現代思想の基本問題A・B
橋本康二(哲学・思想学系)
木曜4時限 2A203教室
授業の目的
現代思想において、知識・言語・行為という三つの基本問題をめぐってどのような議論がなされているのかを、自然主義的見解と反自然主義的見解との「果てしない戦い」という観点から学んでゆく。本授業を履修した学生は、哲学は人生論ではないこと、哲学の議論は感情ではなく理屈(論理)によって進められていくことを理解するようになるであろう。また、(哲学に限らず様々な分野に於いて)論理的に議論を構築するための方法を身につけることができるであろう。
授業の進め方
門脇俊介、『現代哲学』(産業図書、1996)を教科書として使用する(教科書売場で販売中、品切れの時は一般書店で入手すること)。授業では、教科書の記述を解説する講義を行うが、同時に、教科書の内容に関して受講者に対して質問し、答えてもらう。受講者の側からの質問・問題提起も歓迎する。クラス全体で討論するような状態になることが目標である。したがって、教科書を十分予習して(ノートを作って)授業に出席することが必須である。
授業計画
4/12 (オリエンテーション) 教科書序論:自然主義と反自然主義
4/26 教科書第1章:普遍、知識、主体
5/10 教科書第1章:表象と信念
5/17 教科書第2章:知識の定義、ア・プリオリとア・ポステリオリ、必然と偶然
5/24 教科書第2章:プラトニズムと心理主義
5/31 教科書第2章:規約主義
6/7 教科書第3章:素朴実在論、表象主義的実在論、観念論
6/14 教科書第3章:基礎づけ主義
6/21 教科書第3章:整合説
9/6 教科書第4章:外在主義(ローティーとフーコーは省略)
9/13 教科書第5章:意味の観念説、言語論的転回
9/20 教科書第5章:伝統的論理学
9/27 教科書第5章:フレーゲの論理学
10/4 教科書第5章:文脈原理、意味と意義(フッサールとソシュールは省略)
10/11 教科書第6章:前期ヴィトゲンシュタインの像の理論
10/18 教科書第6章:真理関数理論、意味の検証理論
10/25 教科書第7章:後期ヴィトゲンシュタイン
11/1 教科書第7章:オースティンの言語行為論
11/8 教科書第8章:クワインの懐疑論(デリダは省略)
12/6 教科書第9章:心身問題、志向性、感覚質
12/13 教科書第9章:古典的二元論、性質二元論
12/20 教科書第9章:行動主義
1/10 教科書第9章:同一説
1/17 教科書第9章:機能主義
1/24 教科書第10章:古典的意志理論とライルの批判
1/31 教科書第10章:行為と記述
2/14 教科書第11章:アンスコムの反因果説とデイヴィドソンの因果説
宿題
以下の問題を宿題として課す。
●5/10提出:教科書26頁の問題5(挙げられている信念を自分が持っていることを仮定する。図を書くのではなく、論述すること)。
●5/17提出:教科書25頁の問題1(*印の問題にも答えること)。
●5/31提出:教科書40頁の問題1と問題2(知識・信念の文脈に限定して考察すること。「後天的免疫不全症候群」などの例を考察してはいけない)。
●6/21提出:資料Aを読んで議論の内容を紹介・解説せよ(単なる翻訳は不可。何が問題になっており、それがどのように論証されているのかを分析し自分の言葉で述べること)。
●9/27提出:(1)三段論法「すべての動物は生物である。すべての人間は動物である。ゆえに、すべての人間は生物である」が妥当な論証であることを証明せよ(ベン図を援用して)。(2)三段論法「ある学生は女性である。ある人間は学生である。ゆえに、ある人間は女性である」が非妥当な論証であることを証明せよ。(3)後者の三段論法が一見して妥当であると思われる理由を考察せよ。
●10/11提出:「∨(または)」、「∧(かつ)」、「→(ならば)」の真理表を論理学の本で調べよ。つぎにこれら三つの語の意味を文脈原理の立場に立って説明せよ。
●11/1提出:資料Bを読んで、オースティンが「不適切性(infelicity, unhappiness)」をどのように分類しているか解説せよ(単なる翻訳は不可。いくつに分類しているか、その名称は、特徴は、具体例は、などを読みとって論述すること)。
●12/13提出:デカルトの著作ないしデカルト哲学の解説・研究書を読んで、デカルトの心身二元論について説明せよ(単なる引き写しは不可。使用した文献を明示すること)。
●1/10提出:教科書156頁の問題1
●1/31提出:教科書170頁の問題1(「身体運動のない行為はある」という立場に立って論じること。ただし、意志する、考える、などの心的行為は除外して考えること)。
提出に際しては以下の注意を厳守すること。指定された提出日の授業時間中に提出すること。コンピューターで印刷するときはA4用紙に横書きで印字すること(感熱紙の使用は禁止する)。手書きの場合はA4横書き原稿用紙(800字詰か400字詰)にインクで丁寧に記入すること(鉛筆の使用は禁止する)。2枚以上になるときは糊もしくはステープラー(ホッチキス)を用いて綴じること(ペーパー・クリップの使用は禁止する)。授業科目名、提出者の氏名を明記すること(書式は自由、表紙も付けなくて構わない)。電子メールによる提出は禁止する。以上の注意を守らずに提出されたものは受け取らないので、十分気を付けること。なお、資料A、Bは適当な時期に授業中に配付する。
試験
6/28、11/15、2/21に実施する。(いずれも4時限目。11/15と2/21は授業期間中であることに注意。したがって、試験期間中の11/22と3/7は授業も試験も行わない。)時間の制約があるので、主に授業内容を理解しているか否かを問う。参考までに過去に出題した問題を挙げておく。
*ア・プリオリな知識に関する、心理主義と規約主義の類似点と相違点を述べよ。
*あるひとが錯覚ないし幻覚によって間違った信念を抱いているとする。観念論の立場を取ったとき、この事態をどのように説明することができるであろうか。錯覚ないし幻覚による間違った信念の例を具体的に挙げて、説明せよ。
*言葉の意味を心の中の観念(イメージ)とする考え方の欠点を述べよ。
*「Pのときかつその時に限りQ」(一般にP⇔Qという記号が使われる)という文における「⇔」の意味とは何か、を文脈原理を使って述べよ。ただし、P⇔Qの真理表を書いた場合、その結果は、(P→Q)∧(Q→P)の真理表と一致するものとする。
*デイヴィドソンの行為の因果説について説明せよ。
*行為をそれ以外の出来事から区別するための特徴とは何なのかを、具体的な行為の一例を挙げて、述べよ。
6/28と2/21の答案は第二学群の事務室前の「レポート返却ボックス」で返却するので各自で持ち帰ること(試験終了後2週間以内に返却する予定、11/15の答案は12/6の授業中に返却する)。
成績評価
授業への参加状況(討論への貢献度)20%、宿題35%、試験45%の割合で評価し、総合で60%以上の得点を獲得すれば単位を認定する。ただし、3分の1以上欠席した場合は評価の対象外とする(履修放棄とみなす)。
オフィス・アワー
木曜3時限(12:15-13:30)を授業に関する質問・相談に応じるための時間(オフィス・アワー)として設けているので、橋本研究室(人社棟A819)に予約なしで訪問しても構わない。それ以外の時間でも可能な限り質問・相談に応じるが、電話(53-4263)、電子メール(khashimo(アットマーク)logos.tsukuba.ac.jp)、ないし口頭で予約を取る必要がある。なお、電子メールでの質問は受け付けない。
諸注意
(1) AとBは別科目だが両方を履修すること。
(2) 標準履修年次の指定に従うこと。
(3) 途中入・退室は禁止する。
(4) 私語は禁止する。
(5) 携帯電話、PHS、アラーム付き時計などで音をたてることは禁止する。
(6) 授業を欠席したことによって受講者に生じた問題に関しては、一切取り合わない。
(7) 2/7は大学院入試のため休講の予定だが、変更があるかもしれない。