中学校や高等学校での英語指導における留意点などに対する理論的考察を行ったものである。

 

学習指導要領の改訂

中学校における学習指導要領では「4技能の総合的な育成」を強く打ち出している。その理由として、小学校での外国語活動の導入があげられる。

従来では中学校段階で行ってきたことを小学校段階で行うようになり、活動や学習することの幅が広がったと考えられている。その小学校で整えた素地の上に4技能をバランスよく育成することが求められている。

一方、高校の学習指導要領では科目名の変更を含めた改訂が行われた。言語学習の観点から「表現力の育成」を重視し、「話すこと」「書くこと」である ”productive skill” の育成を行う方針を明らかにした。

これに加えて、従来の英語教育の問題点として提示された「4技能の指導にける平等性」を再考することにもなった。

 

「総合的」と「統合的」の違い

これまで「総合的」と「統合的」という観点から見てきたが、その区別についても解説している。「総合的」とは、4つの技能全ての能力をさし、全体として能力の向上を図ることが求められている。一方、「統合的」は4つの技能が独立して存在すると捉えずに連結関係を結んで関連させて指導をすることを示している。

2つの違いを説明したが、著者は「総合的な指導を経て初めて統合的な指導が実現する」と主張している。

 

「総合的」                        「統合的」

 

総合的な指導

総合的な指導という観点からすると4技能の中に偏りが発生した場合、大きな目標である「コミュニケーション育成」はなしえないものである。

これらを改めて強調している背景には、これまでの日本における英語教育で必要とされてことを実践していなかったことがある。

4技能の統合

これまでは科目名に技能の名前が入っていたように、個々の技能に特化した授業が行われていた。

また、技能習得に重点を置く場合、学んでいることの本質を見失う可能性もある。

理想的な統合

14技能のうち2つの技能を組み合わせた指導

2.内容理解を通して他の2つの技能についても有効的に連携させる

用いる教材は1教材に対して1技能ではなく、他の技能とも共同で使用することで教材の有効活用にもつながると考えられている

また、2つを合わせた言語学習の目標を4技能の習得とせずに内容理解を目的とすることがふさわしいとされている

Clil – Content and Language Integrated Learining

教室で学んだ言語技能を、学ぶと同時に使う学習方法で、近年ヨーロッパで話題になっている

言語習得にとどまらない活動目的を立ててより高次な課題に対して、統合的な取り組みを行うことができる。

しかし、教員の専門的知識や内容に対する深い理解が必要であったり、内容理解と言語習得の両側面に対する指導計画の必要性であったりと、課題は山積している。

論文

Teaching English to the Higher Grades: A practical Approach at Private Primary School

Katsuko KATO (2005) ARELE: annual review of English language education in Japan 16, 231-240, 2005-03

 

概要

この論文は、読み書き活動が私立小学校高学年の生徒に対する英語教育にどのように受容されたか、また4技能の統合的学習がクラスに与えた影響についてまとめた論文である。

多くの私立小学校では1年生のうちから英語学習を始めるとされ、能力の効果的な向上を図るために、カリキュラムは4つのスキルの成長過程に沿って構成される。特に10歳から12歳の高学年次では活動に選択に関する余裕を与えることもある。これは高学年上がるに従って指導レベルに差が生じてきて指導が難しいものとなるなど、問題が生じやすいためである。特に帰国子女である場合は、中程度のレベル教育では飽きてしまうことがある。

Yamauchi (2002) では神戸・阪神エリアにて、小学校高学年における英語指導の難しさについて強調している。

・読み書き能力が一般クラスにおいてどのような好影響を及ぼしているのか

・低学年において聞く能力と話す能力に進歩はあるのか

4技能の統合は上位クラスの英語学習に対するモチベーションや能力をどのように高めるのか

これらの事柄が共通認識として確かなのかを調査している。

 

調査概要

愛知県の小学校において、10歳から12(小学5年、6)112名の生徒に対して調査を行った。生徒らは40分の英語の授業(TT)を週2回、日本人と外国人教員のTTによって受けている。

 

読書前活動

この実験は1年を通して行われた。

1学期には、教員が複数回にわたって多くのジェスチャーなどを交えて”Poppet” の物語を生徒に伝えた。表情豊かで非言語的な伝え方は生徒の物語への興味を引き付け、内容理解を助ける役割を担った。

2学期には実際に”Poppet” を生徒が実演することとなり、生徒は自然と英語でどのように言うのかや身振り手振りをどのように効果的に用いるのかなどを考えるようになった。

3学期には実際に実演を行った。恥ずかしがることや不安に思うこともなく、音響や意味などで描かれたシンボルを連想させようとしていた。

 

読み書き活動

高レベルな子たちは言語を言語としてとらえ始めた。使用する単語をさらに探したり意味を調べたりする取り組みを行い、さらにそれらの語と語の違いや定義などをできるように学習していた。

その中で母音と子音の発音の難しさに気づく生徒も見受けられた。これらは低学年時に音と表彰の関係を「音声学」として学んでいるからである。

一般的に英語の導入の際には「聞くこと」「話すこと」が先導して行われ、ほかの二つは優先順位が低くなる。また、その際に「写真」が重要な役割を担っており、これらはPhillips (1993) でも解説されている。高学年に対しては音楽に合わせて状況描写を行うという活動がある。音楽を練習して歌詞や言葉に合わせた絵をかき起こし、それに対して説明文を付けるという活動である。

 

これに関連してIT教育の一環として、これらの活動をコンピューターを用いて行うという取り組みもある。

これは身体的活動に飽きてしまった生徒たちに対して興味を引く有効な手段である。特に書くことについての指導の際には効果を発揮する。

また、書くことに対して興味を持った生徒に対してはサインなどの創作活動も効果的であるとされている。

 

まとめ

生徒の学齢や特徴は活動に対して決定的な側面を持つ。特に小学校低学年の生徒は英語学習に対してあらゆる抑制や阻害要素がないまま、純粋なモチベーションで臨むことができる。

しかし、中学校や高校などと異なり学年の幅があることから指導内容にも差が出やすくなり、教員の適応における問題が生じやすい。

また、好奇心旺盛な時期だからこそ他国の文化などにも触れさせることで理解を深めることにもなる。必要に応じて4つの技能を統合させた取り組み方を考える必要もある。

小学校高学年での調査は一側面でしかないが、今後の指導に対するアイデアの創出に貢献できた。

論文に対する考察

【論文1

学習指導要領の改訂をめぐる問題として、英語教育の現場に則したものではないことがあげられると考える。これらを通して

1.学習指導要領が、現場の英語教育の実態に則していないものになっており、理想と現実の乖離が発生している

2.現場の教員らが学習指導要領に書かれている内容を理解しないままに指導案などを作成している

という2つの事象が考えられる。

双方とも根本的な要因としては、近年のグローバル化などに関連する英語教育への要求の高まりがあると考える。目覚ましい進歩に対応できる教師が少ないことで、教師力や技量の低下が叫ばれると考える。

しかし、「4技能の向上」については永続的に英語教師が追究するべき課題である。そのためにも様々な指導法に目を向け、組み合わせるなどしながらタスク統合に対する研究を進めていくことが望ましい。

また、個人的にClil などを通して、国語として英語を教えることと外国語として英語を教えることにいかなる差異があるのか、興味を持った。

 

【論文2

小学校という初等教育において4つの技能を統合させながら英語教育を行うのはとても難しいと感じた。

初等教育においてはまず英語に興味を持たせることから始めなければならず、4つの技能の統合にまで配慮できないのではないだろうか。

スキル統合を念頭に置くよりも、小学生が過ごす生活に即した取り組みにいかに近づけて興味やモチベーションを維持しながら学習させるかを研究するべきだと考えた。

しかし、その根本では各スキルにおける目標などを立てるとともに、いかに連携を取ることでより効果的な教育をできるかを考えることになるのだろうと感じた。

小学生は純粋で好奇心旺盛であり、何に対してもまっすぐに取り組む長所を持つ一方で、飽きやすいことや高度な知識を与えることないなど、難点も多々ある。

これらはこれから社会に出るにあたっての小学校における生活指導などにおいても連携を取ることができるのではないかと考えた。

 

これらを通してスキル統合の重要性と有効性について理解することができた。しかし課題は山積しており、現在の状況では効果的な英語教育の実現とまではいかないと考える。

外的要因や内的要因など、様々な面からスキル統合について、これからも考えていきたい。