剽窃とはなにか



 これは、教員の立場から主に本学の学生さんへのメッセージなのですが、みなさんは「剽窃」(ひょうせつ)ということがどういうことか、ご存じですよね。アメリカなどの大学では、他人の見解を自分の見解であるかのように剽窃した答案、レポートなどを提出したことが発覚した場合、当該科目が0点なのはもちろん、退学も含めた懲罰の対象になります。学問に対する基本的姿勢に問題があり、大学で学ぶ資格がないということです。
 日本では、<自分>の考えを表現する権利や責任に対する意識が希薄で、レポートなどを見ていても、人文系の場合とくにそうだと思うのですが、どこかから出典を明記せずにひっぱってきたり、適当に加工して自分の言葉にしたと思われる文章を目にすることがあります。そうすることに罪の意識はなく、むしろ「かっこいいだろ! どうだ!」と言わんばかりです。私も、単に写しただけであることが丸わかりの場合には厳しい評価を下してきましたが、本人の論旨のなかにうまく収まっているような場合は大目にみることもありました。その態度が甘いことを最近思い知らされました。本学の橋本康二先生は、おかしいなと思ったら、インターネット等、膨大な労力を惜しまず調査し、「剽窃」の証拠を突きとめて断固たる態度で臨んでいることを知ったからです。その教育と学問に対する誠実さに心を打たれ、自分の不誠実さを思い知ったしだいです(ちなみに、ホームページ開設にあたって橋本先生の協力を得ています。この点でも感謝です)。
 たしかに「剽窃」というものは、カンニングと同様、ばれなければすむ問題ではあります。したがって、これは、根本において、文章を書く人の<プライド>(真の意味での)の問題だと言わざるをえません。自分の名前で公にする「言葉」には責任と自信をもってほしいと切に願わずにはいられません。

 (他人の言葉を部分的に引用することがわるいわけではありません。出典等が明確であれば、問題はありません。自分の言葉をそこから明確に区別し、どれだけ輝かせることができるかが勝負なのです。そういう意味では、「sonohoka」のページに置いた私の雑文の中には、中島義道氏や宮台真司氏の影響を濃厚にうけて飲み込まれていると言われてもしかたないものがあり、褒められた状態ではありません。ただ、援用や紹介を正面から告白していますし、引用文以外の「言葉」には、どこから何を聞かれても責任をもてる状態であることで勘弁してもらえないかというところです。しかし、いくら責任をもって説明できるとはいっても、「言い回し」において、どこからが私のオリジナルかが不分明であることは否めません。事柄を説明するのに最も適切と思われる表現を採用することを優先した結果ですが、文章のオリジナリティという点では、人のことを言えないと自覚しております<(_ _)>)。




海外ドラマ『フェリシティの青春』(Felicity)第1シーズン第6話「すれ違う想い」(Cheating)より


 アメリカで1998年から放送されていた"Felicity"というドラマは、親の敷いたレールで名門スタンフォード大学へ医学を学ぶために進学することが決まっていたカリフォルニアの優等生フェリシティ・ポーターが、高校時代の憧れの同級生ベンを追って、はじめて自分の意志で急きょ格下のニューヨークの大学(NYUがモデルらしい)へ進路を変え、単身のりこんだ都会で様々な人と出会い、恋愛、友情、進路に悩みながら成長していく物語です。登場人物の履修科目まで詳細に示され、試験前に24時間図書館にこもる姿や、人気のゼミに入るための苦労や寮生活など、等身大のアメリカのキャンパスライフがリアルに丁寧に描かれ興味深かったのですが、その第6話で「剽窃」がテーマになっていました(原題の"Cheating"はずばりそのままですね。邦題の付け方には疑問が・・・)。
 この回では、たしかベンのパソコンが不調だったため、書き上がった彼のレポートのファイルをスペルチェックのためだけにフェリシティが預かるという展開だったと思います。ベンのレポートを読んだ優等生フェリシティは、よかれと思って無断で手を加え、そのまま印刷提出してしまいます。授業中にレポートに関する質問をされたベンは、当然答えられるはずもなく、剽窃の疑いを掛けられることになります。フェリシティに真相を告白され激怒したベンはフェリシティの援助を一切拒絶し、退学がかかった審問会にたった一人で臨むのですが・・・というストーリーです。ベンはフェリシティに比べれば成績優秀とは言えないのですが、みずからの<プライド>はしっかり守ろうとしていますし、審問する教師たちも真剣そのものです。パーティや恋愛やバイトなどにも忙しいアメリカの大学生ですが、同時に学問に対する厳しい姿勢も貫ぬいているのだなと痛感しました。日本の大学も、こういう厳しさは見習っていいのではないでしょうか。


*ちなみに、第4シーズンの第77話「まさかの盗作」(The Paper Chase)では、フェリシティ自身が締め切り間近にもかかわらず美術史の論文に集中できず(またもベン絡み)、悪友ミーガンにそそのかされて過去の優秀論文を写してしまい、教授に「優秀な論文だったので学生新聞に送った」と言われて窮地に陥るようです。私は、ちょうどWOWOWを解約したので、残念ながら、このエピソードは未見ですが、1年生のときの先の事件で「剽窃」には懲りているはずのフェリシティがなぜ4年にもなってこんなことをしてしまったのでしょう? アメリカの大学では締め切りも成績評価も厳格に適用されるからでしょうか? ともあれ、このように何度も「剽窃」、「審問会」、「退学」という話題が取り上げられるということは、「剽窃」ということがアメリカの大学でもつ重さをよく表わしていると思います。