Iimura, H. (2007). The Listening Process: Effects of Question Types and Repetition. Language Education and Technology, 44, pp.75-85

 

1. はじめに

 実証研究によって、repetition(反復、繰り返すこと)でリスニングの理解力を高めるられることが知られている。しかし、聞き手(生徒)が言語学的情報をどのように理解するのかについてはまだほとんど知られていない。

 そこで、トップダウン処理が行われる包括的問題(global question, GQ)とボトムアップ処理が行われる局所的問題(local question, LQ)を用いつつ、repetitionの要素を加えた調査を行った。

 

2. 先行研究

 □熟達度と聴解処理の関係:熟達度の低い聞き手について、2つの異なる見解

  ・ Bacon (1992), Conrad (1985), O'Malley et al' (1989)

     ┗熟達度の低い聞き手は、テキストから情報を抽出することに夢中であるため、ボトムアップ

      処理に大きく頼っている。

   Tsui & Fullilove (1998), Wolff (1987)

      ┗熟達度の低い聞き手は、言語学的能力が不足しているため、トップダウン処理を用いる傾向

           がある。

   □以下、聴解処理に関し、参考になる研究

  ・ Shohamy & Inbar (1991)

            ┗聞き手はGQsよりLQsの方がよく理解できている結果が出たことから、トップダウン処理

      よりもボトムアップ処理の方がよく用いられることが示唆された。

  ・ Hansen & Jensen (1994), Osada (2001)

            ┗どの熟達度においてもLQsの得点の方がGQsの得点よりも高く、特にそれは熟達度の低い

      聞き手において顕著に見られたことから、熟達度が低いほどGQsにおける得点が低くなる

      ということが示唆された。

 

3. リサーチ・クエスチョン

 RQ1:どの熟達度グループにおいても、repetitionGQsLQs両方の得点に影響するか。

 RQ21回聞いた時と2回聞いた時の両方で、各熟達度グループはどちらの問題においてより高得

    点をとれるか。

 RQ3:どの熟達度グループが最もrepetitionの影響を受けるか。

 

4. 方法

4.1 協力者

・ 高校2年生の日本人165名。

・ リスニングにおける熟達度によって3つのグループに分けられた。

 

4.2 マテリアル

・ 高校1年生レベルのSTEPテストから選んだ、各50語ほどからなるモノローグ10個を使用。

・ 各モノローグに対しGQsLQsの設問があり、毎回GQsLQsの順番で流れる。

・ 英語母語話者の女性の声で録音されている。

 

4.3 手順

① モノローグ(1820秒)      ④ モノローグをもう一度再生(1820秒)

GQs / 回答を書く(10秒)     ⑤ GQsをもう一度再生 / 回答を書く(10秒)

LQs / 回答を書く(10秒)     ⑥ LQsをもう一度再生 / 回答を書く(10秒)

 

1回目の回答は用紙の表面に書き、2回目の回答は用紙の裏面に書く。

※ 音声が流れている間、メモをとることができる。

※ 採点は、正誤のみで行われる。

 

4.4 データ分析

3×2×2ANOVAにかけて分析する。

 

5. 結果・考察

□ どの熟達度グループにおいても、repetitionを行った方が得点が高くなった。(→RQ1

  ⇒ 熟達度に関係なく、repetitionGQsLQs両方に良い効果をもたらすと言える。

 

1回聞いた時、どの熟達度グループにおいても、GQsの方がLQsより高得点だった。(→RQ2

2回聞いた時、熟達度が高いグループと低いグループにおいてはGQsの方がLQsよりもわずかに

   高得点で、熟達度が真ん中のグループのみGQsLQsがほぼ同じ得点だった。(→RQ2

※ しかし、ANOVAにかけても、問題の種類による得点の差は有意ではなく、問題の種類と熟達度の

  間に相互作用は観測されなかった。

  ⇒ 協力者はrepetitionがあろうがなかろうが、熟達度に関係なくGQsLQsで同様の得点を得

      と言える。

 

□ 熟達度の高いグループが最もrepetitionの影響を受けて得点が高くなり、1repetitionの影響を

   受けなかったのは熟達度の低いグループだった。(→RQ3

  ⇒ テキスト理解において、熟達度が高いほどよりrepetitionから受ける恩恵は大きくなる。

  ⇒ 熟達度によってリスニング能力向上をはかる工夫ができることが示唆された。

[工夫1] 熟達度が高い人 → 音声を聞かせる回数を減らし、より早く正確に聞き取る練習

[工夫2] 熟達度が低い人 → できる限り何度も繰り返し音声を聞かせる練習

 

 

 

In'nami Y. (2001) The Effects of Text and Task on the Listening Scores of Japanese University Students, 日本言語テスト学会研究紀要, 4, pp.56-75

 

1. はじめに

 L2研究でリスニングは第二言語習得において重要な役割を果たしていると言われていることから、リスニングは我々の生活においてとても重要だと理論的に言える。しかし、リスニング能力はテストで評価することによってしか言及されないのが現実である。したがって、本論文ではリスニングテストを通し、テキストやタスクの種類の違いによってどのような影響があるかを検証した。

 

2. リサーチ・クエスチョン

 RQ1:テキストの種類はリスニングテスト結果に影響を与えるか。

  RQ2:タスクの種類はリスニングテスト結果に影響を与えるか。

 RQ3:もしタスクの種類がリスニングテスト結果に影響を与えるのならば、各項目ではかられるリ

    スニングの副次的能力に関係するか。

 

3. 方法

3.1 協力者

・ 日本人英語学習者(大学生)79

3.2 マテリアル

   □ CELT

・ リスニング熟達度をはかるテスト。

・ 信頼性があり、協力者を熟達度によって区別するのにふさわしい難易度。

3つのセクションで50のリスニング文があり、すべて多肢選択式の問題となっている。

□ リスニングテスト

Listening to TOEFL (1989)から、長さが適切で信頼性と妥当性もあった主張文(ARG)と説明

  文(DES)という異なるジャンルの2つを選び、わかりやすいよう修正して使用。

・ どちらもモノローグで、イギリス人英語母語話者が読んだものを高音質で収録。

ARGには6問、DESには5問の設問を設け、各々4つの選択肢から選ぶ多肢選択式(MC)

   自由回答形式(OE)を用いた。

・ どのような副次的能力をはかるかを、筆者と英語母語話者であらかじめ各設問ごとに設定。

3.3 手順

3.3.1 実験手順(Table 4参照)

(1) CELTテストを実施

(2) CELTテストの成績によって、熟達度の高いグループと低いグループの2つに分ける

(3) 1週間後、ARGDESの順番でリスニングテストを行う。

  この際、グループ1MCOE、グループ2OEMCの順で回答形式が変わるようにな

  っている。(=カウンターバランスをとっている)

 

(4) そのまた1週間後、DESARGの順番でリスニングテストを行う。

  この時も、グループ1MCOE、グループ2OEMCの順で回答形式が変わるように

   なっている。(=カウンターバランスをとっている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


※ 音声は2回流れ、各質問に対し2分間の回答時間を設けた。

※ 記憶力をはかるテストではないため、メモをとることを可能にし、リスニング中、協力者た

  ちが質問を読んだり回答を書いたりすることもできるようにした。

※ 自由回答形式における回答は、日本語と英語どちらで答えてもよいことにした。

 

3.3.2 採点手順

・ 自由回答の採点基準は、筆者と英語母語話者で議論してリストを作成した。

・ 文法ミスやスペルミスは評価の対象から除外し、作成したリストにあるキーワードを含んで

  いるか否かで正誤を判断した。(中間点は与えなかった。)

3.4 データ分析

2×2(テキスト×タスク)のANOVAにかけて分析する。(→RQ1, 2

Wilcoxon Signed Ranks testによって分析する。(→RQ3

 

4. 結果・考察

ARG1問(Question 5)だけは誤答が多かったため、すべての分析から除外した。

・ リスニングテストの相関関係は、TOEFLのリーディングテストを用いるよりもCELTを用いる

  方が高いものとなった。→ 妥当性は十分あると言える。

CELTの成績によって2つのグループに分けたが、どちらも熟達度に差はなかった。

MCよりもOEの信頼性の方が高くなった。

  ⇒ より信頼性の高いテストを作りたければ、OEを選ぶことも可能である。

ARGOEの方がDESOEよりもはるかに難易度が高いことがわかった。

テキストによる影響はまったく見られなかったが、タスクによる影響は見られた。(→RQ1, 2

・ また、DESMC2OE2DESMC3OE3を除けば、タスク間で得点に大きな差異が見

   られた。(→RQ2

 

 

  ⇒ トピックをつかむ能力とキーワードをつかむ能力をはかる時、タスクによる影響が現れること

   がわかった。(→RQ3

   ◇ タスクによる影響

     ・ どちらのテキストにおいても、MCの方がOEよりも高い得点となった。

       ⇒ MCの方がOEよりも簡単なタスクだということが証明された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<考察>

Iimura, H. (2007)

Hansen & Jensen (1994)Osada (2001)によれば、熟達度が低いほどGQsにおける得点が低くな

  るとのことだったが、本論文では熟達度に関係なく、GQsLQsで同様の得点を得るという結果

   になった。むしろ本論文で行った調査ではGQsの方がLQsよりも得点が高くなっており、これは

  先行研究と大きく異なった点であると言える。Iimura (2007)はその原因として、①聞き手がボトム

   アップ処理を効果的に使えていなかったかもしれないこと、②テキストの長さが短かったことを挙

   げていた。私はさらに、本論文には記載されていなかった情報である、録音されていた音声の速さ

   や含まれていた音声言語の特徴(音の同化の有無、強調など)、そして、どの国の英語を話している

   かによっても結果は変わると考察する。日本人学生が一般的に聞きなれていると言われているアメ

   リカ英語だった場合とそうでない場合とでは、いくらスピードが普段聞いているものよりもゆっく

   りだったとしても聞き取りにくく感じるように思う。また、録音音声が女性でなく男性だった場合

   にもどのような変化が見られるか気になった。

・ モノローグも設問(GQs/LQs)も英語で音声が流れるが、解答は日本語だったのか英語だったのか

   に関する記述が本論文にはされていなかった。もし英語による記述解答形式であれば、各生徒の英

   語力(それこそ熟達度)によって、大きな差が生まれてしまうと考えられる。

 

In'nami Y. (2001)

・ 本論文においてテキストの種類の違いによる影響は生まれなかったが、主張文と説明文はどちらも

  明確には違うジャンルとは感じられないと思った。「モノローグ」という条件を変えずとも、テキス

  トのジャンルをもっと違うものにしたら違う結果が出るのかもしれない。また、日常生活での会話

  により近いダイアローグにしても、本研究と同様、タスクによる影響は見られるのかも知りたいと

   思った。それらを知るためには、やはりより多くの調査と分析が必要だと感じた。

CELTの成績によって2つのグループに分けはしたが、今回熟達度に差はなく、同じレベルのグル

  ープを2つ作って検証することとなっていた。どの熟達度においてもテキストによる影響はなく、

   タスクによる影響はあるのか、その観点から改めて検証するのも面白いと思った。

DESMC2OE2DESMC3OE3

  のみタスクの違いによる影響が見られなかった

   原因について、In'nami (2001)では明らかにされ

   ていなかった。ここで私が考えた原因として、

   DESの方がARGよりも語数が多いのにもかか

   わらず、話す速さが早かったからではないかと

  いうことを挙げる。もし協力者である学生たち

   が普段からリスニングに慣れていなければ、話

   す速さはゆっくりの方が聞きやすいと思うこと

  に加え、話すスピードが速いほど音の同化とい

   った音声言語の特徴も起こりやすいのではないかと考えた。