今尾康裕(2014)クリティカルライティングとピアフィードバックが及ぼすライティングへの影響 言語文化研究.41.P.7-P.26

 

1.   初めに

労力などの観点から少人数でのライティング指導が行われているのは一部の大学だけである。その中でクリティカルリーディングとピアフィードバックを組み合わせ、深く読むために書くという活動を取り入れつつ、直接のライティング指導を最小限にとどめた授業を展開した。

 

2.   先行研究

リーディング活動がライティング能力の向上に効果があり、ライティングの活動ではフィードバックが重要であるとされている。この中で特に注目されているのがピアフィードバックであり、様々な効果が指摘されている。

しかし、効果のあるピアフィードバックを行うためには学習者が書かれた文章を批評的に読んで問題点を指摘できるようになる必要がある。

この論文では指標としてメタ談話指標を用いる。その中でも接続語と伝達動詞に着目した研究が多い。

 

リサーチクエスチョンを以下のように設定した

1.    異なるライティングタスクにおいてその違いはメタ談話指標に現れるのか。また、書いた文章の位置づけは異なるのか。

2.    ピアフィードバックとクリティカルリーディングを中心とした授業を経て学習者の書いた文章の変化がメタ談話指標に現れるのか。また変化があった場合どのように位置づけが変わるのか

 

3.   方法

参加者は日本人大学生70名。

1回の授業で文章を批評的に読み、それについての意見を英文で書き、それについてのピアフィードバックを毎回の課題とした。授業は9回行った。

二種類の英文(INNALE, GREpre, GREpost)を計三回読ませ、GREの英文については書き直しをさせた(GRErev

これらについて平均語数の延びを測定した。

コレスポンデンス分析(コーパスとの一致度を測定する)を用いて、対象コーパス6つとの比較を行った。

 

4.   結果

GREpreからGREpostでは平均語数が増えているが、平均文数では変化がない。

GREpostからGRErevでは平均文数が増えているが、一文あたりの語数は増えていない。

・メタ談話指標についてはいずれも大きな差はなかった

・コレスポンデンス分析の結果、GREpreは比較的話し言葉コーパスに近い位置づけであり、post, revの順でよりフォーマルな書き言葉に近い位置づけとなっている。

 

5.   考察

RQ1

GREpreでは伝達動詞の使用頻度が少なかったが、これは、文章を引用して書くという訓練を受けていない学習者にとって、このタスクでは文章を読む負担が増えたというだけで書かれた文章にも大きな違いは現れなかった。

 

RQ2

伝達動詞に関してはpreからpostで使用頻度が増えている。しかし、語数自体も増えているため、相対的な頻度としてはあまり変わらなかった。

接続語に関しては相対頻度が減少している。

 

6.   結論

結果から、どちらも使用頻度は増えているので、ある程度授業の効果は見られたと判断している。特に伝達動詞において進歩がみられたのはピアフィードバックの効果である。接続語はピアフィードバックだけでは習得しにくいため、指導、練習も行うべきである。

Huahui Zhao(2010). Investigating learner’s use and understanding of peer and teacher feedback on writing: A comparative study in a Chinese English writing classroom Assessing Writing 15 (2010) 3-17

 

導入

l  多くの研究ではピアフィードバック(PF)より先生によるフィードバック(TF)のほうが効果があるという結果が出ている。

l  しかし、なぜこのようなフィードバックが与えられたか完全に理解していないまま、先生によるフィードバックを使用している場合が存在する。

 

本研究ではフィードバックの理解と使用を区別し以下のようなRQを設定した。

1.修正したものではどちらのフィードバックをより多く使用しているか

2.どちらがよりよく理解しているか

3.どちらのフィードバックを使うかにおいての意思決定のなかでどの要素が影響を与えているか

 

方法

l  PFは通常授業で行われ、前半は先生が前回の課題を返却し、生徒がわからなかった点や、間違いが多かった点を説明、後半は二人一組になり、フィードバックと、議論を行い、最初の原稿にフィードバックを加えたものを提出させ、それを分析する。その後、TFを授業外で行い、わからなかった点を話させた。

l  刺激再生法(SPI)を用い、フィードバックでわからなかった点などを質問し、参加者がフィードバックを理解していたかについて調査した。

l  また、実験の最後に参加者にRQ3についてのインタビューを行った。

 

結果

l  TFを使用した生徒は74%、PFを使用した生徒は46%であった。

l  PFを使用した83%の生徒はフィードバックを完全に理解していたが、TFを使用した生徒のうち、完全に理解していたのは58%にとどまった。

l  インタビューの結果、フィードバックの特性の違いとPFでのL1使用について、多くの言及があった

TFは要請として受け取り、従わなければならないが、PFは提案として受け取り、拒否することもできる。

TFは受動的になってしまうがPFの場合は相互行為という側面も含んでいるため、能動的に参加できる。

→ピアとの相互行為の中ではL1を使用するが、チューターや先生は英語を使用するため、うまく議論できなかった。

 

議論と結論

l  研究の結果、彼らの書き直しの原稿ではPFよりもTFを多く用いることが有意に示された。

 

l  PF使用者のほうがその意味を理解して使用していた。

これはTFより重要に思われることと、PFは相互理解が容易であることが理由である。

学習者が与えられたフィードバックを理解するということは前提条件である。

先生は学習者のフィードバックの理解を促進させるようタスクをつくりあげなければならない

 

l  完全な理解なしでTFを用いていたことが明らかになった。

これはもしPFTF、同じ量生徒が使用した場合はPFのほうがより多くの知識を獲得するということである。

学習者がそのフィードバックを使用している時、理解されていると判断されているが、単に外部の形式を翻訳しただけでは言語能力の発達につながらない

L1をどの程度利用すれば学習者のフィードバックの理解を最大化できるかについて考える必要がある。

 

l  先生のフィードバックとピアフィードバックの価値を単に書き直した原稿の利用頻度から比較するのは問題である。

 


 

◎論文①に関する考察

  同じ英文を二度読んでいることになるが、それが影響していることはないのだろうか。

論文では、毎回の授業で同様の課題を扱っているため影響は少ないとあったが、覚えている生徒も少なからず存在しているだろう。

  コレスポンデンス分析の必要性が感じられなかった。私自身うまく理解できなかったということも大きいが、筆者も変化がうまくとらえきれなかったと述べている。

  その結果、曖昧な結論で締められているが、伝達動詞、接続詞の使用法については先生がある程度使用の見本を見せてからではないと、生徒にとっても使用法がわからないのではないだろうか。

 

 

◎論文②に関しての考察

  外国語だけではなく、他の授業も先生主体になりやすいが、先生によるフィードバックが要請の意味を持ってしまうのは日本でも同じである。特に日本ではそれが顕著に表れており、この状況を変えるのはかなり難しい。しかし、先生のフィードバックを理解させることは可能であるはずなので、先生側は生徒に対し、理解しているかよく観察する必要があるだろう。

  ピアフィードバックを使用した生徒が少なかったが、その生徒は理解度が高かったという点で、ピアフィードバックは有用であり、組み合わせることでより良い効果を出すことができるだろう。

  しかし論文②のような方法を続けていくことは先生にもかなりの負担になってしまうことから、先生の負担も考慮する必要がある。

 

 

◎全体を通して

  フィードバックにどの程度先生が関与すべきかについては、全く関わらないというのは生徒に良い影響を及ぼすことはないであろう。

かといって過度にフィードバックに関与しすぎると、生徒の自主性を損なったり、ピアフィードバックの効果が十分に得られないという事態に陥るため、ピアフィードバックと先生によるフィードバックのバランスを考える必要がある。

  授業におけるL1L2のバランスについても言及されていたが、フィードバックをどの言語で行うかという点でも結果に違いが出てくるだろう。