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1999.9.18  第1回日本語音声教育方法研究会資料

プロソディーグラフを用いた日本語音声教育

−韻律指導用カリキュラムについて−


松崎寛(広島大学)・築地伸美・串田真知子(愛媛大学) ・河野俊之(同志社女子大学短期大学部)


1.体系的音声教育

 文法教育や漢字教育と同様, 音声教育も「教育」である以上,単発的な発音矯正の繰り返しではなく,「なにを」教えるかのシラバスや, シラバスおよびカリキュラムを整備し,体系的指導方法を確立する必要がある。 「どう」教えるかの教授法や教室活動の基本方針の決定とともに重要なのは, 「いつ」教えるかである。この「いつ」には, @音声教育がコース全体に占める時間配分つまり頻度の問題と, A音声教育の開始時期,および諸項目の提出順の問題がある。

@頻度 

 発音は, 継続的に指導すべきだと言われる。発音担当教師が週に1回50分授業を行うよりは, 5日×10分ずつに散らして毎日行う方が良いし,発音の時間だけ孤立しないように, 通常授業時間にも復習して,発音に関する意識を高めることが望ましい。そのためには, 発音練習の例文に主教材の文型や語彙を有機的に取り込み,文法・語彙指導内容と連動させることが重要である。 そうすることで,学習者に有益でない語を排除し,有意味な文脈での練習で学習意欲をひき, 発音練習を運用能力を高めるものとして活用できる。文型はプロミネンスやイントネーションと深く関係し, 語彙は用言や複合語のアクセントに深く関係する。 そこで,教科書を韻律要素から整理し,文型や語彙と音調の関係を明らかにする研究が必要となる。

A提出順

 発音は, 早い時期に行わないと矯正が困難になると言われる。しかし,「初級コースの最初の数日間, 毎日発音指導をまとめてやってしまうカリキュラムの組み方はよくない」(村崎1990 p.74)ので, 何をどんな順で教えたら良いかという提出順の議論が必要となる。

 通常は,仮名導入と同時に母音・子音の発音や拍感覚について指導し,その後, 特殊拍の拍感覚(→アクセント)→終助詞のイントネーション(→プロミネンス)・・・ のように進む傾向が強い。これは,拍→語→文節→句→談話という,「小→大」の方針をとる提出順だと言える。 しかし,単音から韻律へ進む提出順は,妥当な教育方法なのだろうか。

 VT法では,「ひとたび言語を構造化する主要な要素であるリズム・ イントネーションが定着してしまえば,マクロからミクロへと言語の構造を積み上げられる」と考え, 学習者の心理的抵抗をなくし,聴き取り・再生力を高めるには,リズム・イントネーションから指導すべきだと主張している (ロベルジュ・木村1990)。つまり,局所よりも全体構造に着目した,「大→小」の方針をとっている。 土岐・村田(1989)は,「単音レベルの練習が大切でないとは思わないが,少しでも早くコミュニケーション能力を身に付けるために」, リズムの基本→プロミネンス→イントネーション→複合練習,と進む中級向け音声教材を作成している。

 この試みは,体系的シラバスを示した点で先駆的なものだが, カリキュラムの整備という点から言えば,さらに細かい議論が必要であろう。文法教育であれば, 「格助詞」のすべてを一気に学習させたりはしない。音声教育でも,「アクセント」「リズム」「プロミネンス」・・・ などの章を入れ替えるだけではなく,細分類した項目ごとに練習方法や例文を練り,学習段階に応じて, 諸要素をより細密に,バランス良く教育していく方法を考えなければならない。

 

2.韻律の表示方法

 指導の際,何らかの視覚的補助を与えることは有効だと言われるが, 韻律の表示には,特別な工夫が必要となる。An Introduction to Modern Japanese (Mizutani & Mizutani 1977) は

のように,Japanese:The Spoken Language (Jorden with Noda 1987) は,

のように韻律を表示している。

 このような局所的韻律表示方法は,約束ごとが多く,記号化して一文上に示すと, 抽象的でわかりにくいという問題がある。そもそも,アクセント,イントネーション,プロミネンス・・・ 等は,基本周波数の時間的変化を機能から細分類したものだが,各々を記号化した場合, 機能別理解を深める点というでは有効だが,ともすれば「大」の表示が疎かになる。

 串田他(1987)は,J.&G.Capelle(1969) La France en Direct等を参考に,音声分析機で抽出した日本語のピッチ曲線をわかりやすく視覚化した 「プロソディーグラフ(以下,PG)」を開発し,上記のような核表示より再生に有効な方法であることを,実験で確認した。

プロソディーグラフ
図1 ピッチ曲線および波形とプロソディーグラフ

 しかし,PGは「大」の表示には向くものの,どのような表記法を用いても, 見せるだけで発音が良くなるわけではない。大切なのは,すべての例文に韻律を表示することより, 韻律の諸規則を学習者が獲得できるように,わかりやすく提出していくことである。

 

3.ヤマを教える

 韻律の「大」にあたるものを, ここでは,「句頭のピッチ上昇から次の立て直しに至るまでの音調のカタマリ」と定義する。 この「カタマリ」は,先行研究における音調の「句」(川上1957),「声だての成分」(藤崎・杉藤1977), 「際だち」(大坪1987),「(VT法の)イントネーション」(ロベルジュ・木村1990)等に近い概念だが, 「強調や上昇イントネーションによるお飾りのつかぬ限り,その音調曲線が一つの山の形をなす(川上1957)」ので, 学習者にわかりやすく示す意味で,「ヤマ」と呼ぶ。

 図1の/オハヨーゴザイマス/はヤマ一つ, /ーゾ|ヨロシクオネガイシマス/はヤマ二つである。 図2の,「京都へ行きます」には核が2つあるが,途中にピッチの立て直しがないので,ヤマ一つ。 「明るい部屋」も,ほぼ平らだ(自然減衰はある)が,ヤマ一つ。両者のヤマの形はかなり違うが, ヤマ一つであることは共通している(松崎・河野1997)。

 指導は,聴き取りを優先する。理由は,学習者の中に妥当な発音基準を作らせる必要があるのと, 最初から正しい発音を要求することで学習者が緊張するのを避けるためである。ヤマ一つの文, ヤマ二つの文をたくさん聞かせ,基準がある程度できたら,ヤマの数を当てる練習をやる。 ヤマの形の違いは,アクセント学習として後にまわし,最初はヤマの数だけに着目させる。 次に,学習者にPGを記した教材を配布し,音を聞いてペンや指でヤマ線をなぞらせる。その後, ヤマ線をなぞりながら発音させる。なお,「どうぞよろしくお願いします」には,ヤマ一つの言い方も, ヤマ二つの/ーゾ|ヨロシクオネガイシマス/もあるが, 両方とも示し,「意味は同じ。でも,/ーゾヨロシク|オネガイシマス/はダメ,と教える。

 ヤマ学習は,文の韻律イメージの大まかな把握が目標だが, 学習者が自ら文を作って発音するときは,「小」であるアクセントやイントネーションの知識が必要となる。 そこで,

 @聴き取りに重点を置き,ヤマのイメージを把握させる

 A文末をヤマとして数えないよう指示し,上昇調の音調変化は特に文末に顕著であること, 漸次上昇調の「どこですか?」は誤ったイントネーションであることを教える。

 Bヤマの上がり目と,下がり目の有無を把握させる

 Cヤマの頂点と前後の音節との関係から,アクセントの下がり目の位置を把握させる

のようにイントネーションやアクセントの教育へ繋げる。つまり, 従来の「小→大」とは全く逆の,「大→小」という過程をたどり,アクセント教育には, ヤマの頂点と前後の音節との関係を把握することが,その第一歩になると考えるわけである。

 


図2 ヤマ一つのプロソディーグラフ

 「大→小」のアプローチをとる 韻律教育では,アクセントは,拍ごとの高低配置そのものではなく, 「次拍にむけての下がり目の有無および位置」を指すと定義され, 他要素と連動して文の高低を形作る際の一要素と捉えられる。 例えば,/トモダチ/は「下がらない」「平らだ」,/イモート/は「/ト/で下がる」, /サンガツ/は「/サン/で下がる」,/マツザキセンセー/ は「/ツ/と/セー/で下がる」と教える。/サン//セー/等をカタマリとしたのは, 音の長短を特殊拍を後部とする音節と自立拍との対立で捉えるためである。

 

4.指導例

 松崎が1999年5〜8月の3ヶ月半にわたって行った指導について述べる。学習者は, 広島大学大学院の韓国無アクセント方言話者2名である。コミュニケーションにつながる音声指導を念頭に, 「ヤマ」「イントネーション(以下,イント)」「アクセント」「音の長短」等の韻律要素を初級文型と関係させ, 8課×4の教材を作成した。以下,そのうちの,ヤマ関連の項目について説明する。実際には, 課毎のバランスを考慮し,適宜,複合語アクセント規則やイントなどの練習も行ったが, ヤマ以外の説明は,紙数の都合で省略する。

●1課 文型●

・「どうぞよろしくお願いします。」(あいさつ表現のヤマ)

・「郭明遠さんです。」(中国人・韓国人の姓名のヤマ)

・「中国の郭さんです。」(非限定文のヤマ)

・「高橋香織さんです。」(日本人名のヤマ,アクセント)

・「メアリースミスさんです。」(外国人名のアクセント)

 中・韓のアクセントは頭高型なので, ヤマの形と連動させて覚えさせた。中・韓の姓名のヤマには,ヤマ二つと, 複合によるヤマ一つ(/キム/+/ジョンスク/→/キムジョンスク/)のパタンがある。 今回は両方教えたが,

 (1)姓名の切れ目が聴き取られやすくなる

 (2)中・韓はヤマ二つ,それ以外の外国人名はヤマ二つ,という関係がはっきりする

 (3)馴染みのない中・韓では,違和感があるヤマ一つもある

ので,初級学習者なら,ヤマ二つで教える方が良いだろう。

 日本人名は,まずヤマ二つを教え,下がるか下がらないか,つまり起伏式と平板式で二分してアクセントを教えた。次に,教師や友人など,学習者に身近な人の姓名でヤマを練習した。

 

下がる

下がらない

岡,甲斐,梶,関,西

阿部,小野,佐野,原,森

加藤, 黒木, 佐藤, 清水, 成田

佐々木, 鈴木, 田中, 林, 山田

高橋, 谷口, 中川, 山口, 山下

小林, 斎藤, 中村, 山本, 渡辺

小笠原,岡林,金田一,島袋

 

表1 日本人の姓のアクセント

 「中国の郭さんです」は,「〜の」文であるがヤマ二つになる。 前要素が後要素を限定しないためだ(郡1989)が,自己紹介で所属等を言うときはヤマ二つになる, と教えた。

●2課 文型●

・「なんですか」「カメラです」(疑問詞のアクセント,イント)

・「だれのカバンですか」「カナダのどこですか」(疑問詞のヤマ)

 ヤマは,意味的な限定関係とフォーカス(焦点)によって規定される(郡1989)が,フォーカスの原理を理解させるために,疑問詞の質問文から導入した。練習は,常に質問と答えをペアにした有意味な文脈で行い,質問文の疑問詞と,答えの,疑問詞に対応する箇所で,おのおのヤマができることを理解させた。そして,答えにあたる平叙文だけでも,通常,フォーカスがあたるその箇所が際立ちやすいということを教えた。具体的には次のような手順である。

 疑問詞短文の文末上昇とヤマ:「だれですか。」「加藤さんです。」

→疑問詞質問文のヤマ:「どこへ行きますか。」「カナダへ行きます。」

→文中の疑問詞のヤマ:「カナダのどこですか。」「カナダのバンクーバーです。」

          :「どこからどこまで行きましたか。」「長崎から神戸まで行きました。」

●3課 文型●

・「あの人は先生ですか」(質問文のイントとヤマ)

・「友達に会います」(動詞マス形の活用とアクセント,N+V文のヤマ)

・「いっしょに図書館へ行きませんか」(勧誘の「ませんか」文のヤマ)

 3課では,疑問詞以外の質問文を用い, 語のアクセントによりヤマの形が変化することを教えた。 最初は「佐藤さんですか。」「カメラですか。」などの頭高型の語で練習して2課との関係を持たせ, その後,起伏式や平板式の語で,段階を追って練習した。

 動詞は,主教材の提出順にあわせてマス形で導入するが,アクセント的にも型が一つなので, 活用形との対応が覚えやすい。/ます//ました/は/マ/で下がる, /ません//ませんでした/は/セン/で下がる,と核の位置を覚えさせ, 言う練習をした。ここでも,「行きますか」「はい,行きます」のように会話形式にして, 有意味な文脈の中で様々な動詞練習を行った。

 次に,以下の順で,名詞+動詞でヤマ一つになるものを練習した。

 平板式名詞+動詞のヤマ:「山田さんに会います」

→起伏式名詞+動詞のヤマ:「佐藤さんに会います」

→  名詞 +名詞のヤマ:(様々なアクセント型で)

 


図3 名詞+動詞の文のヤマ

 次に,「佐藤さんに会います。」や「誰に会いますか。」はヤマ一つだが, 「佐藤さんに会いますか。」はヤマ二つになることを教えた。このヤマの原理の説明には, 選択質問文が利用できる。「佐藤さんに会いますか。」は,答えの「会います/会いません」が聞きたいこと, つまり,佐藤さんに[会いますか/会いませんか]にフォーカスがあるので, 「会います」でヤマができるということである。

 勧誘の「〜しませんか」は,ここを際立てると否定の意味に誤解される危険性があるので, 前の句とあわせて一つのヤマで言うように指導した。

●4課 文型●

・「山田さんのネクタイ」「小さいかばん」(修飾文のヤマ)

・「恋人じゃありません」(否定文のヤマ)

 3課の発展で, 「佐藤さんに会います」のヤマ一つを,「山田さんのネクタイ」などの「〜の〜」文につなげて, 修飾文のヤマ一つを教えた。これまでの規則を組み合わせて, 「どんなネクタイを買いましたか。」「駅前のお店で売っていますよ。」のように,長い文で練習した。

 3課の質問文の「いいえ」の答え,「佐藤さんには会いません。」を利用して, 否定の「会いません」でヤマができることを教えた。勧誘表現「ませんか」の復習もした。

●5課 文型●

・「あそこに高橋さんがいますよ」(N+N+V文のヤマ)

・「テーブルの上に何かありますか」(フォーカスとヤマ)

 長い文のヤマ規則を理解させるのが目的。 まずヤマ数えを多くの文でやる。次に,4課の復習で, @「お母さんのプレゼント」「そのテーブル」等の「〜の〜」はヤマ一つ,という規則と, A「名詞+動詞でまずヤマ一つとなり,その前に『〜に』『〜で』『〜と』『きのう』等があると, それぞれヤマができる」,という規則を教えた。この規則を組み合わせ, 「あそこに|山田さんの友だちと|高橋さんがいます。」はヤマ3つになることを理解させた。

 「何がありますか」/「何か|ありますか」のヤマの違いは,2課3課の復習。

●6課 文型●

・「226-8497です」(数字表現のヤマ)

・「いえ,5時45分です」(対比強調のヤマ)

 4桁の数字を示し「数字2つでヤマひとつ」と説明して練習。 0〜9までのカードを作っておき,学習者同士で並べ替えさせて言う練習。次に,3桁の数字を示し, 「ここ(1桁目と2桁目)は2つでヤマ一つです。この数字(末尾)は,もとのアクセントです」と説明。 下1桁以外の数字を変えていろいろ言わせ,次に下1桁を変えて練習。しばらく練習した後で, 実際の電話番号簿を渡して,ペアで会話練習をさせた。

 「〜じゃなくて,・・・です。」などの際立たせの練習では, 対比強調における音圧の増幅などは,ある程度普遍的な言語現象で,発音も容易である。 どこを強調するかより,立ち上げてはいけない個所でヤマを作ってしまう誤りに着目させることが大切である。 また,ヤマの前後にポーズを入れると強調が効果的になることも教えた。

●7課 文型●

・「見たことがあります」(動詞タ形のアクセントとヤマ)

・「行くと思います」(動詞辞書形のアクセントとヤマ)

・「買わなくてもいいですか」(動詞ナイ形のアクセントとヤマ)

 マス形で型が一つだった動詞が, 辞書形で/会う/組と/買う/組に分かれることを学習するのが目的。 下がるか下がらないかの聴き取り練習の後,言う練習(「聞く」などの無声化に注意)。 その後,テ形,タ形,ナイ形の練習。「〜と思います」「〜してください」等の文型のヤマについて教え, 常に有意味な文脈で練習させた。たとえば,「見たことがあります。」はヤマ一つだが, 「見たことがありますか。」はヤマ二つになるなど。ここはかなり時間がかかった。 活用形が定着していない初級なら,さらに時間がかかるだろう。

●8課 文型●

・「私はいいですよ。行きましょう。」(敬意表現とヤマ)

・「安くておいしい居酒屋」(形容詞テ形のアクセントとヤマ)

 「いいですよ」でイントとヤマの練習をし, 優しい言い方の練習をした。「私はいいですよ。行きましょう。(ヤマ一つ,上昇調)」「私はいいですよ。 帰ります。(ヤマ二つ,下降調)」でペアができるが,目的は,意図せず後者の音調になってしまう誤りをなくすこと。

 形容詞のテ形接続は,「どんな○○ですか」「〜て〜い○○です」という会話文のモデルを示し, 練習した後,学習者に自由に組み合わせを考えてもらう活動をした。

 

5.指導の効果

 コース中,1ヶ月おきに3回,発音テストを行った。問題文は,指導中, 特に発音が困難だった16文を教材から選び(毎回半数入替),モデル音を与えてリピートさせた。 発音は教師が○×札で評価し,×でも,「ここをこう直せ」等の指示は一切与えず, 正答になるまでリピートさせた。テスト終了後,刺激回想法により,学習者の内省を確認,記録した。 その結果,

・ヤマはたいてい1回のリピートで直る

・イントと文型との対応規則は学習されやすい

・アクセントの知覚は難しく,また,正しい型を知っていても発音できないことがある

・知識として誤ったアクセント型を有していると,リピート音が聞けなくなる。 

・しかしいずれの場合も,発音自己訂正能力は継続的指導により向上する

ことがわかった。音の長短は指導時もあまり誤らなかった。リピート回数は, Aが,37→38→36とあまり変わらず,Bが,22→15→13のように減った。

 ヤマについて学習者は,「最初はアクセントだけに注目していたが, ヤマは日本語のリズムをつかむ大事な概念だ。」「韓国人の場合,語尾を上げたり強く言ったりして相手に悪い印象を与えることがある。ヤマやイントネーションの重要さを痛感した。」と述べている。また,「体を動かしてのヤマ練習は楽しい。先生が厳しいと学生は緊張してしまい不自然な発音になる。発音を間違っても恥ずかしく思わない教室環境作りが重要だと感じた。」と述べている。

 発音学習行動については,「コース開始前は発音をほとんど気にしなかったが, つねに自分の発音に気をつけるようになった」と述べている。特に発音が向上した学習者Bは, 「周りやTVの日本人の発音を,気をつけて聞く」「本当に授業で習ったように言うか,学生控え室の日本人が話すのを聞いて確認する」「自転車に乗ったり順番を待ったりする時,発音練習をする」などの発音学習行動を積極的にとるようになったと述べた。

 学習者が自律的に発音学習を行うためには,「自己モニター(学習者が妥当な発音基準を意識的にもって発音し,発音した自分自身の発音が基準どおりに発音できているかどうか自分で聴覚的に判定し,自己修正すること)」を促す活動が効果的だとされる(小河原1998)。

 コースでも,自己あるいは他者のヤマやアクセントを考えさせたり,誤り時に教師が×だけ示して問題点を考えさせるなど,自己モニターを促す練習を多く取り入れた。そのような試行錯誤を経て妥当な発音基準が形成されるのだとすれば,その場限りの「発音矯正」ではない,時間をかけて体系的・継続的に教えるためのカリキュラムを整備するべく,今後追究すべき課題が多い。また,指導時,どんな教示を与えて訂正を行うのが効果的なのか,どこまで韻律規則を与えるのが有効なのか,など,今後も実践および検証を続けていきたい。

 

【謝辞】 授業に積極的に参加し,長時間のテストに快く応じてくれた学習者ABの2人に感謝する。

【参考文献】

大坪一夫監修,王伸子・シリラック・ダーンワーニッチャクル・崔聖玉・原田哲男・閔光準(1987)『NAFL Institute日本語教師養成通信講座日本語の音声(II)』アルク

小河原義朗(1997)「発音矯正場面における学習者の発音と聴き取りの関係について」『日本語教育』92号

小河原義朗(1998)『外国人日本語学習者の発音学習における自己モニターの研究』東北大学文学部博士学位論文(未公刊)

川上蓁(1957)「準アクセントについて」『国語研究』7号((1995)『日本語アクセント論集』汲古書院再録)

川口義一(1996)「音声の指導法」『いま!日本語ボランティア「日本語ボランティア講座」(東京)』凡人社

串田真知子,城生佰太郎,築地伸美,松崎寛,劉銘傑(1995)「自然な日本語音声への効果的なアプローチ:プロソディーグラフ」『日本語教育』86号

クロード・ロベルジュ・木村牛N編著(1990)『VT法の理論と実際』大修館書店

郡史郎(1989)「発話の音調を規定する要因―日本語イントネーション論―」『吉沢典男教授追悼論文集』

土岐哲・村田水恵(1989)『外国人のための例文・問題シリーズ12 発音・聴解』荒竹出版

藤崎博也・杉藤美代子(1977)「音声の物理的性質」『岩波講座日本語5音韻』岩波書店

松崎寛・河野俊之(1997)「発音指導法が変わる」『月刊日本語』10月号 アルク

松崎寛・河野俊之(1998)『よくわかる音声』アルク

村崎恭子(1990)「発音指導の方法」『講座日本語と日本語教育』第3巻 明治書院



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