![]() |
2020年度 英語教育学Ⅶ |
Chapter 15 Tests
for younger learners
M.K
■ここ数十年の間に、世界の多くの地域で小学校での外国語学習が一般的になってきている。
■この章では、子供のためのテストの一般的なアプローチやテクニックを提案していく。
General approach
Q. まず、そもそも子供にまで英語(外国語)のテストを行う必要があるのか?
A. すべての子供がテストをする必要はない。例えば、ノルウェーでは、英語の学習が非常に上手くいっていると言われるが、実際、13歳までの子供には正式なテストは行われていない。
Q. では、子供にはテストがいらないのか?
A. できたかできなかったかを判断をするためには、共通の基準が必要であるので、テストする意義はある。しかし、無神経で不適切なテストによって、子どもたちの学習や学習態度に悪影響を与える可能性を考えると、テストすることの不安は大いにある。
■Rixonが2013年に発表した64カ国の小学校における英語教育に関する調査結果によると、子供がテストを受けることに高い評価がされている。例えばバーレーンやカメルーンでは、子どもたちは小学校の終わりに、どの中学に進むかを決めるために英語のテストを受ける。中には、このテストの結果をもとに、中学に入学できるかどうかを判断するケースもある。
■ポジティブに考えれば、子供たちがテストを受けることで、評価に対する積極的な態度を育み、評価の価値を認識させる機会になると考えられる。
Q. では、子供にテストをさせる際に何に留意すべきなのか?
A. ①「テストでうまくいかなかったら悪いことが起きる」という感情を抱かせない(脅さない)こと。
②テストの結果について常にフィードバックをすること。
・フィードバックは即時かつポジティブであるべき。(結果による士気低下の可能性を減らす)
・どのような基準で評価されるのか、学習者に明確に伝える。
・学習者に挑戦を促し、何らかの形で(達成可能な)行動を求めるものであるべき。例えば、フィードバックに基づいて子どもたちに何かを書き直してもらうことで、子どもたちが学習の進歩を実感できるようにする。
③自己評価を教育プログラムの一部とすること。そうすることで、子どもたちは自分の進歩を確認する習慣を身につけることができ、学習全般に役立つことで知られる能動的な学習者への道を歩むことができる。
■教師は、子どもたちが最高のパフォーマンスを発揮できるような環境を作るためにあらゆる努力をすることが大事。そのためには、子どもたちが知っている親身な教師が、子どもたちが慣れ親しんだ環境でテストを行うべきである。
■また、子供の場合は、自分が何をしなければならないかを最初に理解させることが重要である。
■このような観点から、テストは子どもたちがクラスで経験したものと同じ形式であることが望ましい。それができない場合は、テストの最初に練習問題を用意したり、子どもがやるべきことのモデルとなる例題を1つか2つ用意したりする。また、子どもたちが自信を持って難しい問題に取り組めるように、テストの最初に簡単な問題を用意することも重要である。
Specific test features
■以下では、子供を対象にしたテストに必要な特徴を述べていく。
①子供は注意力(集中力)が弱い ➡ テストは長くしない。個々のタスクは短く、多様であるべき。
②子供は物語や遊びが好き ➡ テストに夢中になってもらうために、マンガやパズルに出てくるような言葉遊びのようなゲームや、くだらない要素を含んだストーリーやアクティビティも必要。
③子どもたちは、魅力的な字体、色、写真、ビデオによく反応する ➡ テストには可能な限りこれらの特徴を盛り込むべき。多肢選択問題の選択肢に写真等を使ったり、タスクの指示をさらに説明するために、視覚的なサポートとして写真やビデオを使用したりこともできる。タスクをこなすのに必要でない場合でも、テストの敷居を低くするために絵を入れることもある。
④最近の子供の多くは「デジタルネイティブ」 ➡ デジタル技術を使った課題も使いやすい。例えば、タブレット端末を使えば、コンピュータゲームでお馴染みの「クリック&ドラッグ」などの機能を使って、魅力的でインタラクティブな課題を作ることができる。
⑤子供は、第一言語も認知能力もまだ発展途上 ➡ タスクは、テストを受ける子供たちが第一言語で快適に処理することができるものでなければならない。Hasselgreen(2016)では、CEFRの各レベルにおいて、様々な年齢の子どもたちが満たすことが非現実的な基準を特定している。例えば、B1レベルは、「抽象的で文化的なトピックについて考えを述べることができる」「1つのアイデアの中の主要なポイントを説明することができる」など、いずれも8~9歳以下の子どもには一般的に見られない認知能力を必要としている。
Recommended techniques
■以下では、特に子供に適していると思われるテクニックを中心に紹介する。しかし、これまでの章で紹介したテクニックが決して適切ではないというわけではなく、子どもたちの年齢が高ければ高いほど、大人に使われるテクニックによく反応する可能性が高くなる。
Techniques to test listening
☆Placing or identifying people,
objects, and actions
・画面にある4つの物を、部屋に適切に配置するというタスクである。例ではデジタル仕様だが、紙でも線を引かせるなどして利用することができる。
・質問と3つの絵を見た後に、短い会話を聞いて、正しいボックスにチェックを入れる。
☆Identifying and coloring objects in
a line drawing
このタイプの課題は、デジタルでも、紙と色鉛筆を使っても実施できる(“Cambridge
Young Learners English Test”より)。
子どもたちは、同じ絵を見ている大人と子どもの会話を聞く。
例題を聞いた後、子どもたちはこのように聞く。
A: Can I color one of the plants too?
B: Which one? The one with the round leaves?
A: Yes. I like the one with the round leaves the most.
B: Alright. The color is blue.
A: OK. I like that color.
Technique to test reading
☆Multiple choice
読解力テストの多肢選択問題に画像を使用することで、子どもたちは2つの文章を処理しなくても、1つの文章の理解をすれば回答できる。(子どもたちは文章を読み、関連する絵をクリックする。)
以
多肢選択法は、会話やインタビュー、ディスカッションを記録する際にも使うことができる。
(言われたことに対する最も適切な反応を選ぶタスク)
年齢の高めの子供(小学生高学年?)の場合は、次の例のように、読解の項目が長い文章にするのも可。
☆Definitions
簡単な定義問題(単語とその定義を結び付けるような問題)は、多肢選択式リーディングテストの項目の基礎とすることができる。
推測による正解の可能性を減らすために、1つの項目に複数の定義を含めるのがよい。
定義は正式なものでなくても構わない。例えば、ペットは「家で飼っている動物」と定義してもよい。
Techniques to test writing
☆Anagram with picture
語彙と綴りをテストするために、子どもたちに「パズル」を提示する方法がある。
☆Cartoon story
一連の漫画を見て、シンプルなストーリーを語る。
☆Gap filling with pictures
物語のような文章が提示され、その中には空欄がある。それぞれの空欄の上には、欠けている単語の絵が描かれている。
文章が簡単なものであれば、ライティングのパフォーマンスにリーディング力が影響を与えることはないだろう。
☆Information transfer
1週間(7日間)の天気を、日にちの名前と、雨、太陽、雲、雪の記号を使って表した表があり、その下には、次のような文章が書かれていて、子どもはその文を完成させる。
Techniques for testing speaking
子供へのスピーキングのテストでは、子供たちがリラックスできるようにウォームアップが必要である。幼い子供の場合は、最初からおもちゃや人形を登場させるとよい。
・自分自身や家族についての簡単な質問をする。
・ある場面が描かれたカードを子どもに渡し、指さして、何の色か、何をしているかなどを教えてもらう。
・よく似ているが異なる2枚の絵を子どもに与える。子どもには、その絵の違いが何かを言ってもらう。
・物語を伝える短い一連の絵を与え、子供に物語を完成してもらう。
・絵のセットを提示する。それぞれのセットの中に、「属さない」絵が1枚ある(例えば、服の絵が3枚、ベッドの絵が1枚というようなもの)。子供は、「属さない」絵を特定し、なぜそれが他の絵と違うのかを説明する。
また、子どもたちが仲間とどれだけうまくやりとりできるかを見たい場合に役に立つテクニックもある。
・2種類の絵がある。それぞれの子供には3枚の絵が与えられ、共通の絵が2枚、異なる絵が1枚となっている。順番に質問をしたり答えたりしながら、どの絵が共通しているかを見つけていく。
・2枚の絵(AとB)があり、それぞれ違う絵だが、同じものがいくつも描かれている。片方の子供は自分の絵の中にある物を言い、もう一人は自分の絵の中にその物があるかどうかを言う。両方の絵に描かれているものを指定された数だけ見つけるまで、この作業を続ける。
・子どもたちに情報が書かれたカードを渡す。どちらのカードも、情報は不完全。子供たちはお互いに質問をして、最終的にすべての情報を得る。例えば、予定の入っていない日記や、授業の入っていない時間割などがある。
Reader activities
1. Find Rixon's survey online, using the
following search terms 'Rixon survey British council young learners'. Look at
the levels young learners are expected to reach at the end of primary school in
the following countries: Colombia, Czech Republic, and Denmark.
Ask the same question about your own
country or a country with which you are familiar.
日本➡なし
コロンビア➡CEFR A2レベル
チェコ➡CEFR A1 レベル
デンマーク➡CEFR B1レベル
フィンランド➡CEFR A2レベル
フランス➡CEFR B1レベル
クロアチア➡CEFR A2レベル
メキシコ➡CEFR A2レベル
インド➡なし
インドネシア➡なし
中国➡あり(独自の基準が設けられている)
2, Look at the following activities taken
from Power Up (Nixon and Tomlinson, 2018). These were not originally devised as
test tasks. What changes, if any, would you make to them to create test tasks
that will be reliable and valid?
この問題では、絵だけでは単語が推測しにくいのもあるので(特に7の絵)、単語を書く欄に、頭文字だけ書いておいたり、母語も書いておいたりすると「そもそも何を指すかがわからず答えられない」状況を回避できると考える。
Discussion points
①In Japan, foreign language classes for 5th
and 6th graders are evaluated numerically, while foreign language activities
for 3rd and 4th graders are evaluated by writing.
What is important to keep in mind when
assessing by writing?
(日本では、5,6年生が行う外国語科では数値による評価が行われていますが、小学生3,4年生が行う外国語活動では文章の記述による評価が行われています。では、記述による評価で留意すべき点は何だと思いますか?)
②According to data from the British
Council, several countries have set a goal of achieving CEFR level by the time
students graduate from elementary school. In Japan, we don't have a clear
target level, but do you think it would be better to set a target level of
English to be achieved? If so, what level do you think we should aim for?
(British Councilのデータによると、小学校卒業までにCEFRレベルを達成目標としている国もいくつかあります。日本では明確に達成レベルを定めていませんが、達成すべき英語レベルを定めた方がいいと思いますか?また、その場合、どのレベルを目指すべきだと思いますか?)
ちなみに...
CEFR A1... 英検3~5級、TOEIC120~225
CEFR A2... 英検準2級、TOEIC225~550
CEFR B1... 英検2級、TOEIC550~785
CEFR B2... 英検準1級、TOEIC785~945
CEFR C1... 英検1級、TOEIC945~